コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

エピローグ(5終)

2012-05-07 | Weblog
昨年(2011年)9月、私は、総領事としてシカゴに転勤せよとの発令を受け、アビジャンでの仕事と生活を終えることになりました。コートジボワールに着任した2008年9月からほぼ3年。さまざまな出来事があり、さまざまな人々に出会い、さまざまなことを学ぶ日々でした。

そうした日々を、「日誌」というかたちで綴り、インターネットを通じてご紹介してきました。アビジャンに来る前に、外務省の同僚から、ブログをやってみたらどうか、と勧められたことがきっかけでした。外交という仕事の姿を多くの方々に知ってもらうために、ブログという手段はとても有用なはずだ。そう言う彼に賛同して、赴任早々に始めたものです。

当初は、かなりおっかなびっくりでした。周りの人々もいろいろ心配しました。日々の見聞を記事にして公開することは、大使という職務の立場や責任とは相容れないのではないか。外交上の利益を損なうことはないか。秘密をちゃんと保全できるのか。こうした懸念を慎重に考慮し、問題が生じるようであれば直ちに止めようと思いながら、書き進めました。

幸いにして、大きな間違いを起こすことも問題にされることもなく、ブログを続けることができました。現地の政治情勢がよく分かった、西アフリカの社会の様子に考えさせられた、といった感想をいただくたびに、ブログの意義を改めて確認でき、嬉しく思いました。情勢悪化で中断のやむなきに至るまでの2年3ヶ月にわたって、記事を書くことができたのは、ひとえに読者の皆様からの、力強い声援のおかげです。

ブログを書くことは、大使としての私の仕事にも、よい刺激を与えました。第一に、きちんと公開できる、説明のできるような仕事をしなければならないという、緊張感です。行っていることの意義は何かを、常に意識しました。第二に、仕事には起承転結がなければならない、と感じるようになりました。何が問題で、どういう方策をとりながら、何を結果として出さなければならないか。記事にするときに筋書きを辿れるように、逆に仕事に筋書きを求めるようになりました。

そして第三に、読者の方々からのご意見です。ブログ上のコメントだけでなく、その他さまざまなかたちで、仕事の進め方について助言をいただきました。こういう問題に関心を持ってほしい、こんなやり方はできないかといった要望を得ました。外交を、現場の外交官たちだけの知見だけではなく、それぞれの分野で活躍する多くの人々の知恵を集めて進めていく。そんな外交の可能性に、目が開く思いでした。

また、ブログを通じて、自分自身の仕事だけでなく、国際協力などの最前線で働く方々の仕事を紹介しようと、努めてきました。日本からは遠い世界の片隅で、わが同胞たちがどのような活躍をしているか、現地の人々からどう喜ばれているか。報道機関の目がなかなか届かないところで、実は日本の評価を支えているのは、そういう現場の日本人の方々です。私のブログが、日本の外交への理解だけでなく、国際協力の最前線の姿について知っていただく一助になれば幸いです。

記事では、事実や出来事の紹介にとどめ、何かの結論を導くというようなことは、できるだけ控えてきました。それら出来事の何を面白いと感じるか、何をどう判断するかは、読者の方々それぞれに異なるはずです。筆者があまり断定した意見を述べてはいけないと、考えてきました。ですから、少なからぬ方々が、私の筆致を中途半端にお感じになったかもしれません。ただ、このブログの最後の最後ですから、ここには私なりの結論を記しておきたいと思います。

それは、日本には底力がある、そしてその底力は世界に通用する、ということです。私たち日本人一人ひとりの、ものの考え方、感性や判断、困難への対処、規律や真面目さ、他者への謙虚さ、仕事への責任感などは、世界の多くの人々に感銘と示唆を与え、また世界がかかえる多くの問題について解決への道を示している。この底力に、日本人自身が一番気づいていないけれど、私たちはもっと自信を持ってよいのです。日本を誇る。その誇りを胸に、日本および日本人が、世界をより良くするために、進めていくべき外交があるはずです。

