コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

チョコが森を食べる

2010-04-01 | Weblog

チョコレートの原料となるカカオは、西アフリカの熱帯・多湿の気候を好んだ。それで、ウフエボワニ大統領の時代から、コートジボワールの各地で盛んに植えられ、大規模な農園が開かれ、カカオ豆の生産は国の経済を支えてきた。しかし、カカオ農園開発の歴史は、同時にコートジボワールの森林破壊の歴史でもあった。

私が「モノガガの森」で目を見張った森林破壊は、何も今に始まったことではなく、かれこれ半世紀にわたって、コートジボワールの各地で繰り広げられてきた光景なのだ。私はこれまで、チョコレートを食べながら、まさかそのチョコレートの原料であるカカオが森林を食べてきたとは、思いもよらなかった。コートジボワールにおいては、森林破壊の問題は、カカオ生産とどう折り合いをつけていくかという、経済問題である。カカオ栽培にのみ生きる道を見出してきた人々に、カカオ畑を止めろと言えるのか、という社会問題でもある。

森林公社が出した回答は、「共存」であった。始めてしまったカカオ栽培を、止めろとは言わない。言わないけれども、森林の再生も同時に図る、というものである。「モノガガの森」や「マビの森」で見たように、カカオなどの農地として利用していい区域を指定し、そこでは畑を維持する、それ以外の区域では、植林により、出来るだけもとの原生林に戻す努力をするということである。

その試みの実例が、「ラピド・グラの森(Rapide-Grah)」にある。コートジボワールの西の国境近くにあるこの森は、面積32万ヘクタール。北の端は、タイ国立公園の原生林に接している一方で、南の端はサンペドロの町からほんの10キロほどのところから始まる。人口に近く、早くから森林破壊が進んでいた。それだけに、森林保護の試みにも、一番古い歴史がある。

カカオ畑に覆い被さるように、大きな木が並んで生えている。メリナ(gmelina)の木である。1995年に植えられた苗木は、熱帯の気候のもとで、15年ですでに、大きな木に成長している。カカオの低木の間に、メリナの木が柱のように立っている。ここは農地指定区域の外にあり、森林に戻していく約束になっている場所である。しかし、植林にあたって、カカオ畑を閉鎖するということはしなかった。農民と話をつけて、1ヘクタールあたり100本、つまり約10メートル間隔で、カカオの間にメリナの苗木を植えた。苗木が成長する間、農民は引き続きカカオの収穫を続ける。カカオは、約40年で寿命が来る。その頃には、カカオ畑から森林に戻っているという計画である。

「この場所は、メリナの木が順調に育ち、計画の成果を良く示す例となっています。ところが、少しばかり失敗の例でもあるのです。」
森林公社の人が、私にそう説明する。どういう点で、失敗なのですか。
「メリナの木の成長が早すぎたのです。カカオの木が、まだ盛んに実をつけているのに、もう空を覆うばかりになってしまい、農民側からは木を切ってくれないかと言われています。カカオの木が老齢化し、生産力が落ちた頃になって、ようやくこういう風に枝を広げるような、成長の遅い木のほうが、適していたようです。」
その反省から、今ではニャンゴの木や、マコレの木などを植えるようにしているという。

広大な範囲にわたって、森林の再生を図るためには、それだけの数の苗木を育てなければならない。「ラピド・グラの森」では育苗場を何か所も作り、農民を雇用して苗木を作っている。
「種から育てる木もありますけれど、多くの場合は森の中に入って行って、木の芽を掘りとってきます。自然に出た木の芽は、殆どの場合、日照が不足していたり、動物に食べられたりして、大きくなれません。それを、この育苗場に集めて、ある程度まで育ててやるのです。」

地元の農民を雇って、木の芽を探し、養育する仕事を頼んでいる。女性たちにもできる仕事で、村の女性たちの新たな収入源になる。訪れた育苗場では、ニャンゴの木の苗が、2万5千本育っていた。今年の6月に地植えする予定である。1ヘクタールあたり100本だから、250ヘクタール分になる。こうして今度は、森林がカカオをゆっくり食べていく。

「カカオが森を食べないようにするために、最近全く新しい視点からの試みがあります。」
どういう視点でしょうか。
「欧州のチョコレートの消費者が、カカオ農園が適正であるかどうかに関心を示すようになったのです。その適正さの一つとして、森林破壊をもたらす開発により生産されたカカオではない、という証明が求められるようになっています。隣のササンドラ地方の、あるカカオ農園は、欧州のNGOにより、カカオを適正に作っているという認証を受けました。そして、その結果、カカオ豆が高い価格で安定して出荷できるようになった。この話は、この地方の農家の大きな関心を引いています。」

森林公社では、すでに熱帯木材について、森林破壊によらない木材であるとの認証を行っている。カカオについても、森林公社がそうした認証機関になれないか、農業省などと話を始めている。つまり、森林保全に協力している農家が生産したカカオに、その旨の認証を行う。チョコが森を食べていないか。消費者として関心を持つことが、森林保護の第一歩となるのである。

 カカオ畑(中層)の上にメリナの林

 並べて植えられたメリナ

 カカオ畑の中にメリナの柱

 成長が早く、15年でこの太さ

 カカオはまだ盛んに実を付けている

 育苗場に入る

 苗を育てる

 ニャンゴの木の苗

 マコレの幼木

 ラピド・グラ保護林の地図
青い部分が農地指定地域。それ以外の地域を原生林に戻す。


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