コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

ソロ首相の決意

2010-12-16 | Weblog
月曜日(12月13日)の朝に起こった出来事である。ウワタラ大統領と、ソロ首相と、それからその閣僚たちが、立て籠って執務を続けているゴルフホテルの近くで、そのゴルフホテルに至る幹線道路が突然封鎖された。封鎖したのは、バグボ大統領側の国軍に所属する、共和国防衛隊である。そして通行する車への検問を始めた。そこに、今度はゴルフホテルから、「新勢力」軍が出動して、威嚇射撃をしながら近づいてきた。検問を行っていた警官隊と共和国防衛隊は、カラシニコフ銃と軍用車両をその場に置いたまま、逃げ出した。「新勢力」軍は、放棄された銃や車両を回収して、その場はいったん収まった。

昼前になって、共和国防衛隊が再び武装を整えてやってきて、今度はゴルフホテルに向けて進軍した。そして、ゴルフホテルの付近でホテルを警護していた国連平和維持軍との間で、睨み合いの状態になった。この事態に、チョイ国連代表と、政府軍の軍参謀司令官が駆けつけて調整を行い、「新勢力」軍と共和国防衛隊との間の軍事的な緊張には、ひとまずは始末がつき、双方矛を収めた。

ひとまずは始末がついたとはいえ、バグボ大統領とウワタラ大統領、両方の大統領の、それぞれの軍隊どうしの間で、発砲を伴う睨み合いが起こったのである。一歩間違うと、交戦になっていたかもしれない。私をはじめ大使たちは肝を冷やしたし、それ以上に市民の人々は恐ろしく思ったことだろう。

そもそものこと、コートジボワールの南北分裂(2002年)の結果、南半分のコートジボワール国軍(および警察・憲兵隊)と、北半分で反乱を起こした「新勢力」軍の、2つの軍隊が国内で対峙することになった。そののち、南北の統一を図り、大統領選挙を実施する過程で、独立以来駐留するフランス軍(「リコルヌ軍」と称する)と、安全保障理事会の決議によって派遣された国連の平和維持軍がこれらに加わると、コートジボワールの国内には、国軍、「新勢力」軍、リコルヌ軍、国連平和維持軍の、4つの軍が並立存在するという、まことに珍妙な事態になったのである。リコルヌ軍と国連平和維持軍は、中立部隊と呼ばれた。なぜなら、南北対立の間に入って、両方から中立である軍隊だからである。

ところが、先日の大統領選挙の結果、ウワタラ大統領が当選したということを、フランスも国連も宣言した。その一方で、バグボ大統領は、憲法院の判断を理由に、宣誓式まで行って大統領に留まり続けている。国軍は、バグボ大統領の統帥のもとにある。一方で、リコルヌ軍と国連平和維持軍は、ウワタラ大統領を正統と考えるフランスと国連の立場に従うことになる。これまでの、国軍と「新勢力」軍が対立を起こさないように、中立部隊であるリコルヌ軍と国連平和維持軍が間にはいって、いわば審判役を務めるという関係は、大きく変わってしまった。バグボ政権側は、もはやリコルヌ軍も国連平和維持軍も「中立部隊」ではない、と言っている。

そのような中で、ソロ首相がまことに厄介なことを言い出した。軍事的な緊張事件があった同じ月曜日(12月13日)の午後、ソロ内閣は次のことを決定したと発表した。
(1)木曜日(12月16日)に、ソロ内閣は全員で、国営放送局(RTI)まで「行進」して、ソロ首相が任命した新局長をその職務に就かせることとする。
(2)金曜日(12月17日)に、ソロ内閣は全員で、プラトー地区の首相府の建物において、閣議を開催する。

そんな馬鹿な、というのが第一印象である。たしかに、国営放送局はバグボ政権の手にあって、だからテレビ報道では、バグボ大統領に有利な放送ばかり流している。偏っている報道に対して、ウワタラ政権が国営放送局に対して怒りを感じていることは理解できる。しかし、そこに「行進」して乗り込んでいったからといって、はいそれでは明け渡しましょうということになるはずはない。放送局は憲兵隊によって、厳重に防護されている。「行進」が放送局に到達すれば、その憲兵隊との間で衝突が起こるだろう。

しかも、ソロ首相を筆頭に内閣全員が加わる「行進」を、「新勢力」軍が護衛するのだ、という。そうすると、憲兵隊と衝突するのは、「行進」に参加する人々だけではない。「新勢力」軍も、憲兵隊に正面からぶつかるのだ。2つの軍事組織がぶつかり合う。つまりは、発砲・流血ということになる可能性が高い。

これは何としても避けなければ、とチョイ国連代表は言う。
「国連平和維持軍の部隊には、一般市民を守るという任務があります。だから、「行進」に参加する一般の人々を守るため、国連平和維持軍もいっしょに、つまり一般市民と「新勢力」軍と、いっしょに移動しなければならないということになります。」
なんとも大げさな「行進」になりそうだ。
「国軍や憲兵隊は、「行進」を国営放送局に近づけないように、経路の途中で妨害をしようとするでしょう。それでも「行進」は前に進もうとするでしょうから、「新勢力」軍はそれを護衛するために前に出て、国軍・憲兵隊との間で衝突が起こるのは必至です。そうすると、国連平和維持軍も、「行進」に参加している市民を守るために、交戦に加わらざるを得なくなる。」
たしかに、そんなことになると、たいへんな事態である。

チョイ代表だけでなく、私たち大使連中のうち、数カ国の大使が、チョイ代表の意を受けて、ゴルフホテルに赴いて、「行進」を主唱するソロ首相や、ウワタラ大統領の説得を試みた。せっかく、ここまで流血や暴力を伴う大規模な騒擾を抑えながらやってきたのに、この「行進」が軍隊同士の衝突や、流血の惨事を巻き起こしたり、この「行進」をきっかけに、市内各地で暴動が起ったりしたらどうだろう。ウワタラ政権に対する、国際社会の一致団結した支持が、陰ってしまうだろう。そう言って、ソロ首相たちに「行進」を思いとどまらせようとした。

ソロ首相の決意は固かった。「行進」は、ソロ内閣の閣僚と、市民による、平和な示威行動だ。ソロ首相はそう主張した。われわれは、ゴルフホテルを出て、バグボ一派が政権に居座っている事態に対する、抵抗の声をあげなければならない。ソロ首相は、この「行進」が局面打開の重要な一手になると考えているようであった。説得は成功しなかった。

国軍・憲兵隊側は、前日の夜から、市内各地に人員を配置して、「行進」に参加しようと集まる人々を追い返す構えである。夜8時のテレビ報道では、参謀本部の将校が声明を読み上げ、「行進」を非難し、人々におとなしく家に留まるように訴えた。そして、その中で、チョイ代表のことを、あたかも「行進」の首謀者のように非難した。違う、チョイ代表は、「行進」をやめさせようとしてきたのだ。バグボ政権側は、故意に事実をまげて国連を貶めようとしているのか、本当のところを知らないのか。

ソロ首相の決意と、それを阻止しようとする国軍・憲兵隊側の構え。国連も、大使連中も、どうにもできない。不安と緊張のうちに、当日(12月16日)の朝を迎えた。

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