コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

国連を舞台に攻防戦

2010-12-10 | Weblog
なぜロシアなのか。理由や背景はよく分からないけれど、とにかくロシアが邪魔をし始めた。舞台はニューヨーク。国連の安全保障理事会での、外交交渉の話である。

12月3日、憲法院がバグボ当選を選挙結果として宣言し、それに引き続いて、ここのチョイ国連(UNOCI)代表が、その憲法院の選挙結果は「認証」できないと述べるとともに、ウワタラ候補の当選という選挙管理委員会の選挙結果のほうが正しい、と判断した。

それをうけて、安全保障理事会は、このチョイ代表の判断をしっかりと後押しする声明を出そうとした。コートジボワールに国連の平和維持活動が派遣されたのは、安全保障理事会の決議による。だから理事会は、チョイ代表が「認証できない」と言い、「ウワタラ候補こそが真の当選者である」と判断したことを裏書きし、その判断を踏まえて、次の行動への指針を示すことになる。

そこで、「報道声明(press statement)」が起案されて、理事国の各国に諮られた。フランスが提案した案文は、次のようなものであった。
「安全保障理事会の理事国は、選挙管理委員会委員長による12月2日の声明のとおり、アラサン・ウワタラ氏の当選を内容とするチョイ国連代表の声明を歓迎する。この選挙結果を、全ての当事者が受け入れるように求める。」

とても力強いメッセージだ。国連の潘基文事務総長は、チョイ国連代表の認証不能宣言の直後、12月3日にすでに、ウワタラ氏当選への祝意を送っている。これに加えて、安全保障理事会が、この「報道声明」でウワタラ当選を裏書きすれば、これはバグボ大統領への強力な圧力になる。

と思ったら、ロシアが反対した。その理由は、と聞かれて答える。
「週末で休みなので、本国の判断が聞けないから。」
そんな呑気なことでどうする。こちら、一刻も早く、安全保障理事会としての立場をはっきりさせなければ、バグボ大統領がそのまま宣誓してしまい、どんどん取り返しが付かなくなっていくと焦っている。そのような危急のときに、「週末で休み」とは。でも、ロシアは常任理事国5ヶ国のうちに入っているから、ロシアが反対だと言うと何事も採択できない。いわゆる、拒否権である。

週末にかけて、各国からの説得が続いた。日本からも説得の努力を行った。それでもロシアが折れないまま、月曜日になった。週が明けたら、「本国の判断」も聞けるだろう。ところが、ロシアは本国に聞いてもやっぱり、反対だという。なぜか。
「コートジボワールで国連が果たすべき役割は、選挙結果を正しいものと認めるかどうかの判断だけである。誰が当選者かまで、国連が判断するというのは、越権行為である。」
つまるところ、ロシアは、国連が選挙結果の是非に口出すことを、嫌っているのだ。

ニューヨークだけでなく、各国から直接、モスクワにまで働きかけが行われた。それでもロシアは折れない。そのまま火曜日(12月7日)まで、進展のないままに来てしまった。ニューヨークでは、頑固なロシアに、皆怒っている。米国のスーザン・ライス国連大使は、報道に答えてこう憤慨した。
「チョイ国連代表は、安全保障理事会の決議が求める任務の範囲内で、きちんと対応している。ロシアは、自分自身も同意して過去に採択した決議(に書かれた任務)に、今になってケチを付けるとは、いったいどういうことなのだ。」

さて、安全保障理事会での審議が難渋しているという情報は、アビジャンではバグボ大統領の側をおおいに勇気づけていた。国際社会がこぞって反対しているというのは、神話であった。安全保障理事会でさえ、コートジボワールの大統領選挙に口を差し挟むのはよくない、という意見が出ているではないか。国際社会が選挙結果の是非を云々するというのは、内政干渉にあたるのだ。

ところが、その議論の出鼻をくじいたのが、アフリカ諸国である。水曜日(12月7日)、ナイジェリアの首都アブジャで、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)が、臨時首脳会議を開催した。そこに、チョイ国連代表が飛んで行って、バグボ大統領の選出過程が、いかに無理勝手なものであったかを、詳細に説明した。

チョイ国連代表は、悲痛な声で演説した。
「コートジボワールがここに至るまで歩んできた道のりを思うと、この最終段階で人々の意思を踏みにじるというのは、コートジボワール国民を叩きのめすことであり、過去8年間に国際社会が費やしてきた財政支援をまったく無駄にすることなのです。」

