本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

人質の朗読会 小川洋子

2012-01-22 | 小説

自分の命が、風前の灯となったときに、私の語る物語はなんだろう・・・。

人質の朗読会
小川洋子 著
中央公論新社

 海外で観光ツアーに参加した日本人のグループが、現地の反政府ゲリラに拉致される。数か月間の拘束ののち、犯人がしかけたダイナマイトの爆発によって全員死亡するのだが、その後、政府側が仕掛けた盗聴器のテープから彼らの声が蘇る。先の見えない中、彼らは、一人づつ自分の物語を朗読する。

 人質たちの物語は、過去の平凡といってもよい人生の中の、ほんのちょっとの非日常的な出来事。

 たまたまツアーで一緒になっただけの人たちの物語に接点はなく、良質な短編集を読んでいるような気になります。

 けれど、この本が短編集と違うのは、彼らのおかれた場所が、非日常の極致で、一種の運命共同体であるという事。

 もちろん、こんなシチュエーションは現実にはありえない、というか設定もどこかにありそうで現実にはない国なので、ある意味ファンタジーではあるのだけれど、ありありとその場面が浮かんでくるという、著者の力量を感じました。

 読んでいくに従って、語るべき物語を持っていた人質たちに対して、自分自身を振り返って何も思い浮かばないことに焦りを感じるようになっていきました。

 自分が自分であると言える人物となるうえで、人はいったいどんな経験を積み重ねてきたのだろう・・・。

  忘れてはいけない、人との出会いを忘れちゃっていないか、ちょっと落ち着いて思い出してみたいと思います。 

 なかなか本を読む時間がなかった一週間でした・・・。来週も忙しそうです。
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刻まれない明日

2012-01-15 | 小説

 余剰思念の抽出・再供給システムが確立したのは、百年ほど前の事だ。この国においては四十年前から採用されている。余剰思念の体内蓄積による自家中毒を防ぎ、同時に均質化された気化思念を取り込むことによって体内浄化を促進する、という名目だった。

刻まれない明日
三崎 亜紀
祥伝社

 2009年発行の本作品は、2006年に出版された「失われた町」の続編なのだと思い込んで読んでおりましたが、実際には、つながっているようでつながっておらず、前作を殆ど忘れてしまっていたため、却って混乱なく読めたように思います。

 この町の一部にある、「開発保留地区」は、10年前、そこにいた3095人の人間が突然消えてしまったところ。けれど、その地区に以前あった図書館での貸し出しは、続き、コンピュータに記録され続けているし、ラジオには今はいなくなったはずの人たちからの手紙が届き、その地区行きの最終バスの発車時刻には、バスの光が遠くから見える。

 そんな町に住む人たちがそれぞれ失われた人と場所の記憶を心に刻みながら、明日へ向かって進んでいくエピソードがストーリーとなっています。

 久しぶりの三崎作品でしたが、読み終わってまず思ったのが、この人の作品にしてはちょっと”sweet”なんじゃないのかなという違和感。

 しかし、本作品がもともと、「FeelLove」という読み切り恋愛小説誌に連載されていたものということで、納得。つまり、個々のエピソードはすべて恋愛小説仕立てなんです。

 とはいえ、10年前に町から人々が忽然と消えてしまったのは、「気化思念」の漏出が原因だった・・・。というところが、もう三崎ワールド全開で、なんじゃそりゃ…と思いながらも、何事もそれが存在すると認識し、その認識を複数の人が共有しなければ、確定されないわけで、であればその逆、「存在が失われ」るという状況も、同じなんですから。

 しかしながら、そういう認識論から、ここまで広げて心温まる恋愛小説にできるということろが著者の凄いところだなと、再認識。

 そういうわけで、よくわからないながらも読み終えたのですが、その時はまだ私自身、「失われた町」の続編だと思っていたため、どこがどうつながっているのかはっきりさせようと、図書館で「失われた町」を借りて再読しました。

 以前読んだから、さらさらっと読めば思い出すと思っていたのですが、結局普通に最初から最後まで読んでしまいました。

 そして、読み終わってから、本書と比較して、実はつながっているわけじゃないということがわかったという、なんとも自分の記憶力の失われっぷりのすごさを再認識しました。

 とはいえ、「失われた町」をもう一度読んでみて、作品としてはそちらの方が、迫力があるような気がしました。

 あと、著者は、絵の才能があるんじゃないかと思うんです。私にとってはこの人の作品って本作に限らず、物語よりいくつかのシーンが切り取られて記憶されているので、ふとそう思ったのですが・・・。

人気ブログランキングへ もうすっかりお正月じゃなくなってしまいましたね・・・。


おさがしの本は 

2012-01-04 | 絵本

 図書館というのは究極的に、ないし本質的に、じつは救急医療センターや市営住宅と全く変わりのない施設だからです。

おさがしの本は
門井 慶喜 著
光文社

 (最近多くなってきた)ライトノベル風というか、コミックの構成風の小説です。

 この手の作風は、あまり好みではないのですが、 これから小説家を志す人たちは、本好きであればあるほど、コミックも読んで育った人たちで、その表現方法にあまりにも慣れ親しんでいるから、自然にこういうものになっていくんでしょうね。

 ま、関西で吉本新喜劇を見て育ったら、その表現方法が自然と会話などのコミュニケーションに顕れてしまうのと同じかもしれません・・・。

 図書館に勤める和久山隆彦という職員と、図書館にやってくる人々、また勤める人々のエピソードが5つの短編で続いていきます。

 クライマックスは、市の財政難から図書館を廃館にしようとする館長との対決。

 図書館は、殆どの市民にとっては本当に必要なものではないかもしれないが、それなら、救急医療センターや市住だって、殆どの市民は使わないではないかという主張が、目からうろこが落ちる感じで納得でき、面白かったです。

 ただ、残念なのが、コミック風のパターン化された人物設定。

 融通が利かないが、上司にもきちんと正論を吐く主人公。そんな彼の良さにひかれていく、負けず嫌いな女性職員。図書館の敵のようだが、実はすごく本好きな館長・・・などなど。

  読めば、著者の知識の広さや読書歴がかなりのものだなと言うのはあきらかで、この人はこの先どうしたいのかなぁ・・・とちょっと興味深いです。

 本当に書きたいのが、この手の本なのか、それとも売るために書いているのか。

 1970年生まれという年齢と現在の知名度を考えると、厳しい時期かもしれません。

 

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