ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『パサジェルカ』を観て

2022年02月05日 | 1960年代映画(外国)
若い頃から一度は観たいと思っていた『パサジェルカ』(アンジェイ・ムンク監督、1963年)をやっと観た。

海洋を航海中の、一隻の豪華客船。
乗客の一人であるドイツ人女性リザは、長らく夫と共にアメリカ合衆国で暮らしており、十数年ぶりに故国に帰省する途中である。
やがて、船は英国の港に寄港する。
舷側から乗り込んでくる船客たちを眺めていたリザは、一人の女性に目を留める。
様子のおかしくなったリザに、事情を知らない夫ワルターが大丈夫かと問いかける。
リザは戦争中、アウシュヴィッツ強制収容所の看守の一人だった。
先ほど見かけた女性を、リザはかつて自分が何かと手助けした女因マルタではないかと疑っていた。
戦争中にマルタとの間に生じたできごとをワルターに黙っていたリザは、夫にその想い出を語り始める。

<アウシュヴィッツ強制収容所>
リザは1943年の夏に、アウシュヴィッツに赴任した。
仕事は収容所外にある倉庫の作業監督だった。
彼女の任務は、国家の財産である囚人からの没収品を見張り、その紛失・破損を防止することであった。
一方、リザは他の多くのナチス親衛隊員とは違い、囚人たちに対する同情や親切を忘れたことはなかった。
ある日、新たに収容所に到着した女囚の中から助手を採用することになったリザは、娘らしいかよわさを感じさせるマルタに目を留め、書記として採用した。
リザはマルタが自由な人間に立ち戻るのを見ることに喜びを覚え、彼女に生きる力を与えてやりたいと思うようになった・・・
(DVDパンフレットより)

よく知られているように、この作品は監督ムンクが61年9月に交通事故死したために未完となっている。
それを友人たちが、冒頭と最後の船上部分をスチール写真とナレーションで補って作品に仕上げている。
だから映像が始まって“未完の筋書きに決着をつけたり結論を求めようとはせず、残された映像から制作意図を読み取ろうとした”とある。

リザの、アウシュヴィッツの記憶。
リザは囚人たちに対して冷ややかだったとしても、当時の状況からして一般的には良心的であった。
当然に暴力を振るうこともなく、マルタと婚約者タデウシュの逢引きにも仲立ちとは言えなくても寄り添う形で黙認する。
リザはそのような親切を通して、マルタとの人間的なつながりを求める。
しかし、マルタは常に醒めた感じで心を開こうとはしない。

そこに歴然としてあるのは、戦時下の支配者と被支配者の関係。
ましてや、その場所はあのアウシュヴィッツ強制収容所である。
リザが自分としては、愛情を掛けて相手のマルタを屈服しようとしても、マルタからすればいつ抹殺されるかわからない身である。
その後、マルタはどうなっただろうか。

船上のリザには一度は葬ったつもりの過去の記憶が蘇ったとしても、船は何事もなかったように寄港先から出ていく。
リザとマルタ、二人が再び逢うことはないだろう。
そしてリザの脳裏からは、戦時中のアウシュヴィッツの記憶は今後の日常において遠い過去のこととして再び蘇ることはないだろう。
ナレーションはそのようにラストでメッセージする。

僅か1時間あまりのこの作品に、アウシュヴィッツ収容所の内情とナレーションを絡めた方法に強烈なインパクトを受ける。
ましてや作り手は、被支配者側のポーランド人である。
優れた作品は、淡々とした内容であったとしても、その内に秘めた熱意は自然と十分に伝わる力を持っている。


コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『スリー・ビルボード』を観て | トップ | 『危険な関係』(1959年)を観て »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ツカヤスさまへ (くりまんじゅう)
2022-02-06 19:21:05
お久しぶりです。時々私のつまらんblogを見てくださっており
有難く思っていました。
コロナからこっち もう2年ほど劇場で映画を観てなくて
いつになったら映画館に行けるのか いやなご時世です。

この前アマゾンプライム何とかから案内がきて年間5,000円で
TVで映画が見られる契約をしました 安かったから。
でも月に1-2本観るくらいかな と思います。

NHK BSでヒトラーのドキュメンタリー番組がたびたびあり観ます。
↑こういう作品を劇場で観たいですね。
返信する
>くりまんじゅうさんへ (Unknown)
2022-02-06 22:28:35
コメントありがとうございます。
ブログ投稿が本当に久し振りになってしまいました。
その間、コロナも意識して映画館も行っていません。
寂しい限りです。
もっともDVDではある程度、過去の作品を観ていて、ブログに上げようと下書きを書いていたのですが、
書き終わるまで行かずにそのままが溜ってしまいました。
いずれにしてもまた、少しずつ書こうかなと思っています。
ありがとうございました。
返信する

コメントを投稿

1960年代映画(外国)」カテゴリの最新記事