本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

卵をめぐる祖父の戦争 ディヴィッド・ベニオフ

2011-08-27 | 小説
卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)
ディヴィッド・ベニオフ著 田口俊樹訳
早川書房

 

 何かで書評を読んで、図書館に予約していたんだと思うのですが、

 すっかり忘れた頃に、私の番が回ってきました。

 裏表紙には、

 「若者たちの友情と冒険を描く、歴史エンタテインメントの傑作」

 とあります。

 読む前は、?って思ったけれど、

 ほんと、その通りでした。

 1941年大晦日の夜のレニングラード

 17歳のレフは、落下傘で落ちてきたドイツ兵の死体からナイフを盗み、騒いでいたところをつかまってしまう。

 即刻銃殺を覚悟していたのだが、翌朝、軍隊を脱走してつかまったコーリャとともに、

 6日後の大佐の娘の結婚式用の卵を調達を命じられる。

 ドイツ軍に包囲され、人々は本の表紙をはがし、背表紙の部分の糊をキャンディーするほど餓えているこの地で、

 卵なんてどこにあるのか想像もつかない中、とにかく、二人は、歩きはじめる。

 小説は、年老いたレフが、孫に戦争の話を聞かせてほしいと言われて語る構成で、

 少年のレフが動き、その時の気持ちを年老いたレフが「わし」という一人称で語る

 これが、ほんといい味を出しています。

 悲惨で絶望的な状況の中でも、いつも人を喰ったような態度のコーリャと

 小柄で純情なレフ。

 二人がくぐりぬける修羅場は、ファンタジーのようではあるけれど、

 レニングラード包囲戦という歴史的な背景を考えると、どう読めばよいのかと戸惑いながら半分までは読んでいて、

 実のところ面白さもよくわからず、ギブアップしかかったのですが、後半に入ってグングン引き込まれます。

 戦争がいかにばかばかしいもので、人がいかに醜く、悲しい存在かが、

 コメディタッチの中に、巧く織り込まれていて、

 それでも、冒険の結末で二人が友情を認識し、戦後の後日談から、

 現在のレフおじいちゃんの暮らしに線がすーっと結びついていく、

 作りが、ほんと巧い!

 フィクションの醍醐味を感じました。

 読み終わってみると、ほんと読んでよかった…と思った作品でした。 

 ところで、この本を読みながら思い出した映画があります。

 「ノーマンズランド

 コメディタッチが、戦争の無意味さを、強調するという点で、共通する点があると思いました。

 レニングラードと言えば、ジュード・ロウの映画があったなぁってずっと思いながら読んでましたけど、今調べたら、それは、「スターリングラード」でした・・・(汗)。

 

人気ブログランキングへ 夏休みの宿題がなくなって、ウン十年です。


電子書籍を日本一うってみたけれど、やっぱり紙の本が好き

2011-08-20 | 評論
電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。
日垣 隆
講談社

 

 昨年のiPadの出現により、電子書籍が一気に一般的になり、

 紙の本は、近い将来消滅してしまう、電子書籍化に乗り遅れたら未来はないぞ!

 という脅迫的な論評を張る人もいるようですが、著者は

 

   私は何も、電子書籍に対して紙の本の優位を説きたいわけではありません。

ただ、電子書籍とそのデバイスの普及は、せいぜいが本のヘビーユーザたちにいきわたればそれだけでおしまい、という市場規模であることはわすれないほうがいい、と言っているだけです。

 

 と言って、電子書籍マーケットの未来は決してバラ色ではないといいます。

 今まで本を読まなかった人が、これまでと同じコンテンツであれば、

 電子書籍になったからといってそれらを購入してくれるようになるわけではない。

 言われてみれば、確かにそうです。

 これまで新聞を読んでいた人が、電子版でいいやということにはなっても、

 新聞を読まなかった人が、ネットで新聞を読むかというと、それはなさそうですもんね。

 「検索」目的の辞書類は電子書籍が圧倒的に優位だし、

 そもそも、電子データなら在庫費用が殆どかからないので、「絶版」にする必要がない

 という点でも電子書籍のメリットは大きい。

 だけど、『カラマーゾフの兄弟』なんかを誰が電子書籍で読みますか!?

