本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

阿片王 満州の夜と霧 佐野眞一

2006-04-09 | ノンフィクション

 阿片王 満州の夜と霧 佐野眞一

 昭和初期に、上海から満州を舞台に阿片取引を仕切り、巨額の金を生み出した里見甫という男の生涯を辿った、”渾身”の作品です。

 図書館の”新しく入った本”の棚で、この本を見つけたとき、まず著者が佐野眞一だというので興味が沸いて、手にとってみたのですが、結構分厚いし、全く聞いたこともない人の話だったので、読み切る自信がもてず棚に戻したのです。でも、やはり気になって、まあ図書館だし、途中でやめても損はしないし、と思いなおして借りて読みました。

 里見氏は、スケールが大きくて、その人生の一部にでも触れた感想をコンパクトにまとめるのは私の力ではとても無理。で、最も安易にいいますが、本は、面白かったです。

 著者は、戦後急速な発展を成し遂げた日本を見つめるうち、”満州”を解読せずにそれは語れないと考えるようになっていったといいます。そのなかで、”里見甫”と出会います。ラストエンペラーに登場した甘粕正彦と並ぶほどの闇の力を持ちながら、歴史の表舞台に現れることもなかった男。彼に比べれば、よほど小物だった笹川良一や児玉誉士男などが、戦後社会で暗躍し巨大な金を手にしていったのに対し、戦後は殆ど何もせず、ひっそりと死んでいった里見の姿を、まさに粘り強く関係者をあたって、あきらかにしていこうとします。

 しかしながら、満州の闇は、戦後60年が経過し関係者が殆ど亡くなった今となっては、とても簡単に解明できるものではなく、結局の所、里見のことも彼を取り巻いた女性達のことも、輪郭をぼんやり浮かび上がらせることができたのがせいぜいでした。それは、ひとつには、佐野眞一氏がノンフィクション作家として、決してわからない部分を安易な想像で埋めないという、真摯な姿勢の結果であり、仕方がないことなのではあるのですが、結論がすっきりしないということを割り引いても、事実の重みは、この本を十分に読む価値のある本にしています。

 しかし、この”闇”というのは、人を魅了するのですね。”コンプライアンス”とか、”PC(Politically Correct)”などは、なんて無味乾燥なものでしょう。この闇のひとつの象徴が阿片なのですね。それは阿片というドラッグが人を廃人にしてしまうように、この闇そのものに少しでも関わることで、弱い人間は現実を見失い、堕落してしまう。人間ドラマとしてとてもとても興味深いものがありました。