自分の命が、風前の灯となったときに、私の語る物語はなんだろう・・・。
人質の朗読会 | |
小川洋子 著 | |
中央公論新社 |
海外で観光ツアーに参加した日本人のグループが、現地の反政府ゲリラに拉致される。数か月間の拘束ののち、犯人がしかけたダイナマイトの爆発によって全員死亡するのだが、その後、政府側が仕掛けた盗聴器のテープから彼らの声が蘇る。先の見えない中、彼らは、一人づつ自分の物語を朗読する。
人質たちの物語は、過去の平凡といってもよい人生の中の、ほんのちょっとの非日常的な出来事。
たまたまツアーで一緒になっただけの人たちの物語に接点はなく、良質な短編集を読んでいるような気になります。
けれど、この本が短編集と違うのは、彼らのおかれた場所が、非日常の極致で、一種の運命共同体であるという事。
もちろん、こんなシチュエーションは現実にはありえない、というか設定もどこかにありそうで現実にはない国なので、ある意味ファンタジーではあるのだけれど、ありありとその場面が浮かんでくるという、著者の力量を感じました。
読んでいくに従って、語るべき物語を持っていた人質たちに対して、自分自身を振り返って何も思い浮かばないことに焦りを感じるようになっていきました。
自分が自分であると言える人物となるうえで、人はいったいどんな経験を積み重ねてきたのだろう・・・。
忘れてはいけない、人との出会いを忘れちゃっていないか、ちょっと落ち着いて思い出してみたいと思います。
なかなか本を読む時間がなかった一週間でした・・・。来週も忙しそうです。
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