関東学院と法政の対戦は関東リーグ戦Gきっての黄金カードだった。しかし、リーグ戦の最終日に秩父宮で勝利した方が優勝という時代があったことも記憶の彼方に行きかけている。関東学院は4シーズンぶりの1部リーグ復帰だし、法政も(かつての優勝争いの常連校だった時代を知るファンにとっては)低迷状態にあると言わざるを得ない。代わりに秩父宮での最終戦の指定席2つに座ることが多くなったのが東海大学と流通経済大学。流経大は1997年に1部昇格を果たし、東海大も2000年に1部に復帰したのだが、果たして関東学院や法政に勝てる時代がやって来るのだろうかと思わせるくらいの力の差があったことも「過去のこと」になってしまった。
何とか両チームにかつての勢いを取り戻して欲しい。東海大と流経大が地道に実力アップを図ってきたことは確かだが、関東学院も法政も選手の努力が報われない形でチーム力が低下していくことを目の当たりにしている。チーム力を上げるためには何かを変えなければならない。過去2戦の観戦で関東学院には明らかに復活の兆しが認められた。果たして法政はどうだろうか。秩父宮の東海大と大東大の激突よりも、この対戦のあとしばらく試合がない法政のチーム状態が気になったのでニッパツ三ツ沢に足を運んだ。
上野東京ラインの開通で埼玉県の我が家からもすっかり近くなった横浜。30分前に競技場に到着し、メインスタンドの法政サイドの観客席に座る。ピッチでアップに励む選手達を観てまず感じたことは選手達の身体が細めに見えたこと。つい1週間前に観た拓大の選手達はビルドアップされたイメージだったのでそう感じたのかも知れない。法政はメンバーもなかなか固定できていない。FWの前4人がすべて入れ替わったのは、東海大戦でスクラムが崩壊状態(メンバー交代後はやや持ち直し)にあったからやむを得ないとして、BKも負傷者が多いためかベストのメンバー組めていないようだ。関東学院のメンバーで流経大戦から代わっているのはSOと右WTBだけなのとは対照的。キックオフ前の時点で既に双方のチーム事情が伺われるような状況だった。
◆前半の戦い/関東学院先制のあと圧倒的に攻め続けた法政だったがゴールは遠し
法政のキックオフで試合が始まった。開始から4分、関東学院は法政陣10m付近(右サイド)のラインアウトから素早くオープンに展開し、ライン参加したFB今村が鮮やかな先制トライを挙げる。GKは失敗するが5-0と関東学院は上々のスタート。法政に動揺があったためかリスタートのキックオフはダイレクトタッチとなる。関東学院はセンタースクラムからテンポよくボールを動かして法政陣22mラインに迫るものの惜しくもノックオン。スクラムで関東学院がコラプシングの反則を取られたところでようやく法政が一息つく。
9分には関東学院陣10m付近の法政ボールラインアウトで関東学院にオフサイドの反則。法政は間髪入れずにタップキックで関東学院陣ゴールライン付近まで攻め込むものの惜しくもドロップアウトとなる。関東学院はドロップキックをちょこんと蹴って巧みにボール確保に成功し、前に出るもののノックオン。ここから法政の怒涛のアタックが始まる。15分、法政は関東学院の反則から敵陣ゴール前でラインアウトの絶好のチャンス。まずはモールを形成して押し込もうとするが、関東学院のモールディフェンスが機能してラックとなりノットリリースの反則。
19分には関東学院陣10mを越えた辺りでのスクラムを起点として攻め上がるもののパスはフローフォワード。20分、関東学院のキックに対するカウンターアタックではラックでハンドの反則。22分にも関東学院陣10m/22mのラインアウトでボールを投げ入れるのが遅れて相手フリーキック。さらに直後のほぼ同じ位置での関東学院ボールのラインアウトでもスティールに成功するもののオフサイド。攻撃権もエリアも法政が支配する圧倒的な展開になっているのが信じられないくらいにゴールラインが目前で遠くなってしまう状況に法政ファンのため息をつくしかない。
26分に関東学院の反則で掴んだゴール前ラインアウトの絶好のトライチャンスも、またしてもモールを止められ、ラックでターンオーバーされて潰えてしまう。序盤の関東学院の鮮やかなトライシーンを除けば、法政が圧倒的に攻める一方的な展開なのに得点板が不思議なくらいに動かない。法政が手詰まり状態になってしまったことには原因がある。まず言えるのはアタックが単調なこと。選手個々の能力は高くても、強引に突破するしか方法がなければ相手は止めやすい。次に言えることは関東学院の組織ディフェンスが完全に機能したこと。法政は数的優位を作れず、オープンに展開しても間合いを詰められてタッチに押し出されるかパスミスでチャンスを逃す。また、オーバーラップができたときもお手本のようなスライドで対応されてラインブレイクできない。
