スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

WikileaksがNATO軍の極秘文書を暴露(1)

2010-08-15 08:51:06 | コラム
Wikileaksというサイトがある。オーストラリア人のJulian Assangeが3年前に立ち上げたもので、世界の政府・行政機関大きな企業が公にしない重要な情報をリークして、一般の人々に公開することを目的としている。権力を持つがゆえに情報を操作できる立場にある人々や団体に監視のメスを入れ、明らかになった情報を一般の人々とも共有する活動は、ジャーナリズム本来のあるべき姿をとことん追求したものだという見方もできる。


世界的に注目を集めたのは、2007年にイラクに駐留するアメリカ軍がイラク人のジャーナリストや民間人合わせて18人をヘリコプターから射撃・殺害した映像を、今年4月初めにネット上でリークしたときだった。内部告発によって手に入れた映像をうまく編集したもので、世界の人々を震撼させた。たちまち世界のメディアがこれを報じ、スウェーデン・テレビの夜のニュースもトップで扱った。私のブログでも取り上げた。

<過去の記事>
2010-04-08:イラクのアメリカ軍
(ただし、私は当然ながら日本のテレビも取り上げただろうから日本でも既に話題になっていただろう、と思っていたが、実際にはNHKをはじめ、ほとんど話題にしていなかったという。世界の出来事が日本ではなかなか伝わらないことを象徴する、さらなる好例だと思った。7月になってバラエティー番組が取り上げていた)

Wikileaksが過去にリークした目玉情報は他にもある。2009年8月には、リーマンショックを受けて倒産したアイスランドの大手銀行カウプティングの内部資料を公開した。そこでは、金融危機以前にこの銀行が法に反するリスクの高い取引を行っていたことが明らかにされていた。また、2008年11月には、イギリスの極右政党BNPの党員名簿がWikileaksから公表された。ここには1万人を超える名前があったが、中には警察官や医師、教会関係者などの名前が多く見られたという。

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さて、そのWikileaksが7月26日に新たな情報をリークした。アフガニスタンで活動するアメリカ軍をはじめとするNATO軍の記録だ。2004年以降の、現場で治安活動をする部隊の日々の報告や現地のタリバーン勢力に対する軍事活動の詳細などの極秘文書9万ページを整理することなく、ネット上で公開したのである。

ここには、各作戦でのNATO軍・タリバーン勢力の双方の負傷者や死者に関する記録だけでなく、NATO軍が軍事作戦の中で犠牲にした民間人や子供の数などの情報も多く含まれており、アメリカ軍をはじめとするNATO軍のイメージをさらに悪くするものであった。さらに、そのような血にまみれた戦争の現実だけでなく、近年になってタリバーン勢力が攻勢をさらに強めておりNATO軍が劣勢にあることや、隣国パキスタンの治安部隊がタリバーン勢力と水面下で手を結んでいることなど、NATO軍を送り出している西側諸国の世論にも大きな影響を与える内容もあった。また、タリバーン勢力の要人を米軍の特殊部隊が暗殺する計画など、法的に問題を孕んでいる作戦に関する情報もあった。

たしかに、アフガニスタン情勢に関するこれらの情報は何も目新しいものではなく、欧米のメディアが既に伝えてきたことであったが、それを詳細に記述した米軍やNATO各軍の公式の極秘文書が公にされたことの史料的価値は高い。

極秘情報の公表に最も激怒したのはアメリカ国防総省だった。Wikileaksに対して、公表の中止と新たな情報の公表中止を求めたのだった(というのも、Wikileaks側はさらに1万5千ページの文書を公開すると言っていたためだ)。また、スウェーデンの国防省もいい思いはしなかった。スウェーデンはNATOの非加盟国ではあるものの米英軍のアフガニスタン侵攻後の平和維持活動が国連のマンデートを得ているとの理由で、自国の兵士500人あまりをアフガニスタンの比較的落ち着いている地域に駐留させている。だから、スウェーデン軍の基地や作戦の情報なども、公表された情報に含まれているからだ。

そんな中、8月6日、スウェーデンの日刊紙がこのWikileaksの件に関して、あるスクープを流した。Wikileaksが利用しているサーバーは、実はストックホルム近郊にある小さなIT企業のものだというのだ。Wikileaksはこの企業が「口が堅い」ことを評価して、契約を結んだのだという。公開している資料はこのサーバーのほかにも、予備が世界の各地に用意されているらしいが、大元はスウェーデンから発信されているため、スウェーデンの基本法(憲法に相当)の一部である「出版の自由に関する法令」や「表現の自由に関する基本法」の保護を受けることになる。そのため、アメリカ政府がこのサーバーを簡単にストップさせることはできない。

そのあたりの折衝がアメリカ政府とスウェーデン政府の間で現在続いているとか(いないとか)。ただし、仮にストップしたところで、おそらく別のサーバーから流れることになるだろうから意味がないだろう。


さて、大きな権力に果敢に挑んで、知られざる情報を暴こうとするWikileaksだが、今回のリークに関しては、果たして「正義の味方」と呼ぶのが本当にふさわしいのか、疑問の声もたくさん上がっている。次回はそれについて。(続く)

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2 コメント

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Unknown (Yoshi )
2010-08-17 09:43:24
表現の自由・出版の自由を保護する法制度に、先進国間でどこまで違いがあるのか、詳しく知らない私は興味があります。わざわざスウェーデンに、ということは、保護の度合いがスウェーデンで高いということでしょうか?
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昨日のニュース (里の猫)
2010-08-16 03:57:46
WikiLeaks は根拠地をスウェーデンにも作るように登録をしたそうですね。
昨日のニュースで言ってました。
スウェーデンの法律で完全に守られることを狙っているようでした。
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