2012年の本予算(通称「秋予算」)に向けた交渉が、連立政権の4党内で進められているが、重要な争点については本予算全体の発表を待つことなく、連立内で合意に至り次第、発表されている。重要な争点とは、前回の選挙で掲げられた公約にかかわる項目や、これまで連立与党内で意見が食い違っており行方が注目されてきた項目などである。
例えば、既に8月の段階で発表された合意は「勤労所得税額控除の額を2012年は据え置く」というものだった。連立政権側は2010年の総選挙において、現行の税額控除を財政状況が許せばという条件付で2012年に拡大することを公約に掲げていた。しかし、アメリカやヨーロッパ諸国の財政危機による景気の減退から、そのような余裕は2012年はないと判断して見送ることとした。
また、先日はこれまた総選挙での争点となっていた年金所得者減税も見送る、と発表した。
私が見るに、2006年秋に中道保守連立が政権についてから、財政的余裕が出るたびに、その余裕を使って社会保障や教育・福祉などの社会投資に充てるよりも、むしろ減税を行うことを優先する傾向が強くなっていたので、理由はともあれ以上のような減税が断念されたのは良かったと思う。
減税に関していえば、まだ未解決の争点がある。飲食業の消費税を引き下げるかどうかというものであり、2010年の総選挙のときにも各政党・陣営がその是非を盛んに議論していた。中道保守陣営は賛成であったし、左派陣営の中でも環境党は賛意を示していた。
2012年にこの減税を実行するかついてはまだ結論が出ていない。しかし、これにまつわる面白い話がある。
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スウェーデンの消費税というと、25%という高い税率が注目されがちだが、実際には12%と6%という低減税率もある。例えば、食料品や宿泊施設は12%であるし、公共交通や書籍・新聞、文化活動などは6%である。ただし、購入する財・サービスの種類に応じて税率に差をつけると、線引き問題が発生するし、監視のためのコストもかかるようになる。また、消費構造に歪みが生じ、経済的非効率を社会にもたらすという批判も経済学専門家の間から上がっている。
例えば、線引き問題の一例を挙げるために、食料品の消費税が12%であることに注目して欲しい。つまり、商店で食料品を買い、自宅に持ち帰れば消費税は12%である。これに対し、同じ食料でもレストランで食べた場合は25%の消費税が課税される。では、ここで生じる線引き問題は何か?
スウェーデンでは、レストランがテイクアウトサービスをやっていることが多い。ビザ屋や寿司屋、インド料理屋などがその代表例だ。そういった店では、その場で食事することもできるし、包装してもらって自宅に持ち帰って食べることもできる。そして、その区別によって適用される消費税率も変わってくる。つまり、テイクアウトした場合は「食料品」と見なされ消費税は12%となるが、その場で食べた場合は25%の消費税が掛かるのである。
実際のところ、テイクアウトができるレストランなどでは、テイクアウトするよりも座って食べるほうが値段(税込み表示)が少し高いことがあるが、それは、単に「レストランという空間を使って食事すること」に対する費用だけでなく、消費税率の違いも背景にあるのである。
しかし、その場で座って食べるか、自宅に持ち帰るかは、明確に区別できるのだから、どうして線引き問題が生じるのか? それは、客の側には分からない。しかし、レストラン側の税申告で問題となる。つまり、どういうことかというと、レストラン側はレジを打つときに、その場で座って食べた客に対する売り上げも「テイクアウト」として登録するというインチキをする誘因が働くのである。そうすれば、消費税25%を含む代金を受け取っておきながら、国税庁には12%だけ収めればよい。
このようなインチキに対しては、国税庁も職員が客を装って抜き打ち調査をしている。例えば、あるレストランチェーン店では、検査によると客の93~94%がその場で食事をしていたにもかかわらず、国税庁に提出されたレジの記録には、テイクアウトと登録された売り上げが全体の70%を占めていたという。このようなインチキが発覚すると、国税庁は会計違反として訴えを起こし、重い罰金を課す。
だから、もし飲食業の消費税も食料品と同じ12%に引き下げれば、このようなインチキは当然ながらなくなるわけである。飲食業の業界団体も「消費税率が12%に引き下げられれば、あくどい経営者が得をすることはなくなり、真面目な経営者が報われることになる」と、税率の引き下げに賛成している。もちろん彼らにとっては、税率が下がることで、飲食の価格が下がれば、それだけ需要が増え、売り上げが大きくなる、というより大きな狙いもあるだろうが。
ちなみに、2010年の総選挙で争点となったときは、そのようなインチキをなくすということは全く議論されず、むしろ、モノの大量消費社会から娯楽・リクリエーションといったサービス社会への移行を支援するとともに、労働集約的なサービス産業を育てることが、賛成派の主要な論拠であった。(環境党が賛成したのも、モノの大量消費からの脱却が根拠にあった)
