本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

黙って行かせて ヘルガ・シュタイナー

2010-04-29 | 小説
黙って行かせて
ヘルガ・シュナイダー
新潮社

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 もし、自分の母親が、ナチの親衛隊で、アウシュビッツでのユダヤ人虐殺に加担していたとしたら、どんな親子関係になるんだろうか。

 

 読み終わった時、そんなシチュエーションを想像してみましたが、私にはとても考えが及ぶ仮定ではありませんでした。

 

 本書は著者のヘルガ・シュタイナーが5歳のときに別れ、殆ど会う事もなかった母親の死を前にし、最後に”何か”を期待して会いに行った時の様子を、本人の言によると”3%のフィクションを混ぜて”、小説としてまとめたものということです。

 

 母は言う、

 

強制収容所の仕事にあたしは自由意思で参加したの。どうしてだかわかる。あたしはそのことを信じていたからよ。そう、ドイツ人の任務を。ヨーロッパをあの・・・あのけがらわしい人種から解放するという任務を固く信じていたからよ

 

 その言葉は、本当だろう。著者自身も母が、ナチのSSに入っていたことを戦後一度も公開しなかったという言葉に、

 

ああ、そのことは一度も疑ったことがないのよ。お母さん

 

 と、心の中で叫ぶ。それは、母が人間として残酷だったという耐えがたい事実を疑わないだけでなく、多分戦後ドイツ人が背負った十字架というか、97%の反省とともに、共通の感情として心の底に持っている、3%の過去の自分たちの行為を全否定できないという後ろめたい気持ちなのではないだろうか。

 

 それとも、そんな風に思うのは自分が日本人だからだろうか。

 

 著者が少し痴呆の症状が出ている母を誘導して、過去の非道を話させたのは、ある意味、自分を愛してくれなかった母への復讐なのだろうけれど、そういう個人的な問題を利用して、人間の中にある悪魔を、物書きとして、文章にしたいという”慾”でもあったと思う。

 

 本書のタイトルは、面会時間を終えて去ろうとする娘に、何度も取りすがる母に対して、

 

 黙って行かせて、お母さん

 

  と、人間としてどうしても母を受け入れることができないが、肉親のぬくもりを期待せずにもいられない娘の心の叫びです。

 

 この本には、結論はありません。面白いかったといえる内容でもありません。

 

 ただ、ページをめくらずにはおられない、迫力はあります。 


沈まぬ太陽<1>~<5>

2010-04-25 | 小説
沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)
山崎 豊子
新潮社

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 うーん・・・・

 

 下らない。

 

 いや小説がというのではなく、小説の中の世界があまりにも下らない。

 

 まぎれもなくJALがモデルである”国民航空”が主人公の物語。60年代に空の安全のため、労働者の待遇改善を求めて組合がストを打ったことから始まる。その時の委員長恩地はアカのレッテルを貼られ、パキスタンのカラチ、テヘラン、ナイロビと僻地を転々とさせられる。その間会社は経営寄りの新労組を組織し、旧労組と対立するだけでなく、経営者と結びついた様々な利権の温床となっていき、常に労働者や安全という基本がないがしろにされている。そうして、1985年あの墜落事故が起こるが、その責任をだれも取ろうとせしない。外部から再建のために送り込まれた会長国見は、恩地をはじめ様々なセクションから人を集めて、もつれにもつれた糸を解きほぐし、民営化を前に膿を出そうとするのが、あまりにも複雑に絡んだ大きな利権にたかる、会社幹部や政治家に結局ははじき出されてしまう・・・・。

 

 というような話でした。

 

 ストーリー展開は面白いのだけれど、人物設定が、悪人、善人とくっきり分かれ過ぎて、恩地や国見、旧労組などが完全な”善”で、新労組や経営陣は完全に”悪”。時代劇の”暴れん坊将軍”と”越後屋”とかいうぐらい、安易な設定なんですよ。

 

 だから小説としては完全に物足りない。

 

 だけど、日航機事故について描いた、3巻と4巻は圧巻です。これまで”クライマーズ・ハイ”などを読んで、事故現場の悲惨さというのが、当時想像もしなかったぐらい酷いものだったということはなんとなく知ってはいたのだけれど、本書を読んでこれほど・・・・と言葉を失うくらい衝撃でした。

 

 そして、半官半民という特殊な法人が、これほどの利権の温床になっていたという事実を目の当たりにした衝撃。天下り役人の退職金のなんて、小さい小さい・・・。ほんと、こういう風になっていたのかとバカバカしくなります。この部分が最終章のテーマだったりするので、読み終わった時の感想が、最初に書いた、”下らない”になっちゃうのですよね・・・。

 

 昨年民主党が政権をとり、いよいよ自民党が崩壊していっている現在、こんな下らない利権構造も一緒に崩壊していってくれることを望むばかりです。

 

 どころで、この感想を書く前にちょっとネットでいろいろ見ていたら、この小説の視点かかなり偏っているということについての説明がありました。どうも、著者の取材を日航が完全拒否したたということ・・・。

 

 ま、本書が偏っていることは著者の力量不足という事ではないのかもしれません。

 

 でも、その後JALは民営化したにも関わらず、小さなミスや事故を繰り返し、とうとう破たんしてしまいましたが、そのあたりもまた後日譚として小説にしてほしいところです。