会合の終わりに採択された「最終宣言」は、バグボ大統領を非難する内容となった。
「加盟国の全首脳は、ウワタラ氏が、コートジボワールで選ばれた大統領であり、コートジボワール国民の自由な意思を代表するものとを認める。加盟国の首脳は、バグボ氏に、国連によって認証された選挙結果を尊重し、コートジボワールの至高の利益のために、直ちに権力を移譲することを求める。」
そして、コートジボワールの共同体への加盟資格を、民主主義の基準に照らして、停止する、ということを決定した。

これはかなり強烈である。他ならぬ西アフリカの友邦が、こぞってバグボ政権に反対を示した。このたびの件で、たいへん頼もしいのは、アフリカの諸国がこぞって、バグボ大統領を真剣に怒っていることである。それはもちろん、何よりも民主主義を逸脱したバグボ大統領のやり方への批判である。それに加えて、せっかく築き上げてきたアフリカの明るいイメージが、バグボ大統領のせいで、ふたたび遅れたどうしようもないイメージに逆戻りしてしまうことへの怒りである。

だから、バグボ大統領が、強引なやり方で居座りの姿勢を見せてから、周辺国の首脳が直接電話をして、説得に努めてきた。ガーナのアッタ・ミルズ大統領、リベリアのジョンソン・サーリーフ大統領、ナイジェリアのジョナサン大統領が、そうした努力を行った。そして、バグボ大統領の宣誓式には、どこからも首脳が駈けつけないどころか、ここのアフリカ諸国大使もアンゴラを除いて誰も出席しなかった。バグボ大統領は、もう完全にアフリカ諸国の不興を買っている。

あのリビアのカダフィ大佐までが、こう言っている。
「このコートジボワールの出来事は、アフリカをあの暗い時代に戻すものだ。自分だけの強欲で、不法に政府を転覆させたり、権力の座に居座ったりするような連中がいるおかげで、誰もが、道路を建設したり、国土を開発したりすることを、とても考えなかったようなあの時代に。」

こうして、国際社会は、アフリカも含めて、一枚岩でバグボ大統領を否認した。それだから、ロシアの態度はとても目立つことになった。どうしてそんなに、猫頑張りするのか。自国の話に波及することを怖れて、内政干渉と捉えられかねない国連の決定には反対しているのだ、と解説する人がいる。あるいは、バグボ政権から沖合の石油鉱区をもらっているので、裏切れないのだ、と教えてくれる人がいる。国際社会のイメージを悪くして、そういう憶測を呼んでしまう対応だ。あまり賢明とはいえないと思うのだが。

とにかくロシアの所為で、安全保障理事会が明確な態度を打ち出せないでいる。西アフリカ経済共同体が、厳しい立場を打ち出したところで、サルコジ大統領が、メドベージェフ大統領に電話をして働きかけた。首脳レベルの話にまで持ち上がっていった。そこまで来てから、ロシアはやっと態度を和らげた。

中国が仲介をとった。ロシアの顔を立てて、新しい文言を提案した。
「ウワタラ氏をコートジボワール国民の自由な意思を代表する次期大統領である、と認めた西アフリカ経済共同体の見解を踏まえ、全ての当事者が、今回の選挙の結果を受け入れるように要請する。」

つまり、安全保障理事会自身が「ウワタラ氏が当選した」とは言わないけれども、西アフリカ経済共同体の決定を引用するかたちで、間接的にそういう意味になる、という表現にした。それから、「選挙結果を受け入れよ」ではなくて、「選挙の結果を受け入れよ」とした。どこが違うのだ。つまり、「選挙結果」というと選挙管理委員会の出した数字の事である。「選挙の結果」というと、憲法院の判断も、そのうちに何となく入ると言えるかもしれない。そういう言葉の遊びみたいなことをして、ようやくロシアは賛成した。

国連の安全保障理事会は、12月8日、「コートジボワールについての報道声明」を発表した。これでようやく、国際社会の声は、国連のレベルでも全会一致を見ることとなった。

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1 コメント

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Unknown (明田克行)
2010-12-11 04:01:52
毎朝一番に、岡村大使のブログを見ています。
10月初めから3ヵ月間の予定で、ボランティアで囲碁指導の為にアビジャンに滞在しています。
たまたま、二人の大統領が誕生するという異常事態に遭遇し、不安な毎日を過ごしています。
いつ、何が起こるかわからない状況で、様々な噂が飛び交う中で、岡村大使のブログが唯一貴重な情報源で、助かっています。
あらゆる角度からとらえて発信されている情報で、コートジボアールの現状、日本の立場等、手に取るようにわかります。
これからも、頑張ってください。

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