本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

カラスの教科書 松原始

2016-07-31 | 評論

 

  Q: ・・・カラスと目を合わせると襲われそうで怖いです。

 A: 大丈夫です。向こうもそう思ってますから。

カラスの教科書 (講談社文庫)
松原 始
講談社

 

 著者の松原始氏は、動物行動学の専門家で、長年カラスの研究をされている方で、本書には著者のカラスへの愛が溢れていて、かわいいなんて思った事の無かったカラスがちょっとかわいく思えてくること間違いないです。

 この本の魅力はだから、カラスそのものではなくて、たとえカラスという世間の嫌われ者でも、カラスの気持ちになって理解しようとする著者の人間性にあることは間違いないです。

 そして、その魅力を増幅しているのが、編集者による素敵なカラスのイラストです。

 もう、このカラスのキャラクタグッズがあったら、絶対買いますよ~。

  ところで、この本を手にしたのは、やっぱり私が、カラスって賢い鳥だと思っていたからなんだと思います。以前カラスは賢くて、攻撃されたら相手の顔を覚えていて仕返しするからと、駆除業者が顔を隠して作業をしている様子をテレビで見たこともあるので、このことは定説だと思っていたのですね。

 でも、著者がいうには、人間にとって「賢く見える」事が「賢い」の定義。でも本当に異なった生き物の賢さを計るのは無理があるんだと

 例えば、正解のボタンを押し続ければいればそのうち餌がでるよ、という装置を使ってハトに課題を解かせると、ハトは餌が出るまで何千回でもボタンをつつく。あきらめるという事を知らないのだ。例えて言えば、自販機にコインを入れてボタンを押したのにジュースが出ない時、「出ないよ?出ないよ?出ないよ?」と何千回も押し続けるのがドバト流である。(中略)。

 だがここで、ハトの視線で考えてみよう。ドバトのエサは果実や種子で地面にめり込んだような種子でも、つついていればそのうち口に入るらしい。(中略)つまり「諦めることを知らない」「何も考えない」というのはドバト的には全く正しい、最も賢いやり方だと言える。

 

 一般の人が陥りがちな単純な判断に、違った視点を与えてくれるというのが、私の読書の一番の楽しみで、こういう文章を読むとワクワクしてしまいます。

 今までは「カァ~」という声が聞こえても見向きもしなかったのに、今は、どこで鳴いているんだろうと探してしまうし、ゴミ置き場のカラスをみると、ハシブトかしら、ハシボソかしらと見つめてしまいます。

 余談ですが、この本の中に、「カラスの絵本図書館」というコーナーがあって、何冊かの絵本が紹介されております。そこには紹介されていなかったのですが、私は子供の頃に読んだ、「カラス旦那のお嫁取り」というアラスカエスキモー(イヌイットって今は言うんですよね)の昔話集を思い出しました。

 この本ににある「てばたき山」というのは、鳥が渡りをするときに通らなければならない山なんだけど、トロトロ飛んでいると、その山が両側から手をたたくみたいに迫ってきて挟まれてしまうというような話だったと思うのです。子供の頃にそれが恐ろしくて強烈なイメージが焼き付いているのか、今でも時々そのイメージが浮かんでくることがあるんですよねぇ。

 この本を読んで、ワタリガラスという種類のカラスはその名の通り、渡り鳥。この本の主人公はワタリガラスだったんですね、きっと。

 


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ネット時代の図書館戦略 ジョン・ポールフリー

2016-07-18 | 評論

 世界中の都市や町で、予算を審議する時期が来るたびに同じ論争が盛んになる。デジタル時代における図書館の存在意義とはなんなのか。


ネット時代の図書館戦略
ジョン ポールフリー
原書房

 前回の記事をかいてから2年近くも放置していたこの読書ブログですが、またゆっくり再開しようかなと思います。

 放置はしているものの、毎日数十件ですが確実にアクセスをしていただいているのは励みになるし、やっぱり本は読みっぱなしより、一冊読んだら少し振り返り、感想をまとめる努力をすることが、自分のためになるなあとつくづく感じる今日この頃なので・・・。

 さてこの本、「ネット時代の図書館戦略」は、本好きな人ならやっぱり手に取らずにはいれないタイトルではないでしょうか。

 著者は、もともと法学の教授という立場で図書館にかかわっておられたとのこと。ハーバード・ロースクールの学長となり、「世界最大の図書館を運営してみないか」と言われて飛びつき、もともと「デジタル技術の利用が民主主義制度をどう変えるかについて教えたり書いたりしていた。」という経歴などもあり、今はアメリカ・デジタル公共図書館(DPLA)の設立委員長として、尽力されているという、さすがアメリカだなぁというマルチな方のようです。

 私にとっての図書館は、タダで本を貸してくれる場所というものだったのですが、本書によると

 ・情報を提供をする場

 ・学習の場所

 ・ローカルコミュニティへのサービス提供をする場所

 などの役割を果たしており、そこには司書という専門家がいて相談もできるし、それら全体が公共のサービスとして誰にでも無料で提供されているということが重要だということです。

 しかし、紙やDVDといった実態をもった出版物だけが記録された情報ではなく、インターネット上に日々蓄積されていく情報も含めて、体系的に保管して提供するということはすでに個々の図書館の努力ではどうにもならない。よってそれぞれの図書館は、自分たちの特徴あるコレクションのアーカイブを行い、それぞれのできるサービスを提供し、それをDPLAといった全国組織で連携する。個々の図書館は、来館者(家にいながらでもいいのでしょうが)に対してそのネットワークを提供する基盤としての役目を果たし、司書は水先案内人となる・・・といったイメージが粗っぽくまとめると著者の描く未来像のようでした。

 日本でも最近、公共図書館の運営を民間企業に丸投げしたというニュースが流れました。著者は図書館が果たすべき役目は、国や自治体がやらなければ、多分企業がやるだろうが、それで本当に良いのか?ということを何度も述べられています。現代のビジネスの世界は先を見ると言ってもせいぜい数年単位。少なくとも何百年も先の人たちの為の情報アーカイブという役目は公共が果たさないと、企業に任せていたのではできませんよね。

 そして、この本を読んでいちばんハッとしたのは、メールやブログなどの情報も歴史的に残すべきものであっても手が付けられない状況にあるということです。

 確かに、図書館や博物館に保存されている偉人達の日記や書簡が歴史的に重要なのは言うまでもなく、ごく普通の人が書き残した日記なども、時代を経ると当時の世情や風俗を知る貴重な手掛かりになっていることは、疑問の余地がありません。

 今や、意図的に情報発信しなくても、検索や買い物した履歴、そして電気やガス、テレビなどの家庭での利用状況などもビッグデータとしてどこかに集められていく時代。

 それらを管理し、未来に残していく役割を担うのは、図書館というネットワークがいちばんいいのかもしれません。この先、図書館がどんな変化を遂げていくか楽しみになってきました。

 


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