柔らかな頬〈上下〉 (文春文庫) | |
桐野夏生 | |
文藝春秋 |
前の記事に引き続き、友人からどっさりもらった本の中の1冊いや、2冊。
桐野夏生さんもちょっと久しぶりに読みました。
この世代の女性作家の中でも、一番好きというのでもないけれど、なんか気になる作家ではあります。
前に読んだのは、確か『魂萌え!』でしたが、主人公の年代的に、本作品よりそちらの方が面白かったです。
この作品の主人公は、森脇カスミ。
北海道の寒村に生まれ育ち高校を卒業したのち、家出をして東京に出てきた彼女は、就職した小さな製版所の社長と結婚し今は2児の母親。
不幸ではないが、心の渇きから顧客の石山という男と関係にのめりこむ。
そして、その石山の別荘で、娘の有香が行方不明になり、カスミの心はますます居場所をなくして、さまよい始める。
グイグイ読ませるのですが、私にはちょっと感情移入できない作品でした。
まず、心にぽっかりと空洞をもっているという主人公の生い立ちから現在に至る人物設定に必然を感じない。
ま、それでもそういう性格なんだと納得して読んでも、自分と不倫相手の家族全員が集まった別荘で、周りの目を盗んでセックスしちゃうその神経がわからない。
スリルがある方が燃えるというような、おバカな二人という設定ならわかるんだけど・・・・。
脳天気ではないけれど、おバカな二人と思えばいいんでしょうか。
それとも、単に私がエロティシズムの本質を理解できないだけなのでしょうか。
それと、私が東京と東京に何かを求めて出てくる地方の出身の人たちのことをわかっていないということもあるのかもしれません。
大阪はもとより関西の都市には、カスミの様に家族も何もかも捨ててやみくもに何かを求めるひとを引き付ける要素は弱いような気がします。
どうしても娘のことをあきらめられないカスミは夫とも別れ、ひょんなことから末期の胃癌で警察を退職し、余命数か月という内海という元刑事と一緒に娘を探すことになりますが、成績を上げて出世する道具としてしか事件を扱ってこなかった男が、はじめて一人の人間として事件に向き合うというところは、面白かったです。ただ、内海の年齢が30代前半というところが、ちょっと想像できなくて、自分の中では45歳くらいに修正して読みました。
結末が知りたくて、一気に読みましたが、読み終えてみたら、別に読まなくてもよい作品だったなぁ・・・というのが、正直なところです。