名画の言い分―数百年の時を超えて、今、解き明かされる「秘められたメッセージ」 木村 泰司 集英社 このアイテムの詳細を見る |
西洋人(オーストラリア人だけど一応英国系なので)の画家である私の夫が、自分の絵について、いつも見てくれる人に説明しようとするし、人の展覧会に行き、画家がいれば、必ず”この絵について説明してください”と言うので、いつも私は、”絵は見るもんじゃないの?言葉で補うってちょっと姑息じゃないの?”って思っていた。
だから、この本を図書館で手に取り、ぱらぱらとめくったページに、
美術は見るものではなく読むものです
現代の日本では、やたら「感性で美術を見る」-好きか嫌いか、感動するかしないか、といった尺度で見る-などと言いますが、感性で近代以前の西洋美術を見ることなど不可能です。なぜなら、西洋美術は当然西洋文明のなかで生まれてきたもので、この西洋文明自体が、「人間の感性などあてにならない。理性的でなければ」というところからはじまっているからです。
という文章に、ちょっと喰いついてしまいました。
本書の内容としては、西洋美術の楽しみ方の入門書です。読んでみて、確かに、近世以前の絵画についての認識が少し変わりましたし、これからは展覧会なんかにいっても、今までよりもう少し楽しめそうです。
西洋美術は裕福なパトロン(王侯貴族や宗教指導者、ブルジョア階級)がいてこそ、発展してきたものというのは理解していたつもりだが、その意味を考えていなかった。美術館で絵を見る感覚とは違うですよね。買う側は、突飛なものを望んでいるのではなく、その時代にふさわしいものを所有することで、自分の財力や知性を示そうという気持ち。
画家は、それに応える職人集団。独自の世界を追求することは基本的に求められていない。大工なんかと同じ。それでも、その中で技術に秀で、世界を広げて名前を残す人が出てくるのは、まあ当然といえば当然ですが・・・。
そういうわけだから、その時代を知らないと絵は理解できないという意味で、こういう読みやすい入門書は大変ありがたい。
もちろん、近世以降、現代美術に至るまで、それらの状況は少し変わったとはいえ、やはり西洋美術の評価は、こういった歴史を踏まえて、個々の芸術家がそれぞれの世界をそこからどう広げたかというところに価値を置こうとするのかもしれない。
だから、うちの夫は、絵を見たときに、説明を聞こうとするし、自分の絵についても説明をしようとするのかなぁ・・・と思うし、日本人の芸術家が欧米で認めてもらおうとするときの壁になっているのかとも思う。
ところで、著者の木村泰司氏の文章は、”XXされませんように。”とか、”XXいたしましょう”とか、なんか、お上品な奥様へ話しかけているような感じ。決して読みにくいわけではないのだけれど、ちょっと違和感があり、それにどこでこういうことを勉強したのだろうとプロフィールをみてみると、
1966年愛知県生まれ。カリフォルニア大学バークレー校で美術史学士号を修得後、ロンドンサザビーズの美術教養講座にてWORKS OF ART 修了。
とあり、まあ、私なんかからしたら尊敬に値するキャリアだけど、”学士号”ってちょっとびっくり。当然、phD(ドクター)か、日本のどこかの大学の準教授くらいかと思ってました。日本の大学で教えているというわけではなさそうで、どういう人なんだろうと、ネットで”公式ホームページ”を見てみると、どうもカルチャーセンターで講師などをなさっているようだ。
まあ、別に学歴がないと知識が無いというわけではないのだけれど、彼が専門としているのが西洋美術であり、その世界で専門家として生きていくのであれば、このプロフィールはいかにも物足りないのではと思う。
目指しているところは、
楽しみつつも知的好奇心を満たす「エンターテイメントとしての西洋美術史」ということなので、それで十分なのかもしれないが、
ロンドンでは、歴史的なアート、インテリア、食器等本物に触れながら学び、同時にヨーロッパのマナーや社交術も身につける。
なんて、プロフィールに書いているので、私も大人げなくちょっと反発しちゃったかな・・・。(それに、拍子にスキンヘッドの自分の写真入りで登場しているのがちょっと。。。)