スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

Vatternrundan 2006 (2) - 夜明けのグレンナと「半ケツ君」

2006-06-23 18:32:19 | Vatternrundan:自転車レース
この自転車レースの全行程は303kmと長いので、だいたい20~40kmごとにデポ(サービス・ステーション)が用意してある。パンや酢漬けキュウリ、水、ジュース、コーヒーなどが補給できる。私はエナージー・バーと呼ばれるスナックや、ゼリー状の栄養補給ドリンクをたくさん背中ポケットに最初から用意してきている。

毎回、デポに差し掛かるたびに、ここで休憩すべきか、先へ急ぐべきか、と迷う。デポに入ってしまうと、混雑に巻き込まれてしまって遅くなる、でも、去年の経験から何となく分かってきたのは、少しでもいいから自転車を降りて休憩したほうが、私の場合、結果的に早く走れる、ということ。

なので、名コンビの“7339”が先を急いでしまっても、私は最初のデポで少し休憩することにした。

さて、再び走りだす。あまりいい集団が見つからず、スピードも不安定な少人数の集団に仕方なく付くことになった。Ödeshögという集落を抜けると、なだらかな起伏が始まる。上り坂なので、集団もすぐに離散してしまう。たいてい、平地では同じペースの人たちも、上り坂ではペースの違いが現れてしまうものなのだ。私は今年も上り坂は強い。果敢に登りきってみたものの、後ろに誰も付いて来ず、集団形成も無理なので、そのまま一人で先を急ぐ。

一部、森の中を抜けるものの、道の右手にはVättern湖が広がっている。湖に比べて道路がかなり高いところを走っているので、ずっと遠くまで見渡せる。湖に浮かぶ島Visingsöの灯も窺える。2時を回り、沈んだ太陽が北東の空を少しずつ、淡く染めていく。それに水面にかすかに跳ね返って、Vättern湖がほのかに輝いているのが見える。

Vättern湖は水深がかなり深いことで有名だ。だから冬はなかなか凍りにくく、夏は逆になかなか温まらない。それがよく分かるのが、高地からGrännaの町に向かって坂を下っていくときだ。気温が急に下がるのだ。つまり、暖かい空気は軽いので、高地は暖かいが、低地で湖近くのGrännaには湖に冷やされた空気が立ち込めているのだ。自転車で坂を駆け下りると、急にヒヤッとして目が覚める。特に、ちょうどこの時間は夜明け前の一番寒いときだ。駆け下りたところで、“愛しの7339”を追い抜いた。やはり、休憩した私のほうが早かった。

Grännaの町は2キロほど石畳だ。だから、走りにくい。父親はいい眠気覚ましになってよい、という。これも父から後から聞いた話だが、今年は自転車のライトがたくさん落ちていたとのこと。振動でつい落としてしまった人が多かったのだろう。

Grännaの町を越えて、小さな丘を越えると、Grännaのデポがある。
※動画(音が出ます)

Grännaのデポ(2時58分)

Grännaのデポ(3時00分)
暗く写っていますが、雰囲気が伝われば幸いです

Grännaのデポで気がついた。なんと、まだ3時前!平均時速30km以上の、去年からはとても考えられない速さで来てしまった。この調子で行けば、次のJönköping(ヨンショーピン)にも4時前に着いてしまう。実は、ヨンショーピンでは、その町に住むキコママ・Snickareさん一家とコース傍の芝生の上で朝ごはんを食べる約束になっていた。去年のペースを考慮して、だいたい5時ごろに出てきてもらう予定になっていた。なのに、もう既に一時間も予定が繰り上がってしまった! 4時から出てきてもらうのは申し訳ない。一緒に朝ごはんを食べるのは無理と思いつつ、携帯メールを入れておく。

GrännaからJönköpingまでは走りなれた道。いくつかアップダウンがあるものの、全体としてはなだらかな下り調子だ。一人で練習として走っていたときは、上り坂が辛かったけれど、今こうして十数人で隊列を組んで走っているとスイスイ走られる。向かい風の影響が少ないことも理由の一つだし、負けてられるかという根性が自然と出てくるからかもしれない。

私の目の前を走るサイクリストの服装が変だ、と気づく。自転車用のパンツの右半分に裂け目が入って、尻が半分丸見え。おそらく、どこかで転んだのだろう。上り坂では相変わらず私のほうが早く「半ケツ君」の前に出る。すると、下り坂では「半ケツ君」が横をかすめて追い越していく。次の上りでまた私が追い越し、下りで彼が前に出る。こんな風に、追い越し・追い越されが続いても、また平坦な道に来て、隊列ができると、なぜか「半ケツ君」が私のすぐ目の前にいるのだ。恐るべし「半ケツ君」。なんという偶然だろう。それとも、そんなに私に半ケツを見せたいのか?

そんな「半ケツ君」の攻撃に耐えながらも、気づいてみると、平均時速33kmくらいで、この区間を走っていた。私の自転車だと、普段の練習ではよほどの追い風じゃないと、こんなスピードは出ない。

Jönköpingの手前8kmほどに大きな峠が待ち構えている。これをクリアすると、あとはJönköpingのデポまでまっしぐら。4時前、もう十分明るい。


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