本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

沈黙 遠藤周作

2012-05-19 | 小説

「彼らが信じていたのは基督教の神ではない。日本人は今日の今日まで」フェレイラは自信をもって断言するように一語一語に力をこめて、はっきり言った。「神の概念はもたなかったし、これからももてないだろう」

沈黙 (新潮文庫)
遠藤周作 著
新潮社 

 遠藤周作の代表作といってもいい一冊なのに、読んでおりませんでした。図書館の本が途切れて、家の本棚を探ったら出てきたので、いつか読もうと思って買っていたのかもしれませんが、かなり色あせていました。

 1637年、師であるフェレイラが長崎でキリシタン弾圧に屈して棄教したという知らせに衝撃を受けた3人のポルトガル人司祭が、日本に向かった。一人は、澳門(マカオ)でマラリアに罹り命を落とすが、ロドリゴとガルペの二人は九州に上陸、隠れキリシタンの村人に匿われて山に潜伏する。しかしその村にも役人の手が・・・。その後、ばらばらに逃げた司祭だが、澳門から同行したキチジローの裏切りにより捕まってしまう。

 日本人は囚われの身となったロドリゴを直接痛めつけず、日本人信者を彼の目の前で虐待し、拷問することで、彼を少しずつ追いつめていく。

 ひたすら祈り、救いを待つロドリゴだが、神は沈黙したままだった。

 フェレイラが、ロドリゴに言う、「もし、基督がここにいられたら」

 「たしかにに基督は彼らのために転んだだろう」

 そして、ロドリゴは踏み絵に足を掛ける。

 冒頭に引用した、日本人はこれまで神の概念を持たなかったという言葉を読んだ時、日本人である自分の事かとドキッとしてしまいました。

 いや、自分は基督教の信者ではないので、解ってなくても当然なのですが、とはいえ

 「日本人は人間とは全く隔絶した神を考える能力をもっていない。日本人は人間を超えた存在を考える力も持っていない」

 と、言われ方には、ちょっと待ったぁ・・・、バカにするんじゃないわよとムッとしたのですが、よくよく考えたら、私もそうだわ・・・。

 神は人の頭の中に存在すると思っています。なぜなら人の頭の中の宇宙こそが無限で永遠だから・・・。

 で、ご自身がカトリックだった著者はこの言葉を語らせたとき、神をどう理解していたのでしょうか。それがわかりません。

 私はこの国で今でも最後の切支丹司祭なのだ。そしてあの人は沈黙していたのではなかった。たとえあの人は沈黙していたとしても、私の今日までの人生があの人について語っていた。

 という、最後の一節、このロドリゴの言葉に、著者の答えがあるように思うのですが、よく理解できない・・・。

 解説の中で、佐伯彰一氏は、著者のカトリックへの「普遍性」への確信が著者を支えていたということなんですが・・・。 まだまだ、勉強不足ですっきりしない一冊でした。


人気ブログランキングへ やっと5月らしく爽やかな日になったなぁ。 


奇跡の教室

2012-05-05 | 評論

 薄い文庫本に3年を費やす。

 生徒の興味で脱線していく授業、「わからないことは全くない」領域まで、1冊を徹底的に味わい尽くす、崇高な「遅読」「味読」(スロウリーディング)---。

 教師の願いどおり、『銀の匙』の世界は、”幸運な6分の1”の灘校生の、その後の人生の背骨になっていった。

奇跡の教室 エチ先生と『銀の匙』の子どもたち
伊藤氏貴 著
小学館

 すごい、さすが灘校。

 父から読んでみるか?と渡されましたが、自分が興味を持って入手した本じゃないので、ずっと放置していたうえ、本好きの友人に貸して、その友人の妹経由で返ってきた後に読みました。

 でも、読んでよかった。

 エチ先生と呼ばれた橋本武先生は、昭和9年に東京高等師範学校を卒業し、当時開校6年の灘中学に赴任。当時、私立は公立の格下と思われていた時代、公立で口が見つかるまで数年の腰掛けと思って行ったその学校で、結局71歳までの50年間教壇に立ち続けたという方です。

 灘校は中高一貫教育で、教師は6年間持ち上がり。エチ先生は国語の教師として、昭和25年から担当した生徒に対し、最初の3年間で『銀の匙』という文庫本1冊をじっくり読むという授業をしてこられました。

 3年で1冊の本を読む授業なんて想像もつかないし、不安に思った生徒も多かったようですが、

 エチ先生の話は文庫本のなかの言葉一つから横道にそれていき、日本の伝奇伝承からアラビアンナイトまで、詩の宇宙から中国の兵法の話まで、『銀の匙』から自由に行き来する世界を、彼らは楽しいと感じ始めていた。

 とあり、これなら確かに授業として濃いですよね。

 昭和37年5月(関係ありませんが、私が生まれた時です)それでも反発するある生徒の言葉に一度だけ授業の真意を話されたそうです。

すぐ役に立つことは、すぐに役立たなくなります。そういうことを私は教えようと思っていません。なんでもいい、少しでも興味をもったことから気持ちを起こしていって、どんどん自分で掘り下げてほしい。私の授業では、君たちがそのヒントを見つけてくれればいい……。だから、このプリントには正解を書いてほしいとは思っていません。自分がその時、ほんとうに思ったことや言葉を残していけばいい。そうやって自分で見つけたことは君たちの一生の財産になります。そのことは、いつかわかりますから---。」

