原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

今年のイソツツジ、川湯硫黄山から。

2011年06月21日 08時23分49秒 | 自然/動植物

 イソツツジは不思議な花だ。噴煙が上がる硫黄山のすぐそばという、いかにも環境が悪い場所に群生している。もともとは湿原や湿った地域に生息する植物である。火山灰と硫黄の毒素を含んだ噴煙が漂うエリアに群生できた要因はなんであったのだろうか。ちょっぴり謎なのだ。このイソツツジのすぐそばに高山植物のハエマツが群生している。この地域は決して高地ではない。なぜここに?これも謎だ。植生が謎に満ちている。いずれも正確な回答はまだないと聞いた。このエリアにマジックが仕掛けられ、ある種のミステリーゾーンになっているような気さえする。

イソツツジにとって火山灰の強い酸性は耐えられるとしても、保湿性のない火山灰への適応性はあまりないはず。彼らは非常に長い時間をかけてこの環境改善に努力していることが近年の研究で分かってきた。

イソツツジは成長するたびに根元に落ちた葉を少しずつため、長い時間をかけてやせた地を有機物に富んだ土壌に変化させていたのである。有機物を含んだ土壌は保湿に優れ、養分が流れ出すことを防ぐ。こうして火山灰の地を自分たちの生息できる環境に変えていた。イソツツジの根元を見ると少し土が盛り上がるようになっている。これが自らの落葉を集めて作った土壌であった。百ヘクタールのツツジが原が生まれるまで、どれほどの時間がかかったのか。おそらく、気の遠くなるような時が経過しているに違いない。

これを考えると、最近の気象の不安定さに苛立つ人間の愚かさを感じる。根気よく改善すれば、環境も自分たちに適したもの変わる、気象の変化に対応する工夫があるはずだと、考えるべきなのだろう。もっとも、この気象の不安定さを生みだしたのが人間の業であることも忘れてはならないが。

(空に伸びるハエマツとイソツツジ)

ハエマツにも異変が生まれている(昨年も紹介したが)。もともと高山植物のハエマツがここに生息していることも不思議であるが、このツツジが原のハエマツも不思議な変化をしている。背丈が上へと毎年伸びている。ハエマツというよりタテマツという感じだ(これも昨年話した)。年々量が減少している冬場の雪がこうした影響を生んでいるらしい。ハエマツは大量の雪の重みで上にのびることができず、地を這うように枝葉を伸ばすもの。ところが、近年の道東の降雪量はそれほど多くはない。しかも暖冬の影響もあった。昨年暮れから日本中は大雪の害に苦しんでいたが、この道東だけは例年以上に雪が少なかった。こうした傾向が何年も続いた。つまり雪の重みが少ない分空へと枝葉を伸ばすことができた。気象の変化がハエマツの姿をかえていた。

自然界に生きる生物たちのたくましさを我々人間も学ばなければいけない。今年三月に起きた東日本大震災も、日本人へ向けた天からの啓示ととらえても良いのかも。新たな環境づくりに努力すれば、天災は乗り超えられると、自然界が語っているように、思う。

昔の記憶だが、ツツジが原一面に白い花で覆われる大パノラマの光景が脳裏に焼き付いている。気象の影響なのか、原全体が一度に開花する光景が、ここ数年見ることがでない。タイミングもあるのかもしれないのだが、見てみると、花の咲き方に微妙なタイムラグがある。花の咲いている場所がまだら状になっていた。これも天候不順の影響なのか。こうしたずれが少しずつ調整されて、いつの日か、再び一斉に開花する時が来ることを願っている。

来年こそ、ツツジが原全体に広がる白い花園の光景を期待したい。


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2 コメント

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この時期は行ったことがない! (numapy)
2011-06-21 08:54:29
いやぁ、きれいですねぇ。
こんな色のツツジとは知らなかった。イソツツジですかぁ。それにしても植物の時間は動物の時間とかけ離れてる。一説によると、植物は死なない!とも言われてますね。縄文の黒米の籾はは3000年後に芽を出した。この考え方で行くと、岩石も場合によっちゃ生命があるのかもしれない。そんな気がしてきました。
川湯で温泉に浸かりながら、そんなこと考えるのもいいかなぁ。今週は釧路で慰問です。
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見ごろです、今が。 (原野人)
2011-06-21 10:13:50
海の近くでもないのに、イソツツジとは?この名前からミステリーです。正確にはエゾイソツツジというらしいですが。俗説ですが、エゾツツジがなまってイソツツジとなったと言う人もおります。ま、都市伝説みたいなものですかね。
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