原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

自己治癒力

2013年11月19日 10時18分01秒 | 社会・文化

 

小学校34年頃だったと思う。虫歯の痛みで泣きわめいていたことがある。当時、私の家は食堂をしていて通りすがりの人が何人か店で食事をしていた。その中の一人が「坊や、こっちにおいで」と呼んだ。「いまからまじないで、その虫歯を痛くなくするよ」と言った。そしてなにやら不思議な言葉を並べ、最後に「エーィ!」と気合の一喝。「これで永遠に痛みはないよ」と、かのおじさんは告げた。

不思議なことに、以来、その虫歯は痛むことはなかった。虫歯は腐りきり、最後は根本しか残らなくなり、結局歯医者で抜歯する。しかし苦しめた痛みは最後までなかった。



この通りすがりの人(旅人と思うが)はどこの誰だかいまだわからない。詐欺師のような人であったかもしれない。これによる金銭的な被害はなかった。だが、痛みが消えたことは本当であった。決してオカルトチックな話ではない。私流の解釈(あまり科学的ではないが)では、自己治癒能力の扉を開いた結果と考えている。呪文を聞いた私の脳細胞に突然ある機能が働き、痛みの系列一つを遮断してしまった結果ではないかと。これは潜在的に持っていた自己能力が発揮されたのでは、思っている。これこそ自己治癒力だったと。都市伝説みたいな話なったが、脳科学者によると、脳細胞というのはいまだ良く解明されていないと語り、脳の開発の可能性は無限にある、とまで断言している。私の推測が事実無根とは言い切れい。可能性はゼロではないということだ。



地球には命があふれている。命に満ち溢れた星ともいえる。その生物はすべてに寿命という運命を背負っている。生まれそして死んでいくことを繰り返している。自分の環境に対応し順応する優れた能力を持ち、同時にかなり高い自己治癒力(自然治癒力とも言う)を備え持っているのが、地球の生命体だと思う。



野生動物を人間と比較すると、その能力の高さは顕著だ。深手を負った彼らがその傷を癒すのは自力だ。山深い隠れ家に身を潜め、傷が治るまで隠遁する。食事もとらずに、じっとしている。自己の治癒力で治すのだ。野生動物が自らの舌で傷口を舐めるのは、いわば傷への特効薬でもある。彼らの唾液と舌にはそれだけの効能が備わっている。このとき、彼らは決して動き回らない。大地に身を伏せ、大地を抱くように静止する。それは地球という生命体と同調するかのように見える。地球という星に無数の生命が宿った本当の理由はここにあるのかもしれない。



当然ながら、人間も彼らと同様の機能を持っていたはず。いつの間にか忘れてしまっただけなのではないだろうか。それほど強靭な肉体を持たない人類である。もし野生動物と同じような能力がなければ、氷河期を超え、恐竜時代や強力な外敵動物の中で生き抜くことはできなかったはず。ただ単に知恵があったからではない。生命維持に対する能力はかなり高度であったと考えられる。その証拠が「手当て」という今に残る言葉だ。



日本語の「手当て」は、金銭を準備するという意味のほかに、治療するという本来の意味がある日本だけではなく、キリストの新約聖書にも手当てによる癒しがあることが表記され、欧米には昔から手のひら療法(触手療法)というものがある。医者も薬もなかった原始時代治療こそ「手当て」が基本であった。この分野の研究者によれば、原始時代は誰でも手から電磁波のような強いオーラを発することができ、その力が痛みや傷を治した。実際に、痛いところに手を当てると、痛みが和らぐのを感じる。これは錯覚ではない。そういう能力がもともと人類にはあるという証明なの

また、人間の唾液には強力な殺菌能力があることも証明されている。人類は本来の能力として病気や傷に対する高度な自己治癒力を持っていたということはたしか。その能力は消失してしまったように見えるが、実は潜在していて、突然、表れる可能性がある。子供の頃、私が経験したようなこと、再び起こるかもしれないのだ



「病は気から」、とよく言われる。これもまた治癒力がもたらした言葉に思える。癌の手術で開腹したが末期の癌で手がつけられず、そのまま閉じただけなのに、手術が成功したと信じた本人が驚異の回復をするという話や、ただの砂糖水を最新開発の薬と信じて服用した人が病気を全快させたという話を聞く。眉唾の話に聞こえるが、嘘ばかりではない真実も混じっている。



この10月、癌の手術をした。手術自体は簡単なものであったが、癌の種類があまり良いものではなかった。再発の可能性があると言われた。どうやら本格的な戦いはこれからということなのだろう。覚悟はできている。そんな折、友人の勧めで一冊の本を手に入れた。「サイモントン療法」である。アメリカの心理社会腫瘍学の権威、カール・サイモントン博士(19422009)が開発したもの。世界的に注目されたイメージ療法で癌の治療に導くというものだ。心や感情が体に及ぼす影響を考慮し、自己の治癒力を活性化させるという。

多くのことで共感する本であった。だが、私にはたぶんこの通りにはできない。自分はそれだけ純粋ではないし、一つの規則にしばられる生き方に抵抗があるためだ。でもサイモントン博士が伝えようとする基本は納得する。人間が持っている潜在的な可能性を引き出していくことには挑戦すべきだ。自己のもつ治癒能力を思い切り信じたいとも思う。



人間には優れた自己治癒力がある。人間の脳の再生力は無限の可能性を秘めている。だが、人類の生命は決して永遠なものではない。寿命はあるということだ。人生の終わり方を意識することで、現実の痛みや苦しみから解放される可能性もある。そのことを確認するだけでも、生き方は大いに違ってくるのかもしれない。


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2 コメント

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自己免疫… (numapy)
2013-11-20 15:20:55
人間は100万の化学工場を抱えながら歩いてる、と言われますね。
しかも大抵の工場にアクセルとブレーキがある。
脳内伝達物質やホルモンに至っては多重の構造があり、ようやく機能解明の糸口を探り当て始めたようですね。
だから、ひとつが反乱をおこすと大変です。
やれやれ、人間はなぜここまで進化したんでしょう?
それを進化と言えば、の話ですが…
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進化と退化は紙一重 (原野人)
2013-11-22 12:53:11
進化も退化も基本的には同じように思います。
何かを得ると何かを失う。その繰り返しで、その変化はすべて進化ともとれるし、退化ともとれる。どこで判断するかになるでしょうね。
歴史に対する評価がそれをよく物語っています。
江戸時代の日本は250年間にわたる平和を維持したことで評価されますが、その背景は江戸幕府の圧倒的な軍事力によって維持されていたことを思うと、評価する時代によって大きく意見が分かれると思います。同じですね。
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