 灘校と言えば言うまでもなく、全国で有数の進学校。受験勉強の対局にあるようなこういう授業をやっていながら、生徒も親たちもそれを受け入れたのは、エチ先生のこの信念にブレがなかったからに違いありません。

 そして、それを許した学校もすごいと思います。学校経営者も強い信念が無いとできないですよね。

 すぐ役に立つことは、すぐに役に立たなくなる・・・この言葉、これからの人生で座右の銘にしようと思いました。

 


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心が喜ぶ働き方を見つけよう 立花貴

2012-05-02 | その他

思い描いた夢をずっと忘れずに追いかけていると、ある日突然ワープして、その場所に急に近づくときがくる。そこまであきらめずに、感じたまま行動し続けることが大切なのだ。

心が喜ぶ働き方を見つけよう
立花 貴

大和書房

 GWが始まった28日から3日間、宮城県石巻市雄勝町というところに行っていました。そこで出会った本書の著者である立花氏は、震災後この地区で地元の漁師さんたちとOh!GUTS!という会社組織を立ち上げられました。

 東北大学を卒業後、大手商事会社で6年勤められたのち、食品会社を立ち上げて10年、2010年5月、突然社長を解任されたという経歴の持ち主。自分で作った会社から追い出されるなんてまるでスティーブ・ジョブズみたいだなと思いますが、実際に28日にお会いした印象では大違いでした。(私のイメージではジョブズは頭がいいのは認めるが相手の気持ちは全く分からない人というネガティブなものですので・・・)

 バブル崩壊後失われた10年が20年となろうとしていた時に起こった東日本大震災は多くの人に衝撃を与えました。津波に襲われた後の町はまるで戦後の焼け野原の写真のようだと感じた人は私だけではなかったと思います。

 ですから、「壊滅的な町でやることに意義があると思っている」という著者の言葉には説得力を感じました。

 戦後、焼け野原からの復興と高度成長を自分たちが支えたという自負が団塊世代より上の人たちにはあったと思います。しかし、大人になった時にすでに高度成長が終わっていたそれより下の世代にとっては、豊かさは既に空気のようなもの。

 自分が社会に対して何かできるなんて思えず、我々の世代は、「三無(無気力、無関心、無責任)主義」、「しらけ世代」と呼ばれ、私自身も、「社会」の中の自分という意識を殆ど持たずに今まで来たような気がします。

 著者は私よりは若いですが、それでも同じ1960年代の生まれ。

 30年前だったら、”ダサい”と感じたかもしれない彼の熱さが、ほんとかっこいいなぁと思いました。

 これまでに東京から雄勝へ連れて行った人は、1年間でのべ700名以上になる。首都圏で働く人たちに、震災地を見てもらって、感じてもらって、現場感を持ってもらいたいからだ。そして、雄勝に関わりを持って一緒に活動してくれる人を増やしたいからだ。

 この行動力が、また人を呼ぶんですね。

 Oh!GUTS!では、漁師→漁協→仲買→小売り→消費者という流れを漁師→消費者ダイレクトにすることにより、消費者はより新鮮なものが届けられ、生産者はより多くの収入を得られるようになるということを目指しています。しかし、それだけではなく、消費者にもっと生産現場を見てもらい体験してもらうために、様々なイベントを企画されたり、また、漁師を目指す人の人材育成、そしてそれだけでなく、食を通じて日本の未来を担う子供たちへの教育にも一役買おうとされています。

 もちろん、立花氏自身は仙台出身で、雄勝にとってはよそ者。苦々しい気持ちで見ている人もいるだろうというのは想像に難くありません。それでも、たぶん震災前の状態に戻すことを目標としていても将来はないということも事実だと思います。

 復興には夢や希望が必要なんです。

 そんなこんなことを考えていたら、ふっと私の脳裏に浮かんだのは「ネバーエンディングストーリー」のオオカミの言葉。

  「希望を失った人々は支配しやすいからだ」

 夢を見、希望を持つことが、一度は崩壊してしまったファンタジアを再び再生させるという物語でした。

 暴走気味の資本主義に違和感を感じていたので、この震災をきっかけに日本が変われたらいいなぁって思ってはいましたが、こんな風に夢を形にしようと動き出している人がいるんだなぁと胸が熱くなりました。

「何もなくなってしまった震災地で、なかでも特に厳しい状況の雄勝で、これだけのことができるのだから、どこでもできる」と思ってもらいたい。

 小さな成功体験が伝搬してほかの人たちにも希望が生まれる、そんな連鎖が生まれれば素敵だと思います。理想と言われようと、夢を語ることは大切な事ですね。

 若い人には、是非読んで、何かを感じてもらいたいなぁと思う1冊で、私もさっそく姪っ子に贈ることにしました。

 また、とりあえず今の自分にできるのは雄勝の事やOh!GUTS!のことを知ってもらうお手伝いをすることなので、このブログでも紹介させてもらいました。

 


人気ブログランキングへ うぁ・・・長い間更新サボっていたため、ランク外になってました・・・。