本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

インコは戻ってきたか

2006-02-25 | 小説

 インコは戻ってきたか 篠田節子 集英社

 39歳の響子は、女性用ファッション雑誌の編集者。”究極のハイクラスリゾート”というテーマの旅行記事の取材のため、キプロスに行く。同行することになったカメラマンは、さえない中年男。キプロスは、地中海に浮かぶ小さな島で、最近リゾート地としてヨーロッパでは知られて来てはいるが、同時に、トルコ系とギリシャ系の住民の対立が続いている地域でもある。そこで、能天気な記事を作るための取材をしているうちに、カメラマンとともに紛争に巻き込まれてしまう。 というお話です。

 あとがきに、

平和な日本を飛び出し紛争地へと向かう男たちの勇気と正義の冒険の物語はこれまで多く紡がれてきた。 

すでに神話となったヒーローとヒロインの物語をあらためて私がなぞる必要はない。ヒロインにはなれない女の側から書かれた冒険小説とはどのようなものか?

 と、このテーマどおりの物語です。主人公は、決してその雑誌の読者たちほど、ミーハーではなく、かといって、世界の紛争、戦争、政治などに対して、さほどの興味もなく、それなりに編集者としての経験は積んできた女性。しかし、39歳という年齢になり、妻、母、編集者として、それなりに精一杯やって誇りと、どれも中途半端だったという焦り。そんな気持ちが、ギスギスとした態度に出てしまう感じが、とてもリアルに描かれていました。

 主人公と年齢的に近い私は、”これって、私のことやぁ”と身につまされる場面が何度もありました。なんていうか、この年まで仕事をしてきていると、何とも言えない焦燥感にとらわれることがあるんですよね。それなりに、自覚と責任感をもって生きてきたというプライドが、逆に人間としてギスギスさせてしまうのかなぁ。男の人を見ているとみんな自分より寛容に思えて、すごい自己嫌悪に陥る事がありますもんね。

 そんな日常的な感情の起伏が、非日常的な舞台で繰り広げられるというのが、新鮮で、このテーマは、ナイストライだと思います。ただ、読後感は、あんこ入りのシュークリームを食べた感じ。クリームとあんこは、ミックスされていい味をだすことはなく、あくまでもそれぞれの味が口の中で自己主張している。こういうテーマでまた書いて欲しいなぁと思いました。

 篠田節子は、私の好き名作家の一人で、他にもまだ読んでない本はいずれ読みたいと思っていますが、もし、この小説を最初に読んでいたら、私のお好み作家リストに彼女の名前は残らなかったかもしれないなぁ。ちなみに私が最初に読んだのはは、”神鳥(イビス)”、その次が、”絹の変容”でした。


芳年冥府彷徨 島村匠

2006-02-19 | 小説

 芳年冥府彷徨 島村匠 文藝春秋

 幕末から明治の初めに活躍した芳年という浮世絵師を題材にした小説です。芳年の作品は見たことはあったのですが、劇画風のタッチが印象にあった程度で、“無惨絵”という殺人や拷問などの残酷な絵で知られていたことも、精神を病んだことも、今回この本をきっかけに知りました。  

 ストーリーは、芳年が兄弟子の芳幾との競作「英名二十八衆句」という無惨絵で評判をとってから2年後、殺人シーンの惨たらしさだけを絵にするのに物足りなさを感じていたとき、たまたまある殺人を目撃し、その殺人者が持つ“殺気”の本質を見極めようと、葛藤する姿を描いている。  

 本書は第6回松本清張賞受賞作ということで、この賞に応募するために書かれたものなのでしょうね。本当ならもう少し長くしないと描ききれない内容を規定のページ数に収めてしまったのかなという印象です。読者としては、もう少し掘り下げて見て欲しかったなぁと思いました。が、逆にますます芳年に興味を持たされてしまうのも事実ですね。

