上発地村から

標高934mぐらい日記

遥かなる雲南の旅 第十幕(天空の村 営盤  深夜の訪問者編)

2018年05月10日 | Weblog
深夜10時の突然のチャイム これはただ事ではない、直観と同時に不安が襲った。

俺は部屋の明かりをつけ入口のドアに向かい、少し慌て気味に鍵を回しドアを開けた。するとそこには四人連れの男性が立っている。
何かしゃべりかけられたが全くわからない、というよりもまず何事が起きたのか理解できなかった。すぐにS氏が出てきて彼らの中の一番背の高い一人と何か言葉を交わし、わかったわかったというような相槌を打ってから俺に「国境警察らしい、とりあえずパスポートチェックしたいと言ってる」と俺にパスポートの提示を促した。この時点で俺の動揺はピークに達していた。日本ではほとんど(一、二回はあったと思うが)職務質問を受けたことがないので、警察を前にして異様に緊張してしまっている。それに寝入りばなの完全にリラックスしていたところだったので余計に振れ幅は大きい。慌ててリュックをまさぐり、手にしたパスポートを背の高い警察官に渡した。四人とも若そうな警官だったが、その中ではその背の高い警官が一番年上のようで、服装も階級が上っていう感じだった。彼は僕に(文中で自分の呼称が僕になったり俺になったりコロコロ変わるのはその時の自分の立ち位置や気分や諸々が影響しているためで、読みづらいかもかもしれませんがご容赦下さい)何か話しかけてきたがやはり理解できなかったのでS氏に通訳をお願いした。「なんの目的でここに来たのか?」「これからどこに行くのか?」「日本での職業は何か?」といったことだった。S氏に「農家って言ってくれ!」って言うと「それは一番ダメな答えだよ」「中国で農民っていったら前にも言ったけど職業不詳みたいなもんだ!」と声に出して俺を制しした。そしたらS氏は機転を利かせ「ホテルの従業員です、僕ら二人とも王子大饭店で働いています」と答えた。確かにS氏はスキー場の名パトローラー、俺も二月まではそこで働かせてもらっていたのであながち嘘でもない。そんな感じでのらりくらりとS氏は質問に答え、とにかく怪しい人間ではないっていうアピールをしていた。実際ただ観光をしているだけで(ここでははずれちゃったけど)なんにもやましいことなんかしていない。もしも金平で手に入れたレインボー傘や竹の背負いカゴが持ち込み禁止品だったりしたらどうなるかはわからないが、とりあえずやばそうな麻薬なんかは誰かがリュックに忍び込ませていない限り入っていないはずだ。背高ノッポ警官は一通り質問を終えると、パスポートの写真を撮ると言って持ってきたカメラで僕らのパスポートを一枚づつ写真に収めた。僕の動揺はいくらか落ち着いてきたがまだまだ油断は禁物、小市民を装い神妙にノッポ警官の顔を見ながら「なんとかお許しくださいお代官様」的な雰囲気を出して見逃してもらう努力していた。日本では携帯電話の違反で捕まった時なんか軽く不貞腐れた態度を取ったりしてたのだが、中国の山奥では飼いならされたおとなしい犬のようになっていた。権力の前では、なんて俺は卑屈な人間なんだろうと多少自己嫌悪に陥ったが、しょっ引かれて豚箱に入れられ何年も雲南で拘束されるなんてことになったら泣くに泣けない。そんなことを思い不安そうで情けない顔をしている俺に一緒に来ていた腰巾着の警官は「大丈夫大丈夫…」というようなにこやかな表情を送ってくれていた。それがどういう意味ととらえていいのか判断付きかねたのだがその彼の胸には「SWAT」のエンブレム、脅しなのかハッタリなのかそこも判断付きかねていた。
そうこうしながらS氏と20分ほどやり取りをしノッポ警官も納得し最後は笑顔になっていた。「では、お騒がせしました、気を付けて」みたいな事を中国語で言い、部屋を出て行く際には英語で「See you!」と言って腰巾着と共に部屋を出て行った。理解できる言葉で話されればこっちも安心する、こちらも笑顔で「See you!」と答えたが腹の中では「コンニャロー!」って思っていた。
四人組警官が帰ったあと僕らは日本語で心の声をぶちまけた。「こんな夜に来やがって!」「誰かがチクったに違いない!」「ほんとビックリしたなぁもう」などと言っていたらまたもやチャイムが「キンコーン」と鳴った!!   ドアを開けると四人組が再び立っている……
「やっぱ逮捕かぁ」とがっかりし雲南拘留生活が頭をよぎり一瞬家族の顔が走馬灯のように浮かび上がった。

