変更は一切ない。せっかくなので最後に付記をつけておいた。
選挙の度にかわる得票率をスウィングと呼ぶ。
前回の選挙で得票率が20パーセントであった。今回の選挙では25パーセントになった。このときのスウィングは+5である。
では小選挙区比例代表並立制がはじまった96年の総選挙から5回分の自民党と民主党のスウィングをみてみる。小選挙区分と比例分を同時に掲載する。
自由民主党 民主党
小 比 小 比
96
↓ +2.38 -4.45 +16.02 +9.08
00
↓ +2.84 +6.65 +9.04 +12.21
03
↓ +15.37 +16.47 -0.22 -6.37
05
↓ -10.52 -24.83 +11.0 +11.38
09
こんな数字だけでも多くのことが読み取れる。と同時に、何が政治的に「失われた10年」だったのかもはっきりする。
まずは、自民党のスウィングだが、03→05→09でプラス16.47から-24.83という変化だが、こんな激しい変化は戦後の憲政史においてはじめてである。戦前に一度1932年総選挙で+20.6から36年総選挙で-20.8と変化した政友会のケースがあるが、それに匹敵する変化となっている。
川人貞史はアメリカの選挙の分析から大きくスウィングが動いたとき、共和党も民主党も支持者や主張が大きく変化したことを発見した。たとえば、アメリカの民主党がF.ルーズベルトのときのニューディール連合に変化したのは、それまで共和党の黄金時代が続いたからであった。
戦前日本でも政友会はどちらかといえば親陸軍的な傾向を1936年まではもっていた。それが、36年総選挙の大敗北後は軍から距離をとりはじめる。
このように、自民党もどれくらい続くか分からない野党の期間に新しい支持者の獲得と明確な主張がみられるようになれば、政権交代可能な政党政治が日本に出現することになる。
次に00→03の自民党と民主党のスウィングだが、小選挙区・比例区ともに両党ともプラスに転じている。これは何を意味しているかというと、この選挙で小選挙区制の効果が表れ始めたことがみてとれる。
両党ともプラスになるということは、他の小政党が割りを食っているということだ。03年選挙の直前に民主党と小沢一郎率いる自由党の合併(民由合併)があるので、割りを食った政党とは社民党と共産党に他ならない(社民党と共産党のスウィング分析は回を改めて行う)。
小選挙区比例代表並立制になって3回目でようやく小選挙区制の効果があらわれたのは、有権者が小選挙区のゲームのルールに慣れてきたことと(だから投票率が60パーセント台に回復した一因であろうということは前に述べた)、社民党・共産党がSNTV(中選挙区制)のままの選挙作戦を続けたことに他ならない。つまり、有権者も政党もなかなか慣習からは逃れられなかったのである。
このあたりは、イタリア議会政治と日本の議会政治を比較分析している後房雄に詳しい。
3つめは03→05→09の民主党のスウィング変化である。05年総選挙で民主党は確かに議席の上では177から112へと大敗したが、スウィング分析では大敗していないことがよくわかる。小選挙区ではたかが-0.22なのだから。要はこのときの自民党の小選挙区での+15.37というのは民主党から奪ったものではないことがわかる。比例区の落ち込みも今回の自民党の-24.83と比べたらはるかに小さい。
05年総選挙の見どころは、郵政民営化反対議員を自民党から追放し、彼らを倒すために刺客を送るといったわかりやすい物語であった。自民党への支持は、そこから来ているわけで、いわば民主党から直接奪った要素が少ない(いわゆる「行って来い」になっていない)のだ。
それに比べると09年の選挙におけるスウィングは自民党が失った分を民主党が奪っている、つまり、「行って来い」になっているのだ。
これは、今後の自民党の再建の困難さともつながってくる。民主党は05年の総選挙で負けたというものの、党の中枢を占める幹部は落選を免れた。比例復活した議員が中堅幹部に多かったからである。ところが、自民党は今後の自民党を背負う中堅幹部が軒並み落選している。よく09年の選挙の結果は05年の真逆だ、といわれているけど、内実は全く異なっているといえよう。
つまり、自民党の再建は民主党の敵失を待てばよいといった簡単なものではないのだ。その意味で、民主党は05年以後自民党の敵失を待てばよかったわけで、実際に、民主党勝利の原因は安倍、福田、麻生の三代にわたる無策=敵失が大きいものになっている。
今の時点では、この選挙で民主党を勝たせた有権者が「やばいなぁ、今度は自民党にしよう」という判断をとると、自民党は今回の敗北を教訓にしないまま党勢を回復し、政権交代可能な政党政治が実現しても、日本の社会のための政治にはならないということだけは断言できる。
イギリス労働党もサッチャー以後の保守党優勢の中で「第三の道」へと舵を切れた。アメリカ民主党も前述の通り。日本の政治も今後の民主党のがんばりと自民の身を切る思いの変身が求められているのである。
付記:2010年の参議院通常選挙で民主党が敗北したことにより、自民党は息を吹き返したようにみえる。ところがこうなると、自民党が必死の選択のなかで路線を変更していこうとする流れが止まってしまう。鳩山政権から菅政権へと移り、大地震の影響もあり政治の季節は遠ざかっているが、民主党への支持が高いとは思われない。こうなると、自民党が表面的な反省にとどまるだけではなく、民主党が解体していくという流れになったら新進党の二の舞になってしまう。こうなると日本の政治はますます漂流していくであろう。日本の政治のためには民主党政権が任期満了まで総選挙をおこなわず、その間になんとか党勢を回復させ政権を次の総選挙を乗り越えて維持することであろう。ただし、この見解は現行の小選挙区制を基本とした小選挙区比例代表並立制を前提としている。二党制ではなく穏健な多党制(政党数が3~5にとどまる)を理想像とするなら全く違う見解となる。