中道右派政権が2014年の予算を議会に提出したことを2つ前のブログ記事で書いた。そして、その大きな柱が、勤労所得税減税の拡大(120億クローナ)、国税所得税の課税最低限の引き上げ(30億クローナ)、年金受給者の減税(25億クローナ)による減税政策であることにも触れた。
しかし、スウェーデン議会がここ1,2週間の間、ずっと揉めているのは、この減税案のうち「国税所得税の課税最低限の引き上げ」を野党が議会で否決しようとしているためだ。
スウェーデンの所得税にはコミューン(市)とランスティング(県)が課税する地方所得税とともに、一定の勤労所得水準を超えた高所得層のみが支払う国税所得税がある。
所得税の限界税率をグラフで表すと以下のようになる。
31.6%までは地方所得税(地方自治体によって税率にばらつきがあるので31.6%というのはその平均)であり、ある水準を超えると20%の国税が上乗せされ、さらに所得が高くなると25%が上乗せされる。
私がここで書いている「国税所得税の課税最低限」とは国税が課税され始める所得水準のことで、いま揉めているのは国税第1階層(20%)の課税最低限を現政権が引き上げようとしているためである。(第2階層(25%)の課税最低限の引き上げは今回は盛り込まれていない。)
当然ながら、課税最低限が引き上げられれば、国税の納税対象となる人が減る。つまり、中・高所得層に有利な政策であり、その分、国の税収も減る。社会民主党や左党は減税にそもそも反対であるし、さらに中・高所得層に有利な減税であるので、この課税最低限の引き上げにも反対だが、環境党を加えても議会では過半数に達しない。しかし、移民排斥を掲げるポピュリスト政党であるスウェーデン民主党も反対を表明(支持層に低所得者が多いため)しており、彼らを加えれば過半数に達するため、この減税案を否決することができる、というわけだ。
ちなみに、「国税所得税の課税最低限」は実は毎年、引き上げられている。これは経済成長にともなう所得水準の上昇に対応するためであり、もし引き上げがなければ、年を経るにつれて大部分の納税者が国税所得税を払うことになってしまうからだ。引き上げのルールというのは基本的に決まっていて、物価上昇率+2%だ。(つまり、実質所得上昇率が平均で年2%と想定されている)
では、今回なぜ左派政党およびスウェーデン民主党が反対しているかというと、引き上げ幅がこの「物価上昇率+2%」というルールを大きく上回るものであるからだ。下の表で示したのは、1999年から現在までの課税最低限の変遷だ(ただし、ここでは基礎控除を除いた後の年収を示している)。
四角で囲った年は、「物価上昇率+2%」というルールではなく政治的に課税最低限が変化した年である。括弧で示したのは「物価上昇率+2%」に基づく数値。つまり、赤くした数値は政治的にそれよりも引き上げられた年であり、青くした数値は政治的に引き下げられた年だ。
表の右側に示したのは、20歳以上の納税者のうち、(基礎控除後の)年収がそれぞれの課税最低限を上回る人の割合。ここから分かるように、課税最低限が政治的に引き上げると、国税の課税対象となる人の割合が減少するし、逆に引き下げられると割合が減っていることが分かる。ただし、2004年から2006年にかけて国税所得税を収める人の割合が16%から18%に増えているが、この時の課税最低限の引き下げはごく僅かなので、そのせいではなく、好景気による所得の伸びが大きかったためだろう。その証拠に、2007年は引き下げがなかったにもかかわらず割合が20%に増えている。(国税25%を収める人の割合があまり変化しないのは、もともとこの割合が小さいためだろう)
(社会民主党政権のもとでは課税最低限の引き下げだけでなく、引き上げも2000年から2002年にかけて行われていることに驚く人もいるかもしれないが、引き上げ幅の半分は、公的年金保険料の控除制度が高所得者層に不利になる形で変更されたことに対する配慮であることに注意する必要がある)
現在の中道保守政権が2006年秋に政権をとってから行ったのが、課税年2009年における課税最低限(第1階層)の大幅な引き上げだ。(政治的な)引き上げ幅は18100クローナと大きく、これによって国税所得税の納税者割合が19%から14%へと一気に減った。
そして、今回の引き上げ案。(政治的な)引き上げ幅は15000クローナとかなり大きい。近年の国税納税者の割合が分からないので予想が難しいが、現在おそらく15%くらいなのが12-13%前後に下がるのではないだろうか?