 と言われても、本格的な電子書籍用デバイスで本を読んだことがないので、

 そうそうと納得はできませんが、

 散々使ってきたという著者が言うんだから、きっとそう思わせるものがあるんでしょうね。

 ま、そういうようなことが、まえがきから、第1章くらいまでは書かれております。

 で、2章以降は、新聞など既成メディアの超辛口批判と、自分がいかにスマートで、

 先見の明があり、たくさん稼いでいるかという自慢です。

 へ~、ふーんと読んではいたのですが突然、TBSの批判になって、目が点。

 なんか、ご自身がどうもTBSから嘘つき呼ばわりされたようで、

 そのことに対する怒りを、滔々と書かれていて、

 そのうち、トヨタのディーラや老舗旅館で自分が受けた酷いサービスなども書き連ねて

 生き残れないものの典型と酷評されるのですが、

 だんだん、私、何の本読んでいたのかしら・・・とわからなくなりそうでした。

 様々な批判は、納得できる部分も多いのですが、

 それにしてももう少し、自慢せずに書けないのでしょうか。

 図書館で借りて読んだからいいけど、自分で1300円出して買っていたらかな読後感が悪くて、

 後悔していただろうなということです。

 著者についての、ウィキペディアの記載も結構、辛口・・・。

 見た目は、学校の先生っぽいのに、言いたいこといってきて敵が多いみたいですね。

人気ブログランキングへ みなさんは、小さい秋見つけましたか? 


なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか 梅津信幸

2011-08-17 | 評論
なぜコンピュータの画像はリアルに見えるのか―視覚とCGをめぐる冒険
梅津信幸 著
エヌティティ出版

 

 見えるということの説明のため、目や脳のしくみから、光と色の関係などをとてもわかりやすく説明したのち、少しずつコンピュータ画像の説明にはいっていき、コンピュータ-関連のノウハウ本のようなテイストではなく、素人むけの科学読物という感じでしたので、素人の私にはとても楽しめました。

 私も毎日コンピュータを扱って仕事をしていますが、CGについては特に詳しく知らなくても大きな支障はありません。それでもこのようなベーシックな仕組みを知っていると、毎日見ている画面が少し面白く見えてくるような気がします。

 また、旦那は画家ですので、CGとは全く関係ない絵ですが、それでも見せる、見えるということに関しては同じなので、彼の描いている絵を見る目も少し肥えたかな・・・?

 この記事を書くためにい、アマゾンで、著者の他の作品を見ていて、コンピュータ関連ばかりでなく、人にものを伝えるためのノウハウ本(こちら)なども書かれていたのを発見。

 「頭がいい人」の多くは、「難しいこと」を「やさしいこと」へと変換して理解している。だからこそ、説明も分かりやすい。

 と内容紹介にありましたが、本書でも、小さいものを見る顕微鏡の仕組みを、魚(光)と網(物質)の関係に、CG(コンピュータグラフィック)とCV(コンピュータビジョン)を英文読解と、英作文に、データ圧縮を蒲団圧縮袋にたとえたりして、イメージしやすいため、ややこしい話でも、わりと頭にすっと入ってきます。

 ただ、この本のタイトルは、たぶん著者が決めたものではなく、インパクトを考えて出版社が決めたものと思います。

 つまり、何故コンピュータ画像がリアルに見えるかということが結論となるような構成では書かれていないのです。

 むしろ、コンピュータはどのように画像を扱っているのかというような例が沢山集められているというような感じです。

 というより、最後の方で、だんだんと専門的になってくるので、私がその結論を理解しきれなかったというのが本当のところかもしれませんが(汗)。

 

 余談   本書の参考図書の筆頭に挙げられていた、”見る”(サイモン・イングス著)という本を私も以前読んだのですが、ほんとに面白い本でした。が、これまた内容が豊富すぎて、まとめきれず、記事にできていなかったことを再認識・・・。珍しく自分で購入した本で家にあるので、もう一度読んでみようかなぁ・・・。

人気ブログランキングへ 暑さも峠をこした・・・かなと思うのは希望的観測でしょうか?


食堂かたつむり 小川糸

2011-08-14 | 小説
食堂かたつむり
小川 糸
ポプラ社

ある日、アパートに帰ってみると突然インド人の恋人が、家財道具とともに消えていた。

唯一残っていた、祖母の遺品ともいえるぬか床を抱えて倫子は、故郷に戻ってくる。

プロの料理人を目指していた倫子は、実家の倉庫を借りて、小さなレストラン、「食堂かたつむり」をオープンする

一日一組だけのお客さん。

予約を受けるときに、好みや事情などをじっくり聞き、その人に心から喜んでもらえる料理を決めるというスタイルの店。

最初のお客様は、開店準備を手伝ってくれた近所の熊さん。

自慢のザクロカレーで熊さんを感動させた翌日奇跡が起こる。

出て行ったアルゼンチン人の奥さんが戻ってきたのだ。実は忘れ物と取りに来ただけだったのだけれど、一目でも会いたいと思っていた熊さんは、倫子の料理を食べたために起こった奇跡だと信じる。