長らくにわたり、さまざまな事柄を書き綴ってきました。その日々もすでに遠くなり、この稿をもって「コートジボワール日誌」を終了することとします。ここに書き記したいろいろな面白い話、興味の尽きない材料を提供してくれた、愛すべきコートジボワールの友人たち、西アフリカに生活する人々に、まずは感謝したいと思います。そして、読者の皆さま、ご愛読とご声援をありがとうございました。皆さまのいっそうのご活躍をお祈りいたします。

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6 コメント

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長い間ありがとうございました (さすけ)
2012-05-08 23:23:19
これまで長い間ブログをお書きいただきありがとうございました。
私は外交というものがどういうものか、大使というお仕事がどんな仕事で、それが日本社会に対してどのような意味を持っているのか、そういったことに関心はあるものの、自分で調べるまでのことはしてきませんでした。
しかし、このブログを拝見させていただく中で、外交の意味のおそらくほんの一部だけを垣間見たに過ぎないのかも知れませんが、それを感じることができたように思います。同時に、日本がコートジボワールという遠くの国、そして国際社会の中で先進国としての役割を果たしていることを知ることで、自分自身が日本人であることに誇りをもつことができました。
非公開が原則であろう外交についてブログで書かれることは大変難しいことであったと思います。しかし、それを感じる機会をいただけたことに感謝いたします。
これまでありがとうございました。そして、今後のご活躍をお祈りいたします。また、機会があれば是非ブログを初めていただければと思います。
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ありがとうございました (ふーみん)
2012-05-22 09:53:56
大使という立場でブログ、とても興味深かったです。コートジボワールといえばカカオとしか思い浮かべなかったのですが、おかげで多様な見方をもつことができました。新しい赴任先でのご活躍をお祈りしております。
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お疲れさまとありがとう (chibimae)
2012-05-25 09:49:14
 エピローグを書かれていることにやっと気づきました.国際舞台で日本を代表して活動する大使の使命と職務,そしてそのための戦略と効果を鮮明に理解することができました.そして,紛争の地に赴いたのではなく,むしろ平和的発展期として赴任されたのに,このような事態に直面され,本当にお疲れさまでした.でも,日本にとって最善の人選だったとは思われます.
 シカゴでも大いにご活躍されることを楽しみにしています!
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日本人の底力! (佐藤)
2012-05-30 11:53:08
このブログに出会えたことは私にとって幸せです。
高い知性に裏打ちされた平明な文体で、外交の仕事のおもしろさを実にいきいきと描かれていて、こんなにも更新が楽しみなサイトはありませんでした。
「筆を擱く」のエントリーから後、ときどき未練がましく訪問していましたが、昨年の大使館襲撃のニュースの際には本当に肝が冷えました。ご無事で何よりでした。
このブログを読んでコートジボワールという国に親しみを覚えることができましたし、日本が国際社会で役割を果たしていくことの意義を具体的に感じることができました。
昨年の大震災以来、東北出身の身にはあまりにも悲しい出来事が続き、遅々として進まない復興に歯がゆいもどかしい思いを抱く日々ですが、最後に岡村様が書かれた、日本人の底力、これを私はもう一度信じてみたいと思います。ありがとうございました。
新しい赴任先でもお忙しくご活躍されることと存じますが、いつの日か、外交官としてのご経験を本にまとめられてはいかがでしょうか。素晴らしい文才をお持ちなのですから。
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ありがとうございました (Ayoka)
2012-06-04 19:10:11
知人の紹介でこのブログの存在を知りました。しばらく更新されていなかったので、心配していました。久しぶりにアクセスしたところ、エピローグを発見し、再びコートジボアールを近くに感じることができました。遠い過去のことではなく、綴られた文章や言葉の一つ一つに心を呼び覚ますものを感じました。本当にお疲れさまでした。
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今日は有難うございました (Thee)
2019-03-16 22:52:41
今日は、アフリカのお話をして頂き有難うございました。私はアフリカには行ったことはありませんが、バンコク駐在中にエチオピアの公団総裁が来られて、一晩、接待させて頂いた思い出があります。
また、私の同僚の布施勝彦氏が「アフリカに賭ける、ある商社マンの痛快人生」を出版され、その中に同じく同僚の清水君がアフリカで柔道を教えた話が記載されています。不幸にして清水君は10年以上前に亡くなられました。
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