前回は、公式統計による若年失業率(15-24歳)を額面通りに理解しないほうが良いということを書いた。そして、その理由として「失業者」の定義に「求職中の学生」が含まれてしまうことを挙げ、2012年3月時点の若年失業率である25.2%から「求職中の学生」を学生を除けば、だいたい15%くらいになることを示した。
今回はその続きだが、実はごく最近まで、スウェーデン中央統計庁は「求職中の学生」を非労働力と定義して失業率を算出し、それを公式統計として発表していた。しかし、それではILO(国際労働機関)が定める「失業者」の定義と異なるとして、EUはEU指令を通じてスウェーデン政府(および他の加盟国)に対し、ILOの定義を採用するよう要求していた。社会民主党政権は長い間、渋っていたが、2006年秋に政権に就いた中道右派連立は、2007年10月からILO基準に基づく失業率に移行することを決定したのだった。
旧定義と新定義(ILO基準)の大きな違いは、まず、求職中の(フルタイムの)学生が失業者と見なされるようになったこと、そして、もう一つは労働力統計で捕捉される年齢層が16-64歳から15-74歳に拡大されたことである。
そのため、2007年10月を境に、失業統計(とその基礎になっている労働力統計)に断絶が生じることになった。ただし、中央統計庁は過去の失業統計に新定義を適用した場合の失業率も、時間をさかのぼって算出し公表している(一方、旧定義による失業率の算出は2007年末で終了)。
それをグラフで示すと以下のようになる(月ごとの失業率)。
労働市場全体の失業率(旧定義:16-64歳、新定義:15-74歳)
ここから分かるように、新定義と旧定義の間で1.5-2%ほどの差がある。つまり、スウェーデンは新定義(ILO基準)に移行したことによって、一夜にして失業率が急上昇してしまったのである。
では、この差異はどこから生じているか?、労働力統計が対象とする年齢層の拡大(64歳→74歳)は大した影響がない。65-74歳の人で働き続けている人は一定の割合(この年齢層の総人口の13%ほど)いるが、それ以外の人はほぼ全員が非労働力であり、失業者はほとんどいないからだ(ただし、分母には影響を与える)。
むしろ、新旧の定義による失業率の差は、若年層の失業率の違いから来ている。下のグラフは15-24歳だけに限った場合の失業率を、新旧それぞれの定義で示したものだ。
若年者の失業率(旧定義:16-24歳、新定義:15-24歳)
ここから分かるのは、まずこの世代の失業率は季節間変動が非常に大きいことである。特に、新定義では山と谷の差が10%ポイント以上、年によっては15%ポイントもある。また、春先から6月にかけて高くなっていき、8月に急落するという一定パターンも見受けられる。これはおそらく、夏休みの間のサマージョブ探しが年明けから少しずつ始まり、夏休みを前にした6月にピークを迎えるからではないかと思う。そして、夏休みの真っ只中である7月になると新定義の失業率が旧定義のそれと一致するのも興味深い。つまり、夏休み中は「求職中の学生」がほとんどいなくなることを意味している。
以上から分かるのは「求職中の学生」を失業に含めるか含めないかで、15-24歳の若年失業率にここまで大きな差が出ることだ。
では、それ以外の年齢層の失業率はどうか? 下の図は、35歳以上の失業率を示したもの。
35歳以上の失業率(旧定義:35-64歳、新定義:35-74歳)
ここから分かるように、新定義と旧定義の間の差はほとんどない。月によって若干の変動はあるが、レベルの差は全くないといってよい。
この図では25-34歳を入れなかったが、それはこの年齢層では大学生が多く含まれるため、若年層(15-24歳)ほどではないにしろ、ある程度の乖離が生まれるからである。
25-34歳の失業率
今回は統計データばかり掲示したけれど、結局言いたかったのは、2007年10年に新定義(ILO基準)に移行したことによって、若年者の失業率がだいたい10%ポイント上昇し、全体としても1.5-2%ほど上昇してしまったことである。先に、社会民主党政権は新定義への以降を渋ってきたと書いたが、それは政権党として失業率が数字の上で上昇するのは困るからでもあるし、それだけでなく、中央統計庁の職員・分析官も新定義に基づく失業率を政策議論で用いるのは、誤解を招く恐れがあるとして反対していたからである。
