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クライマーズ・ハイ 横山秀夫

2006-04-02 | 小説

 クライマーズ・ハイ 横山秀夫

 昭和60年の日航機墜落事故を取材した新聞記者のことを書いた小説と聞いていて、勝手にイメージを作っていたのですが、ちょっと違っていて、よい意味で期待はずれでした。事故と向き合うことで自分と向き合った男の話です。

未曾有の航空機事故だった。操縦不能に陥って群馬県に迷い込んできたJAL123便。悠木もまた、あの日を境に迷走した。悪ければ悪いなりの人生を甘受し、予測される日々を淡々と生きて行けばいいと考えていた。そんな乾いた日常をあの事故が一変させた。大いなるものとの対峙した七日間。そのヒリヒリと焼けつくような分刻みの時間の中で、己の何たるかを知り、それゆえに人生の航路を逸れた。

 この悠木という男は、日航機が墜落した御巣鷹山のある群馬県のローカル新聞社の記者で、この事故に際して全権デスクを任じられます。デスクとして事故と向き合った7日間の物語ではあるのですが、それだけではなく、事故の翌日に一緒に山に登るはずだった同僚の安西が、突然倒れて意識不明となる。安西と山、悠木と山と息子そして安西の息子との関係。また自分が先輩記者として追い詰めたために、命を縮めた望月という男のこと。こんないろんなことが複雑に絡み合って、前半は、話がやや見えにくく退屈したのですが、後半どんどん面白くなりました。

 新聞記者の世界の独特の価値観がとても印象的でしたね。過去に自分が扱った大きな事件を超えるような大事故にが起こり、記録が塗り替えられる時が来た時の男たちの反応。そして、またその大事故の現場で、必死になってもがく若い記者。こういう人間関係がとてもリアルで、心を打たれました。

 この7日間で、もしも安西が倒れて意識不明にならなければ、悠木も全権デスクとして、自分を見失う、”クライマーズ・ハイ”に陥ってしまっていたのでしょう。クライマーズ・ハイとは、山を登って行くうちに興奮が乗じて恐怖心がマヒしてしまうことをいうのだそうです。悠木のなかには、いつも安西の事が頭を離れなかったし、時々時間を作って病院に見舞います。そういう時間をもったことで、いつもこの大事故に対する恐怖を失えなかった。だから、スクープも逃してしまった。そんな駄目なヒーローだったけれども、いつも周りを見て、そして自分と向き合うことができたのではないでしょうか。

 横山秀夫の本は3冊目かな。「半落ち」でも父と息子の関係が重要なポイントだったと思いますが、このクライマーズハイでもそうですね。刑事や記者というプロフェッショナルな世界に、プライベートな物語を織り込むのが巧い作家ですね。