そして、隣に住む愛人を亡くして以来、ずっと喪に服しているお妾さんを元気にしてやってほしいと連れてくる。

一人で、ゆっくり料理を味わったお妾さんにも奇跡が起こる。

亡くなった相手の男性が夢に現れて、天国で再開できるまでの人生は楽しく暮らすようにと言ってくれたというのだ。

そんなこともあり、かたつむりで食事をすると願いがかなうといううわさが広がり、店は少しづつ順調に行くようになった。

クライマックスは、倫子の母親ががんになり、手術を受けた病院で若い頃結婚の約束をしながら離れ離れになり待ち続けていた恋人と再開して結婚したあとの、披露宴での食事。

余命いくばくもない母が、本当にかわいがっていたペットの豚を料理するように彼女に頼む。

メルヘンな感じで進んで来た話が突然、”お子様にはお見せできません”シーンに切り替わります。

この本を読みながら思い出したのが、、「蛇とピアス」。

あの小説では、セックスがこれでもかこれでもかと描かれていて、人が生きるのに、セックスがそれほど重要なのか・・・ということがどうしても理解できない私には、小説も全く???でした。

性欲よりは食欲の方が少し読みやすいのですが、ここまでの食や料理へのこだわりにはどうしても違和感を感じてしまうのです。

どちらももっと単純なもののはずなのに、意味とか価値を求めすぎというか、頭でっかちというか。

この本の良さが、出てくる素晴らしい料理の数々にあるのか、その裏にあるのか・・・。

良くわからない1冊でした。

 

人気ブログランキングへ  猛暑お見舞い申し上げます。


草の花-俳風三麗花

2011-08-13 | 小説
草の花―俳風三麗花
三田 完
文藝春秋

 俳句と句会をモチーフにした小説。

 こういうのは初めて読みました。

 昭和十年、東京女子医学専門学校の学生だった壽子は、卒業と同時に大連の病院へ赴任することになった。

 それまで彼女が通っていた東京日暮里で行われる句会では、彼女を送るための引鶴を題に皆が句を作って送り出す。

 下関から大連に向かう船で、川島芳子と出会い、その縁で、大連では甘粕正彦と知り合いになる。

 大連の病院でも、句会を催し、それがきっかけとなり皇帝溥儀の御前で、句会を催すことになる。

 この句会には東京での仲間である、芸者の松太郎や夫の不義に悩むちゑも参加することになり、3人が大連で再開し、

  それぞれのその時の人生を句に著す。

 小説の背景にはもちろん、戦争があるのですが、その悲痛さを前面に出すことなく、物語が進んでいきます。

 歴史上の人物といってもいい、川島芳子や、甘粕正彦、作家の永井荷風などが登場することで、逆に物語にリアリティはなくなるのですが、その名前だけで時代を象徴するという効果はありました。

 自然を詠む俳句は、戦争と対局にあるように思っていたのですが、そういう時代でも、俳句を作り続けて生きた、一般の人たちの姿が新鮮でした。

 また、何度も出てくる句会の様子から、一つの言葉とじっくり向き合う俳句は本当にいいなぁと感じました。

 私もきっかけがあったら始めたいなぁ・・・・。

  

人気ブログランキングへ 暑い中、読んでいただきありがとうございました


つやのよる 井上荒野

2011-08-03 | 小説
つやのよる
井上 荒野
新潮社

 

 やっぱり、井上荒野さんは変わった小説を書く人だなぁ・・・。

 ”艶(つや)”という、奔放な女性となんらかの関係を持った男の妻や愛人達、そして彼女の夫、最期をみとった看護師の生活の一場面ずつが短編のように続きます。

 艶が、危篤に陥った時、夫は、なぜか妻が生前に関係をもった男たちに連絡を取り始める。

 そして、その電話を受けた男の妻や愛人たちの心に、あらためて艶という見知らぬ女性を通じて、自分の男を見つめる時間を与える・・・。

 艶自身が何を考えていたのかは、どこでも語られない。

 そして、その人が死ぬということで、生まれたさざ波を、それぞれがどのように受け止めたのかもはっきりとは語られない。

 ただ、普通の会話や、行動が描写されるだけです。

 この前に、読んだ、アメリカ人作家ソウル・ベローの作品で、男たちが「必死」で喋っていたのとはとても対照的です。

 人生を変えるほどでもない、その出来事が人に与える影響を、舞台のこちらから見るというのは、少し退屈でもあるけれど、何か感じるところはあります。それをなかなか言葉にするのはやはり少し難しいのですが・・・。

 それにしても、この作家は、セックスが食事の様に描くんですよね。

人気ブログランキングへ