ついでに言えば、実は現在の政策議論において、もはや野党となった社会民主党は、中道保守政権を批判する材料として、若年者の失業率が25%と高いことを槍玉に挙げているのだが、ご覧の通りここで使われている統計は、自分たちが採用するのを渋っていた定義に基づく統計である、というのは皮肉な話である。
今回はその続きだが、実はごく最近まで、スウェーデン中央統計庁は「求職中の学生」を非労働力と定義して失業率を算出し、それを公式統計として発表していた。しかし、それではILO(国際労働機関)が定める「失業者」の定義と異なるとして、EUはEU指令を通じてスウェーデン政府(および他の加盟国)に対し、ILOの定義を採用するよう要求していた。社会民主党政権は長い間、渋っていたが、2006年秋に政権に就いた中道右派連立は、2007年10月からILO基準に基づく失業率に移行することを決定したのだった。
旧定義と新定義(ILO基準)の大きな違いは、まず、求職中の(フルタイムの)学生が失業者と見なされるようになったこと、そして、もう一つは労働力統計で捕捉される年齢層が16-64歳から15-74歳に拡大されたことである。
そのため、2007年10月を境に、失業統計(とその基礎になっている労働力統計)に断絶が生じることになった。ただし、中央統計庁は過去の失業統計に新定義を適用した場合の失業率も、時間をさかのぼって算出し公表している(一方、旧定義による失業率の算出は2007年末で終了)。
それをグラフで示すと以下のようになる(月ごとの失業率)。
労働市場全体の失業率(旧定義:16-64歳、新定義:15-74歳)
ここから分かるように、新定義と旧定義の間で1.5-2%ほどの差がある。つまり、スウェーデンは新定義(ILO基準)に移行したことによって、一夜にして失業率が急上昇してしまったのである。
では、この差異はどこから生じているか?、労働力統計が対象とする年齢層の拡大(64歳→74歳)は大した影響がない。65-74歳の人で働き続けている人は一定の割合(この年齢層の総人口の13%ほど)いるが、それ以外の人はほぼ全員が非労働力であり、失業者はほとんどいないからだ(ただし、分母には影響を与える)。
むしろ、新旧の定義による失業率の差は、若年層の失業率の違いから来ている。下のグラフは15-24歳だけに限った場合の失業率を、新旧それぞれの定義で示したものだ。
若年者の失業率(旧定義:16-24歳、新定義:15-24歳)
ここから分かるのは、まずこの世代の失業率は季節間変動が非常に大きいことである。特に、新定義では山と谷の差が10%ポイント以上、年によっては15%ポイントもある。また、春先から6月にかけて高くなっていき、8月に急落するという一定パターンも見受けられる。これはおそらく、夏休みの間のサマージョブ探しが年明けから少しずつ始まり、夏休みを前にした6月にピークを迎えるからではないかと思う。そして、夏休みの真っ只中である7月になると新定義の失業率が旧定義のそれと一致するのも興味深い。つまり、夏休み中は「求職中の学生」がほとんどいなくなることを意味している。
以上から分かるのは「求職中の学生」を失業に含めるか含めないかで、15-24歳の若年失業率にここまで大きな差が出ることだ。
では、それ以外の年齢層の失業率はどうか? 下の図は、35歳以上の失業率を示したもの。
35歳以上の失業率(旧定義:35-64歳、新定義:35-74歳)
ここから分かるように、新定義と旧定義の間の差はほとんどない。月によって若干の変動はあるが、レベルの差は全くないといってよい。
この図では25-34歳を入れなかったが、それはこの年齢層では大学生が多く含まれるため、若年層(15-24歳)ほどではないにしろ、ある程度の乖離が生まれるからである。
25-34歳の失業率
今回は統計データばかり掲示したけれど、結局言いたかったのは、2007年10年に新定義(ILO基準)に移行したことによって、若年者の失業率がだいたい10%ポイント上昇し、全体としても1.5-2%ほど上昇してしまったことである。先に、社会民主党政権は新定義への以降を渋ってきたと書いたが、それは政権党として失業率が数字の上で上昇するのは困るからでもあるし、それだけでなく、中央統計庁の職員・分析官も新定義に基づく失業率を政策議論で用いるのは、誤解を招く恐れがあるとして反対していたからである。
ついでに言えば、実は現在の政策議論において、もはや野党となった社会民主党は、中道保守政権を批判する材料として、若年者の失業率が25%と高いことを槍玉に挙げているのだが、ご覧の通りここで使われている統計は、自分たちが採用するのを渋っていた定義に基づく統計である、というのは皮肉な話である。