コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

国際社会は戦えるか

2010-12-11 | Weblog
米国の「AP通信」社の記者から、取材を受けた。今回の選挙では、日本大使がずいぶん目だっていた、何か背景があるのか、と聞くから、日本は平和構築に責任を果たす国であり、コートジボワールでの民主主義と平和の回復を願う立場から、積極的に働くのは当然である、とまあそう答える。そして、日本が行った選挙協力について、具体的に例を挙げて宣伝した。それで、これからどうなるのでしょうか、という話題に移る。

(記者)「民主的に正統なウワタラ大統領を、国際社会が断固支持するといっても、実権を握っているバグボに、大統領の座から降りろというのは簡単ではない。国際社会からの圧力として、経済制裁とかを決議して実施しても、どうせ効果はないだろう、という無力感が、米国世論のなかに出てきていますよ。ジンバブエや北朝鮮などについて、国際社会は制裁を打ち出したけれど、結局のところ、政権は殆ど困窮した様子がない。バグボも結局、生き残るのではないか、と。」

(私)「コートジボワールは、ジンバブエや北朝鮮とは違うと思いますね。」

(記者)「どう違うんですか。」

(私)「ジンバブエや北朝鮮は、独裁国家でしょう。はじめから国際社会から孤立している国だから、まわりから制裁を受けても、平気の平左なのです。しかし、コートジボワールは、国際経済の中に組み込まれている国でしょう。制裁が出ると、大きな影響があると思いますよ。」

(記者)「コートジボワールが、国際的な貿易や投資に、しっかり組み込まれている国だというのは、その通りですよ。でも、そうであるだけに、経済制裁をしたとして、結局その大きな影響を蒙るのは、ビジネス界であったり、一般市民だったり、ということじゃないですか。ほんとうにバグボ一派だけを追い込んで、考えを変えさせるような制裁というのが、あるのでしょうかね。」

(私)「そうですねえ、バグボ政権の資金源といえば、カカオ輸出による収入や、石油採掘の利権、アビジャン港の収入などでしょう。これらの資金源を狙い撃ちする制裁措置というのは、難しいでしょうね。」

(記者)「そこが無力感のもとなのです。経済制裁といっても、バグボ一派だけを困らせるような措置は困難だ。結局、一般の人々が生活に苦しむだけの結果になる。やはり、国際社会がバグボ一派を追い詰めることは困難ですよ。」

(私)「まだまだ、あきらめてはいけない。他には、査証発給停止という手があります。バグボ大統領および閣僚、政府幹部など、バグボ政権にかかわっている人々に、査証を出さないということです。とくに、米国とフランスがこの措置を行えば、つまりは米国やフランスへの渡航ができなくなるので、かなりつらくなるはずです。」

(記者)「でも、その人々がパリやニューヨークに行くのを、我慢すればいいだけでしょう。それほど大きな痛手になるとは思えないけどなあ。」

(私)「査証発給停止の対象を、本人だけでなく、その家族に広げればどうですか。コートジボワールのエリート層の人々は、その子弟を欧州や米国に留学させる場合が多いのです。それができなくなるというのは、きついですよ。まあ、とりあえずは、来週あたりからパリでクリスマス休暇、などと考えている家族の人々がいるだろうから、その計画は諦めざるを得なくなる。」

(記者)「なるほど、痛いところを突きますね。」

(私)「それから、各国の金融機関と相談して、国外からの送金などを停止するという措置も可能かもしれない。こちらの上流階級は、たいがい海外の銀行に口座を持っているでしょう。バグボ政権にかかわっている人々が、そうした口座から国内に送金することができなくなると、これは困るでしょう。」

さて、そういう議論、つまりバグボ政権に対する制裁措置として、どういうことが可能かという議論は、もうすでに大使たちの間で何度か行なわれている。米国とフランスは、査証発給停止について、現実に検討に入った。米国がすぐに結論を出した。

米国大使が、他の大使たちに説明する。
「米国は、12月8日をもって、バグボ政権の政府閣僚、各省庁の幹部、そしてその配偶者ならびに家族に対して、入国査証を発給しない、という措置を決めました。さらに、現在滞在中の家族についても、査証を取り消し、つまりすぐに帰国してもらうという措置です。すでにこの措置を、バグボ政権側のジェジェ「外相」に対して通告しました。」

さすが米国、やることが速くて断固としている。何より、現在滞在中の家族について査証取り消しをするということは、現時点で米国に留学している子弟が、その勉学を諦めなければならないということだ。家族の悲鳴が聞こえてくる気がする。

何より、フランスがこの措置を決めたら、これは大きな痛手を与えることになる。コートジボワールのエリート層の人々にとっては、何をするにもまずパリに行って、ということだからだ。休暇、買い物、というだけでなく、商売、企業活動、子弟の勉学、そして高度医療など、たいがいフランスに頼っている。バグボ政権の関係者にとって、それを断ち切られるのは、そうとう辛いだろう。

しかし、フランスの場合は、米国ほど簡単ではない。まず、欧州共同体(EU)のシェンゲン協定があって、EU内の移動は自由だから、EU全体として措置をとらないとあまり意味がない。EUが、査証発給停止を検討していく必要がある。それから、コートジボワール国内の在留フランス人の問題がある。バグボ政権側から、対抗措置として彼らへの査証発給を停止されたら、かなり厄介なことになる。

私は、フランス大使に言う。
「制裁措置、というから難しいのです。ウワタラ政権の正統性と絡めて、措置を取ればいい。」
どうするのか、と聞かれるから、知恵をつける。
「つまりですね、コートジボワールの人々が、こちらのフランス大使館に査証の申請をするでしょう。そのときに、ウワタラ政権から渡航のお墨付きの紙を一枚もらってきて添付するように、要件を定めるのです。そして一方で、ウワタラ政権が詰めるゴルフホテルで、一つ窓口を作って、お墨付きの紙を、やってきた人にどんどん発行する。一般の人々は、ゴルフホテルに来さえすれば、その紙を貰えるから何ら問題ない。でも、バグボ政権の人々にとっては、そんなものを貰うという行為はウワタラ政権を認めることと同じですからね、ゴルフホテルに来ることができない。自然に、バグボ政権の関係者だけを狙い撃ちした、査証発給停止になる、というわけです。」
それは面白い案だ、とフランス大使。ともかくも、欧州各国についての査証停止措置について、EUとして検討が始まっている。

さて、西アフリカ経済共同体(ECOWAS)に続いて、アフリカ連合(AU)も木曜日(12月9日)に声明を出した。
「AUは、民主的に選出されたウワタラ氏が政権に就くまで、コートジボワールの加盟資格を停止することを決定した。バグボ氏には、コートジボワールおよびアフリカ全体の至高の利益のために、選挙結果を尊重し、ただちに権力を移譲するように要請する。」

国際社会からのバグボ政権への非難は、ますます強くなっている。その一方で、この国際社会の姿勢をバグボ政権が圧力と感じ、政権移譲に応じるようにするためには、国際社会として何をすればいいのか、国際社会は何を武器として戦えるのか。打つべき手を、しっかりと考えていかなければならない。

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