コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

二つの報道

2010-12-08 | Weblog

天皇誕生日の祝賀会を、12月3日に予定して準備をすすめていたのに、その時期に、大統領選挙の結果発表をめぐって、緊張が高まってしまった。夜間外出禁止令が出されたので、私は祝賀会の開催を諦めざるをえなくなった。

私は涙をのんで中止を決めた。中止を決めながら、その残念な気持ちと、コートジボワールの人々への期待への気持ちを、きちんと伝えておこうと思った。まあ、転んでもただでは起きないぞ、という気持ちがある。そこで、一文をしたためて、各紙新聞に掲載してもらう算段をとった。私はこれまでも、時折にこうして文章を起案して、うまく掲載してもらってきている。
「天皇誕生日に臨んでの、日本大使からの言葉」
と題して、一枚の紙にまとめた。

「本日12月3日は、日本の天皇陛下のお誕生日をお祝いする祝賀会を、予定しておりました。それと同時に、日本とコートジボワールの国交開始50周年を、コートジボワールの友人の皆さんと一緒に、お祝いしたいと思っていました。しかしながら、現下の状況では、その祝賀会を中止せざるをえません。これは私にとって、とても悲しいことです。私はその悲しみを、隠すことができません。」

「しかしながら、それでも私は、コートジボワールの人々が大挙して投票に赴いた、そのことをたいへん素晴らしいことだと感じます。こうして、コートジボワールはほぼ「危機からの脱出」を果たす一歩手前まできました。」

「もちろん、現状ではあと一押しの、民主主義への努力が必要です。政治指導者たち、とくに二人の候補は、「危機からの脱出」を完全に果たすよう、解決を追求しなければなりません。私は、彼らの知恵と、彼らの責任感に信頼を寄せています。もし、民主主義がしっかり守りとおせるならば、日本の国民がこの大統領選挙実現のために費やした努力が報われるのであり、私にとってはこれに勝る喜びはありません。」

「まさに、日本の人々とコートジボワールの人々との連帯の意識があります。選挙管理委員会が、投票実施のために緊急の財政的な所要への支援を、日本に求めてきました。それにしっかり応えたのは、そうした連帯の意識があったからです。日本が、大統領選挙のために提供した資金は、総計65億3700万フラン(13億円)に上るのです。」

「いかなる国も、その歴史のうちには、苦しい時期があるものです。日本にも、人々が苦しみにあえぐ時期がありました。しかし、それを克服してきた経験から、日本の人々は確信しているのです。もし人々がすべての違いを乗り越えて、共通の目的のもとに力を合わせて働くならば、必ずやそうした苦しみを乗り越え、平和の中に発展を手に入れることができる、ということを。」

「誰もが、国を愛する心をもって、それぞれの義務を果たさなければなりません。私は、コートジボワールの人々が国を愛する心を持っていることを、信頼しています。その信頼があるからこそ、日本の人々は、コートジボワールの人々のために、ひとつ力を貸そうと思えるのです。コートジボワールは、これまで10年の危機のなかで、数知れない困難を克服してきたではないですか。平和に向けて、皆が心をあわせるならば、新しい夜明けが必ず訪れるのです。」

以上のメッセージである。もちろん、コートジボワールの人々が示してきた、民主主義への熱意に賛辞を贈るとともに、政治指導者たちに、民主主義の貫徹のため責任ある対応をとるべきだ、と呼び掛ける気持ちである。それとともに、選挙実施のために費やしてきた日本の貢献を、繰り返し印象付けたいという意図があった。日本は、コートジボワールの政治危機に、決して部外者ではないのだ、と言いたいのである。

このメッセージ文を、新聞各社に送りつけた。どこがどのように掲載するかを見る。各紙のうち、「ランテール」紙が、さっそく翌日(12月4日)に掲載してくれた。
「バグボとウワタラへの、日本からのメッセージ」
と標題が出た。ちょうど、選挙管理委員会がウワタラ候補に軍配を上げたのに対して、バグボ候補が憲法院を動かして自分の当選を決めた、そういう日である。私の文章は、直接その話をしていないながら、もちろん民主主義のルールを守ってくれという意趣を含んでいる。「ランテール」紙は、その文脈をきちんと読み取っている。

さて、政府系新聞である「友愛朝報」には、ぜひとも掲載してほしいと思った。やはり、一番権威がある新聞として、各界の指導者が必ず目を通しているからだ。そこで、メッセージをファックスで送ってから、別に電話を取り、編集主幹にちょっとお願いをする。どうですか、載りますか。編集主幹は、時宜を得た良い文章ではないですか、枠をとりましょう、と約束してくれる。

ところが、このように翌日土曜日、「ランテール」紙は載せてくれたのに、「友愛朝報」には載らなかった。さすがに、バグボ当選が紙面の全てを飾っている。日が悪かったのである。編集主幹は、記事は週明けの月曜にまわした、と私に言った。

それで、私は月曜日(12月6日)の「友愛朝報」を楽しみに開けた。しかし、どこにも、私のメッセージは載っていなかった。編集主幹に、電話して聞いた。すると、確かに紙面に組んで編集長に上げたのに、発行された新聞からは消えてしまっていた、という答えが返ってきた。

どうやら、発行前の上層部での検討で、私のメッセージの中に、よくない要素が発見されたのだ。おそらく、呼びかけの対象を「二人の候補」として、区別をしていないということが不興をかったのだろう。週末の間に、二人の候補はそれぞれに宣誓式を行い、二人の大統領になってしまった。政府系の「友愛朝報」としては、バグボ大統領だけが正規の大統領、そしてウワタラ大統領は偽物という立場をとらなければならない、ということなのだろうか。そういう立場を認めていない、私の文章は、不適当と判断されたのである。

では、どうして「ランテール」紙には載ったのか。それは「ランテール」紙は、バグボ大統領、ウワタラ大統領の、どちらにも加担しない、中立系の新聞だからである。実際に、週明けの「ランテール」紙は、一面に空席の大統領の椅子を写真で載せ、その上に大きく「?」と記している。この中立系の新聞は、二人の大統領、という立場なのだ。だから、私のメッセージを載せることに抵抗はない。しかし、政党色のついた新聞では、そうはいかない。

バグボ候補、ウワタラ候補の、二人がそれぞれ宣誓式を行った後、政府系・旧与党系つまりバグボ大統領支持の新聞と、旧野党系つまりウワタラ大統領の新聞は、まったく違う国の新聞のようになっている。政府系・旧与党系の新聞にとっては、コートジボワールは引き続きバグボ大統領の国である。だから、バグボ政権の動きばかりを追っている。一方で、旧野党系の新聞では、ウワタラ大統領の国になっている。そして、互いに相手の政権を手ひどく非難している。どちらの系統の報道を読むかで、世の中の見え方が黒白反転する。二人の大統領の国は、二つの報道の国になってしまっていた。

<新聞記事>


12月4-5日付「ランテール」紙
「バグボ・ウワタラ両候補への日本からのメッセージ」


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