コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

小国という優位

2010-11-19 | Weblog

トーゴには小国だという優位があるのですよ、というふうに、私はトーゴの人に言う。小国だから、国がまとまりやすい。領土が大きく人口も多い国だと、あちこちで問題が起こる。アフリカは民族が入り乱れているから、大きな国になればなるほど、民族問題などで苦労する度合いが大きくなる。しかし、小国であればそういう悩みは比較的少ない。

それに、小国であるほど、法秩序や経済制度を構築しやすい。つまり、全国に共通した標準を作りやすい。こうした制度が整っていることは、その国で貿易や投資など、企業活動を展開する際に、決定的に重要なことである。教育による人的資源の育成や、基幹インフラ整備も、比較的に容易かつ迅速に達成できる。

私はアジアの発展の例を引く。アジアの繁栄は、香港やシンガポールなど、まず小国から始まったのですよ、と話して、トーゴの人々を励ましている。西アフリカというこれから経済発展が期待される地域で、トーゴがいち早く国内のインフラ整備を進め、自らの経済成長を進めれば、地域経済を牽引する機関車となることだって夢ではない。

そのトーゴが、エヤデマ大統領時代の長年の停滞から抜け出て、経済発展を目指し始めた。その発展の手本として、また頼れる友人として、日本に強い期待感を抱いている。ニヤシンベ大統領は、訪日の希望を早くから表明した。昨年に準備した訪日は、残念ながらトーゴ側の都合で延期された。その後、大統領選挙で再選を果たしてからも、ニヤシンベ大統領は引き続き訪日を希望している。そして、できれば来年にも、東京に大使館を開設したいという意向を表明し、すでに開設準備のための調査団を東京に派遣した。

こういうトーゴからの強い期待に日本が応えることは、比較的容易であると考える。なぜなら、トーゴの国の規模が小さいからだ。日本からの支援は、比較的小規模でも大きな成果が出る。ところが、そのトーゴに対して、なかなか本格的に取り組もうという機運にならない。それは一つには、日本国内にトーゴの応援団がいないという事情がある。日本企業にとって、貿易の相手であったり、投資先であったりすれば、トーゴへの関心も出て来るのだけれど、残念ながらそうではない。

ところが、そのトーゴに、きめ細かく支援を始めた国がある。中国である。ああ、また中国か、と思われるかもしれない。中国のアフリカへの進出は、今にはじまったことではない。資源を目当ての、なりふり構わぬ援助外交。日本を含め欧米先進諸国がOECDのガイドラインに縛られているなかで、そういう制約のない中国は、相手国の政治指導者に阿った案件や、国会議事堂、競技場などの人気取り案件を、臆面もなく進める。それも、中国人労働者を大量に派遣して、等等。

国際協力の関係者であればあるほど、中国の協力と聞くと、そういう型どおりの評価をする。確かにこれまでは、そういう面があったかもしれない。トーゴにおいても、新しい大統領府の建物を、中国が丸抱えで建てて寄贈している。ところが、最近の中国の援助を見ると、そういう贈り物の案件というよりは、その国の国民の必要に応えた、いい案件を手掛けるようになってきている。それに応じて、中国の経済協力の地元での評判も上昇している。

トーゴは、今年の大統領選挙を無事に終え、いよいよ経済社会開発に本格的に取り組もうとしている。それと同時に、民主化を一層進めるために、明年明けに地方選挙を準備している。これまで地方自治体の首長は、みんな大統領の指名であった。それを、トーゴの歴史上はじめて民選にしようというのだ。これら経済開発の推進や、地方自治選挙の実施のために、一番必要なものがある。それは、国勢調査である。国民の動静について、しっかりとした情報がないと、国の開発や政治が進められない。

そこで、国連人口基金(UNFPA)により全国一斉に国勢調査が行われることになった。ちょうど現在(11月6-19日)実施中であり、ロメの街のあちらこちらに、国勢調査への参加を呼び掛けるポスターが貼られている。そのポスターに、欧州連合(EU)と並んで中国の国旗が印されている。つまり、中国が資金協力している。こういう国際機関を通じた有意義な協力にも、中国が参加するようになったのだ。

近年の気候変動で、西アフリカの多くの国が、毎年洪水に見舞われる。トーゴもその例にもれず、洪水の被害を受けた。とくに、ロメ港から北に向かう幹線道路が寸断されたことで、国内輸送に大きな支障が出た。中国は、この問題にいち早く応えた。一昨年(2008年)の洪水被害を受けて、国の南北を結ぶ幹線道路の水没箇所において、道路を底上げして橋をかけることを約束した。驚くべきはその実施の早さであり、1年後の昨年(2009年)9月にはアマカペ橋(Amakpapé)、トブレコペ橋(Togblékopé)、リリコペ橋(Lilikopé)の3ヶ所の橋が完成した。総工費は27億フラン(5億円)。トーゴの流通を救ったこの協力は、国民から高く評価されている。

今年の上海万博の機会に、ニヤシンベ大統領は中国を公式訪問した(2010年8月)。そこで歓待を受けたことはもちろん、対トーゴ借款として1億6500万ドル(150億円)の信用供与枠を提供することが決定された。この資金は、主として基幹道路整備に投入され、ロメ市の周辺道路と、北のブルキナファソ国境までの幹線道路を、中国が修復するという。

さらに、今回私がトーゴに出張したら、その前日に、さらに新たな無償資金の供与について、合意文書の署名式典が行われたという記事が出ていた。それによると、56億7千万フランの無償資金および21億3千万フランの無利子借款の、合計78億フラン(15億円)の資金が供与されるという合意である。使い道は、今後両政府の間で話し合っていく、というのだから鷹揚である。

聞くと、在トーゴの杨民(Yang Min)中国大使が、とても熱心に国内各地を飛び回って、トーゴとの関係強化に努めているという。私のように、日程と相談しながら、数ヶ月に一度ロメに出張して来ているだけでは、とても及ばない。きめ細かい話は、現場にいて、時間をかけて進めていかなければならない。中国は、アフリカ全ての国に大使館を置いていて(台湾承認の国を除く)、アフリカ諸国との間でそういうきめ細かい話ができるような態勢を、ちゃんと整えている。

日本も、トーゴの経済発展を支援しようと、少しずつ協力案件を作りつつある。でも、この中国の迫力と早さには、とてもかないそうにない。せっかくトーゴが、在京大使館まで開設しようとするくらいに、日本に高い期待感を抱いてくれているのだ。中国に負けずに、日本としてもトーゴの期待感にしっかり応えなければ、と考えている。トーゴは小国だから、支援の効果が出やすい。「小国という優位」は、外交関係でも通用してよいはずだ。日本外交の優先順位の中で、大国との外交の影に隠れてしまわないように、ここは大使の腕の見せどころである。

 国勢調査を実施中なので、ポスターが市内の随所に貼られている。

 ポスターには中国の国旗があり、中国の資金協力があることが分かる。

 学校の入り口にも貼られている。

 国民の足となっている単車は、ほぼ中国製。
「三雅(SANYA)」と社名が書かれている。

 このホテルの看板は、中国人だけを相手にしている。

 これも、中国人だけを対象とする診療所のようである。

 ロメ市内には、中国製品専門のスーパーマーケットがある。
「多哥」とはトーゴの漢字表記、
「連鎖店」とは、チェーン店という意味のようだ。

 広い店内は、中国製品でいっぱい。

 日本語が書いてある商品を見つけた。
「クスしました」というのが分からない。

 「日式の点心」と書かれたパン菓子も売られていた。
「食事に最適」はいいとして、食事以外に何に適するのだろう。


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