本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

停電の夜に

2010-12-25 | 小説
停電の夜に (新潮クレスト・ブックス)
ジュンパ ラヒリ
新潮社

「その名にちなんで」を先に読んでいたので、著者の世界観が理解しやすかったです。

著者のデビュー作にして、ピューリツァー賞受賞の短編集です。

”停電の夜に”では、会話がなくなってしまった夫婦に、停電をきっかけとして、会話が戻り、何かを期待する夫。

けれど、二人の亀裂は、数日で元に戻るほど、現実は甘くなかったと気づいた時の、妻への小さな仕返し・・・。

同じ人間の中にある優しさと残酷さを、平等に扱うところに、共感をしました。


 ”三度目で最後の大陸”は、アメリカにやってきたインド人の主人公が、100歳を超える、すこしボケた家主との交流を通して、アメリカに、そしてインドからやってきた妻との生活に馴染んでいくというような話です。

 特別なことは何もない、小さな日常の中から、宝石のようなきらっと輝くストーリーを作り出す著者の才能に感動しました。

 


あの人と和解する -仲直りの心理学

2010-12-25 | その他
あの人と和解する ―仲直りの心理学 (集英社新書)
井上 孝代
集英社

 対立から、「謝罪」や「妥協」ではない、「超越」による和解をめざす、トラセンド法について、実例などを交えてとてもわかりやすく解説されています。

 

 簡単に言えば、 「雨降って地固まる 」 方式。


 これを読んでいると、対立は理解に到るための必要な通過点なのだということに改めて気づくのですが、現実は、自分を振り返っても、会社での人々の様子を見ても、対立を避けようとしすぎて、逆にそれぞれの中にストレスが溜まっている状態ようです。

 

 確かに、TVドラマのように、いろいろごたごたしても、その後、結局皆の理解が深まるというような、めでたしめでたしは難しいかもしれないので、やっぱり”対立”は、避けたいと思うので、そのために、特に参考になると思ったのが、”<わたしメッセージ>で表現する”という方法です。

 

仕事や家庭で誰かに対して不満があるときに、その人に対して、

 あなたは、どうしてXXXしないの?

とか

 XXXXだからあなたはダメなんだ!

とかいうような、<あなたメッセージ>ではなくて、

私を主語にした表現にしてみようという方法。

 「あなたはどうして約束を守らないの」 ではなくて、

「今日あなたか約束を破ったことについて、正直に言って、私はとても怒っているんです」

という具合です。

 

 ちょっと、自分の頭の中でシミュレーションしてみても、こういう表現にすると、主体が自分にあるので、相手を責めるというより、これをいう自分の責任を考えながら表現しようと、慎重言葉を選ぶようにすると思います。

  対人関係の不満を決定的な対立にする前に、少し自分の表現方法を見直して、相手との理解を深められるとしたら、すごくいいですよね。

 


アマゾン・ドット・コムの光と影

2010-12-19 | ノンフィクション
アマゾン・ドット・コムの光と影
横田増生
情報センター出版局

 

 アマゾン・ドット・コムの光と影は、そのまま21世紀社会の光と影なのかもしれません。

 

 アマゾンは、秘密主義の組織なようで、ジャーナリスト魂をくすぐるのでしょうか。

 

 正面から取材できないこの会社の、心臓部ともいえる物流センターに、バイトとして9か月潜入して書いたルポルタージュです。

 

 もちろん、私もアマゾンの”カスタマー”で、そのサービスにはとても満足しているわけですが、それを支えているのが、時給900円で働くバイトの人、いわゆる”ワーキングプア”だということは、本書を読むまで、まったく気が付いていませんでした。

 

 忘れかけていましたが、そういえば、昔は、書店で本を注文すると、1か月くらいかかりますと言われるのが普通でした。それが今では、よほどマニアックな本でなければ、数日で家に送ってくれる。そんな便利な変化も、すっかり慣れてしまっていましたが、そこにはそれなりの仕掛けが必要なわけですね。

 

 年収400万という人たちだけでは、支えられないシステムなのは、考えてみれば当たり前・・・。

 

 企業としては、最適なシステムで徹底的に無駄をなくし、これまでの習慣を破って、新しい顧客を創出し、徹底した顧客満足度の追及で利益を上げていくという、理想的な姿です。

 

 しかし視点を変えれば、その”無駄を省く”ことの意味が、違った様相を見せる。

 

 ジャーナリストの著者には、あまりにも酷いと思われるバイトの扱いに、文句も言わず従っている人たちの姿に、「ああ野麦峠」を思い出すのは私だけでしょうか。

 

 でも、そこで働いているのは、確かに女性が多いけれど、中年の男性やおばちゃんなども多いことが、富岡製紙工場との違い・・・。

 

 明治維新から約1世紀半、時代は前に進んでいたと思っていたのに、どこかで迷路にはまり込んで、気が付いたらもとに戻っていこうとしている。

 

 などということを、チェーホフと並行して読みながら思ったりしたのでした。

 

 なお、本書はアマゾンを敵視して、その冷酷な姿を摘発しようとしているというようなものではありません。矛盾を感じながら、そのサービスの良さにはまってしまった著者のどっちつかずの書き方が、とても正直で、共感できる一冊でした。 


チェーホフ 2冊

2010-12-19 | 小説
ワーニャ伯父さん/三人姉妹 (光文社古典新訳文庫)
アントン・パーヴロヴィチ チェーホフ
光文社
ともしび・谷間 他7篇 (岩波文庫)
チェーホフ
岩波書店

 

 ロシアという国は不思議な国ですね。

 

 近代文学史にのこるこれだけの作家を輩出し、現在でも世界中で認められている。私は専門的な知識はないですが、こんな国、他にはないのではないでしょうか。

 

 しかし、このチェーホフという人の作品にでてくる登場人物たち・・・。

 

 社会的背景が殆ど理解できないにも関わらず、なんか自分の周りにもいそうな人たちです。

 

 20世紀の科学技術の怖ろしいほどの発展に比べて、人間のメンタリティーがまったく”発展”していないことがわかって、可笑しい。

 

 いや、もしかしたらこの頃から、社会体制や技術の発展と人間のかい離が始まり、いちはやくそこに目を付けたのがこの人だったのかもしれない。

 

 「ワーニャ伯父さん」と「三人姉妹」は、戯曲に慣れていないことに加え、ロシア人の名前が覚えられないため、なかなか状況が理解できませんでしたが、「谷間・ともしび」の方は、社会的背景などまったく理解していない私にも、なんか分ってしまう人たちが次々登場します。

 

 結局、現代の小説に描かれるいろいろな人たちの多くは、チェーホフが描いた人物像の焼き直しなのではと思ってしまうほど・・・。

 

 東西冷戦が終わっても、どこか遠くて怖い国ロシアに、少し思いを馳せてみるよい機会になりました。