  例えば、Wikipediaの月岡芳年のページを読んだだけでも、小説書く人なら題材にしたいような逸話がいくつもあります。また、残酷なシーンは、ホラー好きや、一種の倒錯的な趣味を持つ人たちにとっては今でも根強い人気はあるのでしょうが、現代の世相などを考えると、今後もう少しメジャーになる機会もあるのではないかと思います。

  この本でよく出てきた、「英名二十八衆句」や、「魁題百撰相」といった無惨絵シリーズは、浮世絵店でも殆ど観たことがありません。多分春画と同じように、店の人に頼めば、奥から出してきてくれるというようなことなのでしょうね。今度行ったら聞いて見よう。 ちなみに、私自身は、芳年の師匠である国芳がお気に入りで、1枚だけもっています。

 浮世絵閲覧システム http://enpaku.waseda.ac.jp/db/enpakunishik/  

  Serchから入って 絵師 ”芳年”で、検索してね

 月岡芳年 見参!(Momoくんのひみつきち)    

  ちょっと、危ないマニアックのページに見えるが、結構まじめにマニアックです。


探偵ガリレオ

2006-02-18 | 小説
 「容疑者xの献身」で、湯川教授と草薙刑事のコンビの魅力に目覚めて、本書を手にしました。本人が楽しんでかいたなぁ・・・って感じですね。私のような理科音痴では、こういう発想が、奇想天外なのかそうでないのかも良くわかりませんが・・・。 

 まあ、軽い感じで読めるのですが、短編集なら”交通警察の夜”の方が、かなりよかったように思います。とはいえ、それを読んだのは、もう随分前で、記憶の中にあるのは、目の不自由な少女が、兄の運転をしていた車で事故に遭い、兄の無実をはらす証言をするという話(多分)だけなんですけどね。


序の舞 宮尾登美子

2006-02-12 | 小説
 正確な表現は忘れましたが、映画監督の岩井俊二氏が、”映画を見ながら、あ、ここは岩井俊二らしいなと思われたら、それは失敗。映画に入り込んでみていたら、そんなことは思わない” というようなことを話しているのをテレビで見た事があります。私にとっての”好き”な小説もそれと同じで、読みながらその世界にどっぷりと浸らせてくれて、周囲の現実を忘れさせてくれるようなものです。
 そんな本に出合えるとすごく嬉しいし、読み終えた時に、なんか旅行に行ってきて、自分がリフレッシュされたような、そんな気持ちになります。そういう意味で、本作品はとても私はとても好きな本でした。

 本作品は女性画家の上村松園の生涯を描いたものです。恥ずかしながら私は数年前まで、上村松園は男性だとばかり思っていて、女性だと知った時は、とても意外な感じがしました。絵を見れば、とても女性らしいのですが、とにかく明治から昭和にかけて、女性が画家としてこれほどまでに成功していたというのが、自分の中ではありえなかったのですね。結構今に到るまで、トップレベルの女性画家って、結構少ないですよね。もちろん、それなりにすごい人は沢山いますが、誰が聞いても知っているというような女性画家はあまり思い浮かびません。とはいえ、芸術家に限らず、近代以前に名を残した女性というのは、だいたいは波乱万丈の人生を送ったのでしょうね。

 松園さんの場合は、全くの男社会であった京都画壇で、ある意味女を捨てなければ、画業の追求は出来なかったのでしょうが、小説の中ではそういう反面、とても魅力的な女性に描かれています。また実際には、この時代に娘を絵かきにし、また未婚で子供を持つことを許し、最後まで支援した、松園さんのお母さんが本当にすばらしい。

 しかし、才能をもって生まれるということは、実はこれほどに苦しいものなのですね。やりたいことを見つけなさいと、今の社会は子供達をけしかけますが、本当にやりたいことをやり続けることは、さほどやりたくもないが、そこそこ我慢してやっていくより余程困難なのだということを実感しました。

