本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

善知鳥 山本昌代  河出文庫文藝コレクション

2005-08-11 | 小説

「行きたくないよ地獄には」

人間存在の無明の深遠を浮き彫りにした傑作短編集

 とあれば、手にとってみたくなります。表題作の「善知鳥(うとう)」他6編が収められています。 

 「善知鳥」は、閉ざされたマンションの一室に住む、家族は何もないように暮らしている。でもそこは地獄。父親は狩猟が趣味、母親は、夫の持ち帰った鳥をつぶして、冷凍庫にためているが、食べるわけでもなく、適当に捨てている。姉は、そんな母親を冷静に見つめ、小さい弟は、何かを知っていそうでもあるが、非常に無垢。それぞれが今、家庭という地獄にいるのを知っているのか、知らないのか。

 へんな話です。能から題材を得て書いたとあります。それ以外の話は、もう少しストーリーははっきりしていますが、どこかおかしい人たちが描かれています。

 「逆髪」は、天皇の皇子として生まれながら、目が見えないために疎まれ、青年になって山に捨てられた蝉丸とその姉である逆髪のやりとり。精神を病んで宮中を出奔し、石礫を投げられたりしながら、里をさ迷い歩いている逆髪は、それまで殆ど言葉も交わしたことのない弟の所にやってきて、自分がこれほど辛い思いをするのはお前の所為だとなじる。毎日水を持ってきては、優しい言葉を少しかけたりもするが、最後にはなじって、謝れと蝉丸を責める。そして、ある日蝉丸が動かなくなっているのに気づくと、その体を踏んで、「誰ぞ、救ってくれ。救ってくれ」と叫ぶのです。 これも変な話ですが、なんとなく受け入れられる所もあり、形にならない何かがぐっとお腹に残るようなそんな話でした。

 変わった話を書く人は結構いますが、私にとって、文章だけがさらさらと意識の表面を流れて、何も残らない話と、なんだかわからないけど気になる話を書く人に分類すれば、この山本昌代と言う人は後者です。

 ちなみに私は結構物分りが悪く、超人気作家の、村上春樹は、全然だめなのです。吉本ばななはOK。一番駄目だったのは、多和田葉子。 とはいえ、駄目だった人はそれ以上読もうとしないので、もっと読めば違ってくるのかもしれませんね。そういえば、小川洋子は、昔、「妊娠カレンダー」を読んで、ちょっとわからんなぁと敬遠してしまっていたのですが、最近「博士の愛した数学」を読んで、結構感動しました。やはり残って行く人はそれなりの力量があるのですね。多和田さんも、またなんか短編くらい読んでみようかなぁ・・・・。 変な話は短編に限る。