職業訓練学校の視察（６）

マンでも職業訓練学校を訪れた。他の学校と同じように、ほとんど全ての工作機械が動いていなかった。ここの問題は、機材の老朽化というよりは、紛争にあった。紛争が起こったとき、西の端にあったマンでは、政府軍が退却し、新たに入ってきた反乱軍によって町が占拠されたとき、略奪に遭ったのである。その際に、使えそうなものは全部持っていかれた。

特に電動モーターは、反乱軍によってすべて取り外されて、奪われてしまった。 学校の先生方は、モーターを付け直せば何とかなる、その資金がない、と訴える。しかし、資金もさりながら、この旧式の工作機械では、もはや部品がないだろう。やはり、全部新しく購入して換装するしかない。そうした全滅の状態にありながらも、ここでも生徒たちは生き生きしている。お揃いの作業着を着て、学ぶ意欲を身体にあらわし、目を輝かせている。そうだ、自分が学んで日々成長していることを感じているのだ。こうした若者たちに、国の未来がある。

だから、この日は私が挨拶の担当だったので、歓迎会で次のとおり述べた。
「学校の工作機械は、モーターを失って動かなくなったかもしれません。しかし、コートジボワールの国は、決してモーターを失っていません。国や経済のモーター、それはここにいる皆さん、若者たちです。」
我ながらいい演説で、拍手も貰ったが、奈何せん、やはりモーターがなければ工作機械は動かないし、実習の授業にはならない。

さて、マンには職業訓練学校以外に、市内にもうひとつ職業訓練施設があった。移動職業訓練所、というものである。広い空き地に、大型コンテナが２つほど並べて置いてある。これと直角に、もう一つコンテナが置いてある。つまりコの字型にコンテナが並んでいて、間のところには床を渡し、屋根を作りつけてある。それぞれのコンテナの中に、数種類の工作機械が据え付けてあるから、３つのコンテナをあわせて、簡単な実習施設が出来上がり、という仕組みになっている。コンテナのほかに、教室が４つほど建設されている。生徒たちは、教室で授業をしたあと、コンテナの工作機械で実習を行う。

このコンテナ実習室は、職業訓練学校が置かれていない遠隔地において、職業訓練の必要に応えなければならないような場合に備えて、考案されたものであるという。これまで、おおよそ３年ごとに、国内各地を移動してきた。現在、職業訓練学校があるマンに来ているのは、工作機械が全滅しているところを補充するためである。教室では、３０人ほどの生徒たちが、授業を受けていた。マンの職業訓練学校の、１年生であるという。

職業訓練において工作機械が使えることが重要であるが、高価な工作機械を全ての学校に供給するというのは大変であろう。このように、コンテナに必要最小限の工作機械を据え付けて、そのコンテナが各学校を順に回って、生徒たちの実習の必要に応えるというのは、たしかに名案である。維持管理も、コンテナだと必要に応じて修理工場にまで運んでいけるので、比較的容易かもしれない。発電機は、２８年前の博物館ものであるけれど、ちゃんと動いて電気を供給している。

というわけで、全国各地を１週間かけてまわる、職業訓練学校の視察の旅は、このマンで終了した。コートジボワールの職業訓練学校の問題は、まずなにより実習用の工作機械をはじめとする設備がぼろぼろになっていること、それは紛争の結果というより、９０年代以来、ろくに補修や換装の手当をしてこなかった怠慢の結果であること、職業訓練学校の建て直しのためには、工作機械などの設備を新しくするだけではなく、どういう職業訓練であるべきかをよく考え、また教師を育てることから始めなければならないこと、などであることがよく分かった。

それにもまして、私にとって印象的であったのは、どこの職業訓練学校にも、制服に身を包んで生き生きとして勉強にとりくむ、大勢の生徒たちがいたことである。学校というのは、何はなくとも、学びたいと願う人がいて、教えてあげようという人がいることが、まず大事である。コートジボワールの職業訓練学校は、どこもその点は合格であった。

手に技術を付けよう、よりよい仕事が出来る人間になろう。そう考えて、職業訓練学校に飛び込んできた若者たちを、失望させてはいけない。そして、より能力の高い人材を作り出すことは、国の経済発展に直接寄与するのだ。教育への支援というと、これまでは初等教育に目が向いて、小学校を建てるといった協力案件が中心となりがちだった。これからは、それに加えて、技術教育という分野も、とても有意義となりうるのではないか。私はそう考えつつ、アビジャンに戻る国連機に乗り込んだ。

　マンの職業訓練学校

　電動モーターを失ったボール盤

　このボール盤も、電動モーターが盗まれている

　掃除機さえ電動モーターを盗まれた

　移動式の職業訓練所

　コンテナ内部と、設置された工具

　コンテナ内部、エンジンの分解実習

　２８歳の発電機

　国連機に乗ってアビジャンに戻る