 先週、ウチのダーリンが京都に行って、たまたま祇園で舞妓さんを見かけたと、写真を撮ったのを見せてくれました。それを見た時に、祇園に最近いったような気がして、いついったのかなぁ・・・と考えて見たら、その世界は自分の目で見たのではなくて、この本で見ていたのですね。もちろん、自分が比較的よくあの辺りに行く事もあり、物語の世界がかなり具体的に自分の頭の中で出来上がっていたともいえますが、それでもこれも一つのデジャヴでしょうか。宮尾登美子の作品ははじめてだったのですが、さすがです。引き込まれてました。

 また京都に行きたくなりました。
 
 

リアル鬼ごっこ 山田悠介

2006-02-10 | 小説

 

 作者は、1981年生まれ、本書がデビュー作、2001年に出版されてからこれまでに、50万部を超えるベストセラーになり、現在若者の圧倒的な指示を受け、もっとも注目されるホラー作家だそうです。

 残念ながら、私は若者ではないので、全然わかりません。いや、内容がわからないのならまだいい。そうでなくて、内容は本当にわかりやすいのです。登場人物もストーリーも驚くほど薄っぺらで、私はこれは上手い人がわざと下手に書いているのに違いないと最後まで読みましたが、信じられないことにそのまま終わってしまいました。だからこれを支持する、感性と情緒がわからないのです。

 人間ってこんなもんじゃないでしょう。新しい小説というのならわかる。でも単に幼稚なだけでした。でももし、本を読まない若者が、これをきっかけに読書に向かうのなら、それはそれでいいのかもしれない。もっと面白い本が幾らでもありますよ~~~~~。


容疑者Xの献身 東野圭吾

2006-02-04 | 小説

  容疑者Xの献身 東野圭吾 文藝春秋社

 東野圭吾ファンですから、かなり贔屓目もあろうかと思いますが、よかったです。本が読むのが楽しいと思うのは、こういう本を読んだときです。

 数学に関しては天才的だが、運命に恵まれない男の純愛物語です。人間の純粋さを数学という素材で描いたところは、話題になった”博士の愛した数式”のパクリというか、二番煎じととれるところが何とも残念。でも、材料はパクリだったとしても、まったく別の方法で料理し、すばらしい出来上がりになれば、それはそれでよいのです。(と、このあたりが、ファンの贔屓目かも)

 東野圭吾と言う作家は、殺人事件という素材は使っても、謎解きをテーマにするのではなく、殺人を犯してしまった人間を描こうとしているように思います。そこにリアリティがあるのか無いのかは、殺人者になったこと無いので、良くわかりませんが、読み終わった時に納得させられていれば、作品としては成功なのではないでしょうか。

 本作品が、「本格ミステリ・ベストテン」に入った事で、この作品が本格かという議論沸騰したことが、あったとHatena::Diaryに紹介されていました。私にとってはどうでもいいことですが、確かに作者自身が本格ミステリーを目指している訳ではないのでは・・・と思っています。

 Amazonのレビューでは、辛口読者が、”これを読んで素直に感動できる方々の弥栄を祈らずにはおられません。 ”と書いていました。まあ、賛否両論ある作品ということでしょうね。私が「リアル鬼ごっこ」を読んで、こんなものを読んで感動していていいんだろうか・・・と思ったのと同じような感想をもたれたのかと思うと、言い返したいことは沢山ありますが、”弥栄”なんてしゃれた表現をされるところから、いかにも”博学”そうで、きっと議論したら負けるだろうから、言い返しません。でも、自分で言うのもなんですが、こういう話を読んで素直に感動できる人っていいんじゃないかなぁ・・・。ご希望通り、栄えましょうよ。

 東野圭吾の作品には、こういうシリアス物とは別に、お笑い系がありますが、お笑い系の本を1冊読んで、全然おもしろくなかったので、そちらと思われる題名であれば、あえて読んでませんでした。よって、本作に登場する、天才物理学者湯川助教授シリーズ第一弾”探偵ガリレオ”という作品も敬遠してました。先入観のお陰で、まだまだ楽しめる作品が未読であったことを感謝します。