スウェーデンの今

スウェーデンに15年暮らし現在はストックホルム商科大学・欧州日本研究所で研究員

イラク総選挙の在外投票

2005-01-18 08:43:53 | コラム
イラクの議会総選挙が1月30日に迫ってきた。現地では選挙妨害を企てるテロが相次ぎ、選挙の準備もままならないようだ。一刻も早くイラクの統治が外国勢力からイラク人の手に実質的に移って欲しいことはやまやまだが、こうして事態が泥沼化した状態では、治安回復が先か外国軍撤退が先か、または外国軍の駐留と繰り返されるテロはどちらが卵でどちらが鶏なのか、ややこしいことはたくさんある。

ところで、選挙に向けて直実に準備を進めているのはイラクだけでではない。イラクの外でも14カ国で在外イラク人による投票が可能となる。政治難民、経済難民などの形で国外で生活するイラク人は400万人に上るという。そのうちの5万から7万人がスウェーデンで暮らす。一番多いのが、フセイン政権下で迫害を受けていたクルド系イラク人。その次に、シーア派イスラム教系、そしてキリスト教系諸派が続く。現地イラクで今回の選挙をボイコットする予定のスンニ派イスラム教徒はスウェーデンでは例外的。

こうして書いていると、ヨンショーピン大学のGhazi Shukur教授を思い出さずに入られない。僕が学部で論文を書くときに、統計と計量経済学の専門家としてずいぶんお世話になった。彼もまたイラク人だ。アラビア語訛の陽気なスウェーデン語を喋る。

イラク総選挙の在外投票は、国連の関連機関であるIOM (International Organization for Migration)が管理する。投票希望者は、今週末までに有権者登録をしなければならない。その際に必要なのがイラク人だという証拠を示すこと。①イラク人の父親を持つ(母親ではダメか?)、②イラクで出生した、③現在イラクの国籍を所持するか、もしくは過去に所持していた、このうちの一つを何らかの形によって証明できればよいらしいが、実際は必要な書類を集めるのが大変らしい。③についてだが、国外での生活の間にその国の国籍に切り替えた人もいるため、過去にイラク国籍を持っていただけでもイラク国政選挙への投票が認められる、ということだろう。

スウェーデンではストックホルムとヨーテボリに計3カ所に投票所が開かれる。
投票所の無いフィンランドとノルウェーに住む在外イラク人もここまでやって来て投票を行うことができるらしい。逆にスウェーデン南部に住むイラク人にとっては、隣国デンマークの首都コペンハーゲンの投票所のほうが近いため、こちらに行くこともできる。スウェーデン北部には投票所がないが、そこに住む人々はどうするのか気になるが、在スウェーデンのイラク人の95%がストックホルム、ヨーテボリ、コペンハーゲンから車で2、3時間の距離に住んでいるのだそうだ。

イラクとは対照的に、スウェーデンでの選挙妨害テロの危険は小さいといわれている。スウェーデンには様々なイラク人団体、協議会があるが、そのほとんどがイラク議会である「国民会議」という制度を積極的に支持し、今回の総選挙を民主主義への第一歩と捉えている。そして、それらが合同の選挙支援委員会を立ち上げ、スウェーデン国内での投票PR活動を押し進めている。スウェーデンでは、警察ではなく民間の警備会社が昼夜を徹して投票所の警備に当たる。

さて、スウェーデンではどの政党に票が集まると予想されるのか。1月13日付の朝刊Svenska Dagbladetによると、ここでのイラク人構成比を反映して、やはりクルド人政党同盟が一番人気。その次が、シーア・シスタニ派支持政党、そして、非宗教宗派的政党同盟と続く。異なる宗派・民族が対立するイラクだけに、国家統一のためには宗派・民族政党だけではなく、異なるグループをまたぐ政党の出現も注目すべき所だ。三番目の非宗教的政党とはどのようなものか詳細は分からないが、共産系・社会主義系も含むという。内戦後の旧ユーゴスラビアでも、それまで対立してきた各民族をまたぐイデオロギーというと、社会主義か中道左派の社会民主主義系以外に、見つけるのは難しい。イラクでも同じことが言えるのだろう。

アメリカが擁立して現在、首相を務めるIyad Allawi氏の政党はここではほとんど人気が無いという。フセイン政権のバース党に属し、その後アメリカCIAの手先となった過去を人々は問題視しているのだという。