彼の三度目の来日は、一人で、それも九州への旅だった。
「関西空港に着くけど、そのまま福岡に飛ぶので、今回は奈良には行けないし、会えないよ」と言ってきた。
「それは残念だけど、気持ちが変わったらいつでも来てね」と言っておいた。
九州は私が黒川温泉に行った時の写真を送って以来、「この宿に泊まりたい」と希望していて、今回も予約を代行した。
後はバスの旅で、宿も彼がガイドブックで予約した安宿がほとんどだった。
福岡~別府~黒川~熊本~鹿児島(指宿)~福岡と言う旅程だ。
すべてバスの旅だったが、黒川から熊本への車窓が特に良かったそうだ。
福岡からも太宰府まで足を延ばしたり、温泉も好きな彼は小さな温泉に日帰りをしたり、黒川では外湯巡りや宿の食事も含めて「また行きたい」というくらいとても気に入ったようだった。
この黒川の宿は、一人だと言うと、「では予備として一番小さなお部屋がありますが、それを使っていただきます」と言うことでその旨をクリスチャンに言うと、和楽器の名前の付いた部屋を音楽の教師の彼は喜び、楽しみにしていた。
しかし、宿の計らいで「大きなお部屋が空いていましたので、そちらを案内させていただきました」と、同じ料金でアップグレードしてくれたのだった。
ところが彼は小さくても楽器の名前の部屋に泊ることを楽しみにしていたので、ちょっと残念だったそうだ。このあたり、私たちの感覚とは少し違いがあるように思える。
毎日メールで、旅の様子を知らせてくれていたが、思いもよらないことが待ち受けていた。アイスランドの火山の噴火で、フライトのキャンセルが相次いだのだ。
「もしキャンセルになったら、いつでも我が家においで」とメールを入れたら、「ありがとう」と笑っていたが、その後「関西空港で足止めされた。行ってもいいか?」と尋ねてきた。
「もちろん、待っているよ」と返事をした。
ジェラールとエブリンの帰国便も心配したが、一日違いで彼らはキャンセルなく帰国できた。こうして彼の三度目の来日も期せずして、奈良へ来ることになり、五日間滞在することになる。
「何と言う、冒険だ!!セラヴィ、セラヴィ(仕方がないさ)」と彼は言った。「言ったでしょ?私に会わない来日はないと神様のお告げよ」と私も嬉しく彼を迎えた。
まずは奈良観光から始めよう。