では、この最低課税限度の引き上げが良いのかどうかという判断だが、私は引き上げ過ぎだと思うし、財政に余裕が無い今、やるべきことではないと思うので現政権の案には反対だ。しかし、社会民主党をはじめとする左派ブロックがこれを否決するためにはスウェーデン民主党と足並みを揃える必要があり、そこまでして否決するくらいなら、今回は見逃して、来年の国政選挙で政権を奪還してから、もとに戻せば良いことだと思う。減税額は30億クローナ。社会民主党がいま、自らの威信を賭けてまで否決すべきことではない。
しかし、スウェーデン議会がここ1,2週間の間、ずっと揉めているのは、この減税案のうち「国税所得税の課税最低限の引き上げ」を野党が議会で否決しようとしているためだ。
スウェーデンの所得税にはコミューン(市)とランスティング(県)が課税する地方所得税とともに、一定の勤労所得水準を超えた高所得層のみが支払う国税所得税がある。
所得税の限界税率をグラフで表すと以下のようになる。
31.6%までは地方所得税(地方自治体によって税率にばらつきがあるので31.6%というのはその平均)であり、ある水準を超えると20%の国税が上乗せされ、さらに所得が高くなると25%が上乗せされる。
私がここで書いている「国税所得税の課税最低限」とは国税が課税され始める所得水準のことで、いま揉めているのは国税第1階層(20%)の課税最低限を現政権が引き上げようとしているためである。(第2階層(25%)の課税最低限の引き上げは今回は盛り込まれていない。)
当然ながら、課税最低限が引き上げられれば、国税の納税対象となる人が減る。つまり、中・高所得層に有利な政策であり、その分、国の税収も減る。社会民主党や左党は減税にそもそも反対であるし、さらに中・高所得層に有利な減税であるので、この課税最低限の引き上げにも反対だが、環境党を加えても議会では過半数に達しない。しかし、移民排斥を掲げるポピュリスト政党であるスウェーデン民主党も反対を表明(支持層に低所得者が多いため)しており、彼らを加えれば過半数に達するため、この減税案を否決することができる、というわけだ。
ちなみに、「国税所得税の課税最低限」は実は毎年、引き上げられている。これは経済成長にともなう所得水準の上昇に対応するためであり、もし引き上げがなければ、年を経るにつれて大部分の納税者が国税所得税を払うことになってしまうからだ。引き上げのルールというのは基本的に決まっていて、物価上昇率+2%だ。(つまり、実質所得上昇率が平均で年2%と想定されている)
では、今回なぜ左派政党およびスウェーデン民主党が反対しているかというと、引き上げ幅がこの「物価上昇率+2%」というルールを大きく上回るものであるからだ。下の表で示したのは、1999年から現在までの課税最低限の変遷だ(ただし、ここでは基礎控除を除いた後の年収を示している)。
四角で囲った年は、「物価上昇率+2%」というルールではなく政治的に課税最低限が変化した年である。括弧で示したのは「物価上昇率+2%」に基づく数値。つまり、赤くした数値は政治的にそれよりも引き上げられた年であり、青くした数値は政治的に引き下げられた年だ。
表の右側に示したのは、20歳以上の納税者のうち、(基礎控除後の)年収がそれぞれの課税最低限を上回る人の割合。ここから分かるように、課税最低限が政治的に引き上げると、国税の課税対象となる人の割合が減少するし、逆に引き下げられると割合が減っていることが分かる。ただし、2004年から2006年にかけて国税所得税を収める人の割合が16%から18%に増えているが、この時の課税最低限の引き下げはごく僅かなので、そのせいではなく、好景気による所得の伸びが大きかったためだろう。その証拠に、2007年は引き下げがなかったにもかかわらず割合が20%に増えている。(国税25%を収める人の割合があまり変化しないのは、もともとこの割合が小さいためだろう)
(社会民主党政権のもとでは課税最低限の引き下げだけでなく、引き上げも2000年から2002年にかけて行われていることに驚く人もいるかもしれないが、引き上げ幅の半分は、公的年金保険料の控除制度が高所得者層に不利になる形で変更されたことに対する配慮であることに注意する必要がある)
現在の中道保守政権が2006年秋に政権をとってから行ったのが、課税年2009年における課税最低限(第1階層)の大幅な引き上げだ。(政治的な)引き上げ幅は18100クローナと大きく、これによって国税所得税の納税者割合が19%から14%へと一気に減った。
そして、今回の引き上げ案。(政治的な)引き上げ幅は15000クローナとかなり大きい。近年の国税納税者の割合が分からないので予想が難しいが、現在おそらく15%くらいなのが12-13%前後に下がるのではないだろうか?
では、この最低課税限度の引き上げが良いのかどうかという判断だが、私は引き上げ過ぎだと思うし、財政に余裕が無い今、やるべきことではないと思うので現政権の案には反対だ。しかし、社会民主党をはじめとする左派ブロックがこれを否決するためにはスウェーデン民主党と足並みを揃える必要があり、そこまでして否決するくらいなら、今回は見逃して、来年の国政選挙で政権を奪還してから、もとに戻せば良いことだと思う。減税額は30億クローナ。社会民主党がいま、自らの威信を賭けてまで否決すべきことではない。