しかしそうではなかった。どうやらパスポートの写真だけではなくて、本人がパスポートをもって写ってる写真が欲しいということだった。そうでないとノッポ警官が上司に「なにやってんだ!」と怒られるらしい。僕らははいはい何でもしまっせとパスポートを手に犯罪者が撮るような正面と横からの写真をグラビアアイドル並みに愛想いい顔でポージングした。これぐらい念入りに仕事しないと国境警察なんて普段はやることなんてないんだからと僕らも納得し全面的に協力、ノッポ警官は写真に収めると、ちゃんと撮れているか確認し再度「See you!」といって部屋を出て行った。

僕らは溜息をついてベットに寝転んだ。S氏は「しかたないよ、国境ではパスポートコントロールは当たり前、彼らだって仕事だからな」と言い「僕は過去に国境でもっとすごい修羅場を経験してる」と彼の武勇伝を聞かされた。もし一人で同じ状況になったらと思うとゾッとするような彼の体験談だった。今回もS氏のタフさに脱帽した。日本ではほとんど感じていなかったが中国では頼りになる男ナンバー1とあらためて彼を見直す結果になった。
さっきの出来事をベットで横になりながらああだこうだ話していたのだが、緊張が解けた僕らはどっと疲れが出たようでそのまま眠りに落ちていった。多分0時近くだったと思う…

ニワトリの鳴き声で目が覚めた。翌朝窓の外はうっすらした朝焼けの山並みの風景、多分あっちの方角に帰らなきゃいけないんだと思うと結構気が滅入る。本来ならば朝市を見る予定だったのだが、市はどうやら立ちそうにない、それではさっさとこの村からとんずらだということで、早々に荷物をまとめて外に出た。チェックアウトをしているS氏を横目に不良在庫がありそうなここの商店で品物を物色していたら、旧中国軍(そんなのない)がもっていたような深緑の水筒があったので思わず購入してしまった。リュックの外側に吊るしたらまるで山下清になってしまったが、日本に帰ったら携行ガソリンタンクに使えそうというイメージがバッチリ湧いていたのでよしとする。雇われ支配人家族に別れを告げ昨日到着したメインストリートに出る。すでに強面バスはスタンバっていて屋根の荷台に大きな荷物を積み上げていた。僕らも大きなリュックを預け、時間が少しあったので定番の朝ミーセンを食べに行った。たまには違う朝食にすればいいと思うのだがなぜかこれが食べたくなってしまう。昨日の店とは違う店だったが客が多いので美味しい店なんだろう。実際出てきたミーセンはそば粉麺で野菜たっぷり具沢山、朝にピッタリのあっさり味で美味しかった。S氏と同じものを注文しているのになぜか色合いや具の量が違うのは、おばちゃんが適当に作ってるからなんだと思うが、そういうあいまいさが本来もっと日本に必要なんじゃないかと思う。だから最近俺はたいして美味くない料理店でも、それはそういうアトラクションだと思って楽しむようにしているのだ。
腹ごしらえを終えバスに向かうメインストリートでは一日の営みが始まりだしたようで人の往来も増えてきた。汚い街だなって最初思ってたのだが、早朝から掃除のおじさん達が現れてゴミを集めてトラックに積み込みはじめたら見る見るうちに道路は綺麗になっていった。
警察に怪しまれ、なんにもないただの砦の村だったけれどこれはこれでよかったんだと自分に言い聞かせながらバスに乗り込んで金平への帰路についた。これを書いていて気づいたのだが、ここ「营盘」は日本の漢字で書くと「営盤」となる。なんとなく砦の村のようなイメージがするのは気のせいだろうか…

「いきはよいよい帰りは怖いぃ~♪ 怖いながらも通おりゃんせぇ~通りゃんせ~♫」
とりあえず我々は再び「地獄の死ぬ死ぬロード」を通って帰らなければいけない運命となった…




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