アマゾン・ドット・コムの光と影は、そのまま21世紀社会の光と影なのかもしれません。
アマゾンは、秘密主義の組織なようで、ジャーナリスト魂をくすぐるのでしょうか。
正面から取材できないこの会社の、心臓部ともいえる物流センターに、バイトとして9か月潜入して書いたルポルタージュです。
もちろん、私もアマゾンの”カスタマー”で、そのサービスにはとても満足しているわけですが、それを支えているのが、時給900円で働くバイトの人、いわゆる”ワーキングプア”だということは、本書を読むまで、まったく気が付いていませんでした。
忘れかけていましたが、そういえば、昔は、書店で本を注文すると、1か月くらいかかりますと言われるのが普通でした。それが今では、よほどマニアックな本でなければ、数日で家に送ってくれる。そんな便利な変化も、すっかり慣れてしまっていましたが、そこにはそれなりの仕掛けが必要なわけですね。
年収400万という人たちだけでは、支えられないシステムなのは、考えてみれば当たり前・・・。
企業としては、最適なシステムで徹底的に無駄をなくし、これまでの習慣を破って、新しい顧客を創出し、徹底した顧客満足度の追及で利益を上げていくという、理想的な姿です。
しかし視点を変えれば、その”無駄を省く”ことの意味が、違った様相を見せる。
ジャーナリストの著者には、あまりにも酷いと思われるバイトの扱いに、文句も言わず従っている人たちの姿に、「ああ野麦峠」を思い出すのは私だけでしょうか。
でも、そこで働いているのは、確かに女性が多いけれど、中年の男性やおばちゃんなども多いことが、富岡製紙工場との違い・・・。
明治維新から約1世紀半、時代は前に進んでいたと思っていたのに、どこかで迷路にはまり込んで、気が付いたらもとに戻っていこうとしている。
などということを、チェーホフと並行して読みながら思ったりしたのでした。
なお、本書はアマゾンを敵視して、その冷酷な姿を摘発しようとしているというようなものではありません。矛盾を感じながら、そのサービスの良さにはまってしまった著者のどっちつかずの書き方が、とても正直で、共感できる一冊でした。