本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

対岸の彼女 角田光代

2007-04-25 | 小説

 大人になったら、友達をつくるのはとたんに難しくなる。(中略)けれど私は思うのだ。あのころのような、全身で信じられる女友達を必要なのは、大人になった今なのに。

 

 私の心に残ったのは、大人になった彼女たちの結び付きよりも、主人公の一人である葵の高校時代の話。クラスメートという世間とは、細心の注意を払いながら付き合っている。いじめの対象にならないように息を潜めて生きている、その張り詰めた感じがとてもリアルに迫ってきました。

 

 小説などに登場する”いじめ”は、いじめる側にも強力な個性があり、いじめられる側から見れば絶対的存在として君臨しているものが多いですよね。けれど、ここに登場するいじめは、もっと日常的。つまり、いじめられる側と、いじめる側の違いは何もないという。一人一人の個の視点にたってみると、自分以外は”世間”という恐ろしい、でも実態のない怪物なのです。

 

 その実態のないものにおびえて、緊張しているのは、実は大人になってからも同じ。なんとか自分は自分であろうとすると、やはり”世間”からは、はじき出される。

 

 私は私のまま受け入れてくれる友達が欲しい・・・・のですよね。その気持ちは分からないでもないです。私の場合は、20代の頃は、確かに、全身で信じられる女友達を渇望しながらも、どこかであきらめていたように思います。

 

 そんな友人にめぐりあえたのは、40代になってからです。女友達ではなく、ボーイフレンドですが、それでも全身で信じられる友人を持てることは本当に幸せなことだと、今だからいえます。

 

 主人公の一人、葵が、高校時代に”自分は自分”を貫いていた親友の魚子(ななこ)によって、少しずつ変わっていったように、親ではない誰かに絶対的に受け入れてもらえるということは、あらためて自分で自分を認めるきっかけになり、自分を受け入れることで、他人も受け入れるようになれるかもしれないと思うからです。

 

 私も遅ればせながら、これからいろんな人を受け入れられる人になって、世間の一人としてではなく、個と個として一人でも多くのひとと付き合うことができるようになればよいなと思ったのでした。


ようこそ量子 根本香絵×池谷瑠絵

2007-04-24 | その他

 随分ブログの更新をサボっていました。なかなかコンピュータの前に座る時間がなかったのも事実だし、本を読むペースが落ちていたのも事実です。その原因は、こんな本を読んでいるからですね。

 

 ”99.9%は仮説”を読んでから、”サイエンス”に興味が出てきてしまったのですが、たとえば、40過ぎて新しいスポーツを始めるというのに似ているのか、なかなか上達(?)しません。でも止められない。面白いんです。

 

 この本は、量子についての”超”入門書なので、少しでも知識がある方や骨太の解説書を期待される方にとっては、ばかばかしい内容かもしれません。逆にまったくの科学音痴の私には、ちょうどよかったです。それに作者が女性ということで、親しみやすかったのかもしれません。先端科学について説明するのに、とても身近な生活の一場面を引き合いに出してしまう感性がやはり女性なんですね。根本氏が国立情報学研究所助教授(今は准教授というのかな)で、池谷氏がライターということですから、池谷氏の翻訳力も大きいのでしょうね。

 

 とにかく、量子については、何度も、”わからなくったって当たり前"という態度が肝心と書かれていて、読んでいてわからなくなっても、見捨てられていないような気がして最後まで読むことができました。

 

 量子力学では、物質はどこに存在するかは確率的にしかわからない

 

 このわからないというのは、まだ科学的に証明できないという意味ではなく、絶対的に、もうどうしたってわからないということなんです。つまり”わからない”ということがわかっている。そういう世界の原理に基づいたコンピュータが開発される日もそう、遠くないなんて。どういうことなんだ・・・・・って感じですが。

 

 世の中、知らないことが沢山・・・。たとえば量子なんて知らなくても、この先の私の人生は、結局何も違わないでしょう。この本を一冊読んでも、読んでいなくても、量子コンピュータが実用化されるころには、そんなものに私の頭ではとてもついていけないでしょう。でも、ちょっとしたものに対する見方は、この1冊で少し変わった気がします。

 

 あー、だから読書は止められない。


重力ピエロ 伊坂幸太郎

2007-04-04 | 小説

 犯罪と被害者という重い重いテーマを、ふわふわとつかみ所のない質感の物語にしたててありました。好きか嫌いかの二者択一であれば、嫌いな方の小説にはいります。  

 春と言う弟は、母がレイプされてできた子供。その暗い出生 を背負っている。兄は泉水が主人公です。自分の出生から、犯罪を憎み、セックスを憎む弟。自分と血のつながりのない息子を愛しむ父。この不思議な家族の物語です。

 

「ふわりふわりと飛ぶピエロに、重力なんて関係ないんだから」

「そうとも、重力は着えるんだ」父の声が重なってくる。

「どうやって?」私が訊ねる。

「楽しそうに生きていれば、地球の重力なんてなくなる」

 

 こういうところが、この小説の雰囲気を顕著に著していると思います。辛いことも、哀しいことものたうち廻っている所は人には見せずに、さらっと生きているふりをする。こういうのが、若い人には多分かっこいいんでしょうね。

 

 結局は、春と泉水は、ある意味ドラえもんとのび太の関係。なんでもできる弟と、平凡でなにもできない兄。でも、いつも二人一緒・・・・。そういう意味でも、やはりこれはマンガを読んで育った世代の書く小説だなあと思いました。