しかし、減税を行えば、その分だけ税収減につながり、社会保障などへ充てる財源がその分へってしまう。それに、ある特定の産業を政策的に保護するのも好ましくないからと、社会民主党や左党は反対していたのであった。
例えば、既に8月の段階で発表された合意は「勤労所得税額控除の額を2012年は据え置く」というものだった。連立政権側は2010年の総選挙において、現行の税額控除を財政状況が許せばという条件付で2012年に拡大することを公約に掲げていた。しかし、アメリカやヨーロッパ諸国の財政危機による景気の減退から、そのような余裕は2012年はないと判断して見送ることとした。
また、先日はこれまた総選挙での争点となっていた年金所得者減税も見送る、と発表した。
私が見るに、2006年秋に中道保守連立が政権についてから、財政的余裕が出るたびに、その余裕を使って社会保障や教育・福祉などの社会投資に充てるよりも、むしろ減税を行うことを優先する傾向が強くなっていたので、理由はともあれ以上のような減税が断念されたのは良かったと思う。
減税に関していえば、まだ未解決の争点がある。飲食業の消費税を引き下げるかどうかというものであり、2010年の総選挙のときにも各政党・陣営がその是非を盛んに議論していた。中道保守陣営は賛成であったし、左派陣営の中でも環境党は賛意を示していた。
2012年にこの減税を実行するかついてはまだ結論が出ていない。しかし、これにまつわる面白い話がある。
スウェーデンの消費税というと、25%という高い税率が注目されがちだが、実際には12%と6%という低減税率もある。例えば、食料品や宿泊施設は12%であるし、公共交通や書籍・新聞、文化活動などは6%である。ただし、購入する財・サービスの種類に応じて税率に差をつけると、線引き問題が発生するし、監視のためのコストもかかるようになる。また、消費構造に歪みが生じ、経済的非効率を社会にもたらすという批判も経済学専門家の間から上がっている。
例えば、線引き問題の一例を挙げるために、食料品の消費税が12%であることに注目して欲しい。つまり、商店で食料品を買い、自宅に持ち帰れば消費税は12%である。これに対し、同じ食料でもレストランで食べた場合は25%の消費税が課税される。では、ここで生じる線引き問題は何か?
スウェーデンでは、レストランがテイクアウトサービスをやっていることが多い。ビザ屋や寿司屋、インド料理屋などがその代表例だ。そういった店では、その場で食事することもできるし、包装してもらって自宅に持ち帰って食べることもできる。そして、その区別によって適用される消費税率も変わってくる。つまり、テイクアウトした場合は「食料品」と見なされ消費税は12%となるが、その場で食べた場合は25%の消費税が掛かるのである。
実際のところ、テイクアウトができるレストランなどでは、テイクアウトするよりも座って食べるほうが値段(税込み表示)が少し高いことがあるが、それは、単に「レストランという空間を使って食事すること」に対する費用だけでなく、消費税率の違いも背景にあるのである。
しかし、その場で座って食べるか、自宅に持ち帰るかは、明確に区別できるのだから、どうして線引き問題が生じるのか? それは、客の側には分からない。しかし、レストラン側の税申告で問題となる。つまり、どういうことかというと、レストラン側はレジを打つときに、その場で座って食べた客に対する売り上げも「テイクアウト」として登録するというインチキをする誘因が働くのである。そうすれば、消費税25%を含む代金を受け取っておきながら、国税庁には12%だけ収めればよい。
このようなインチキに対しては、国税庁も職員が客を装って抜き打ち調査をしている。例えば、あるレストランチェーン店では、検査によると客の93~94%がその場で食事をしていたにもかかわらず、国税庁に提出されたレジの記録には、テイクアウトと登録された売り上げが全体の70%を占めていたという。このようなインチキが発覚すると、国税庁は会計違反として訴えを起こし、重い罰金を課す。
だから、もし飲食業の消費税も食料品と同じ12%に引き下げれば、このようなインチキは当然ながらなくなるわけである。飲食業の業界団体も「消費税率が12%に引き下げられれば、あくどい経営者が得をすることはなくなり、真面目な経営者が報われることになる」と、税率の引き下げに賛成している。もちろん彼らにとっては、税率が下がることで、飲食の価格が下がれば、それだけ需要が増え、売り上げが大きくなる、というより大きな狙いもあるだろうが。
ちなみに、2010年の総選挙で争点となったときは、そのようなインチキをなくすということは全く議論されず、むしろ、モノの大量消費社会から娯楽・リクリエーションといったサービス社会への移行を支援するとともに、労働集約的なサービス産業を育てることが、賛成派の主要な論拠であった。(環境党が賛成したのも、モノの大量消費からの脱却が根拠にあった)
しかし、減税を行えば、その分だけ税収減につながり、社会保障などへ充てる財源がその分へってしまう。それに、ある特定の産業を政策的に保護するのも好ましくないからと、社会民主党や左党は反対していたのであった。