関東学院は伝統的に相手に攻められても粘り強く守ってアンストラクチャーの状態を作り、そこからの素早い切り返しでトライを奪うことを得意としている。しかし、この試合の場合は法政の不味い攻めに助けられている面もある。とにかくディフェンスに穴が開かないから、攻めに攻めてもトライを取れる匂いがしない。展開してダメならばFW周辺でとなるが、ここも関東学院がしっかりと網を張って待ち構えている。とにかく前に出たいがために1人1人が無理をすることになるが、ここ(苦し紛れのプレーを相手にさせること)が関東学院の狙い目でもある。怖いのはテンポよくボールを繋がれて数的不利に陥りディフェンスに穴が開くことだから。
殆どボールを持つチャンスが少ない関東学院だが、ひとつ惜しいシーンがあった。28分、法政が関東学院陣奥深くに攻め込んだ状態でノックオン。混沌とした状態になりかけたところでボール確保に成功した関東学院の選手が右タッチライン沿いをゴールに向かってまっしぐらでそのままトライかと思われた。しかし、無情にもアドバンテージルールは適用されずノックオンの位置で関東学院ボールスクラムからの再会となる。この日レフリーを務めたのはウェリントン協会のマイク・ピンフォールド氏。「アドバンテージを取ってくれない...」と度々スタンドから漏れ聞こえてきた嘆き節には同情を禁じ得ない。
結局、前半は野球に例えれば「スミイチ」の状態で5-0と関東学院リードのままで時計がどんどん進み終了。アタックの位置と方法を記録したメモを眺めてみても、殆どの時間帯でゲームは関東学院陣内で行われていることは明らか。関東学院の堅守が光ったというよりも、法政のアタックのちぐはぐさが目立った前半だった。ボールを持つチャンスは少なくても、関東学院はエリアや状況によって15人がどのように動けばいいかについて意思統一が図られている。余談ながら、トイレに行く途中に法政の控え選手達に遭遇。さほど落ち込んでいる様子は見られず白い歯も見えるような状態。去年まで2部で戦っていたチームを相手に攻めきれていなことに対して、感じることはないのだろうかと逆にこちらの方が心配になってしまった。
◆後半の戦い/鮮やかにトライを重ねた関東学院に対し、法政の終盤の猛攻も実らず
組織ディフェンスが完全に機能したとは言え、タックルに次ぐタックルだった関東学院の選手達はかなり消耗したはず。しかし、ここ一番での得点能力は流石だった。開始早々の3分、左中間約25mのPGは外れるものの、法政ドロップアウトからのカウンターアタックで魅せる。法政ボールとなるもののターンオーバーに成功した時に左サイドにスペースができた。スタンドからの「左だ! スペース!」という声に応えるようにボールはオープンに展開されて左WTBの佐々木に渡る。関東学院では貴重な突破役の佐々木だが、前には法政の選手が複数立ちはだかる状態でさてどうするか。と思った瞬間、絶妙のタイミングでリターンパスが内側にフォローしていたFB今村に渡る。これがラストパスとなり、ゴールキックも成功して12-0と関東学院がリードを拡げる。
リスタートのキックオフからも関東学院はモールを形成してぐいぐいと前進しHWLに到達。押せてしまった状態でモールが割れてアクシデンタルオフサイドとなるが、関東学院がすっかり活気づいてしまった。HWL付近からのスクラムから法政はオープンに展開するもののパスミス。このボールを拾った関東学院のCTB青山がそのままゴールラインまで走りきる。ゴールキックも成功して19-0と関東学院はリードをさらに拡げる。法政の選手に意気消沈ムードが漂い始める。そんな状況を見透かすように関東学院はリスタートのキックオフに対してキックを使わずにパスで攻める。しかし左サイドでパスミスからボールはタッチへ。法政はこのチャンスを逃さず、ラインアウトからモールを形成してトライを返す。ゴールキックは失敗するが5-19と息を吹き返す。
しかし関東学院は落ち着いていた。19分、法政の反則で得たゴール前ラインアウトのチャンスからモールを形成して前進。ここは止められてラックとなるもののFWでボールキープしながらボールを右へ右へと確実に動かしていく。そして、ディフェンスに穴があいたところでラックからアングルチェンジの形で走り込んで来たCTB青山にラストパスが渡った。ゴールキック成功で26-5となる。関東学院は畳みかける。23分にはHWL付近での法政の反則で得たPKからタップキックで前進しウラへキック。このボールを拾ったCTB吉良がトライを奪い31-5(GKは失敗)。ここで勝負ありとなった。
残り時間がどんどんなくなっていく中で、トライを取らなければ点差を縮めることができない法政。関東学院の選手達に疲れが目立ってきたこともあり、ようやく法政にエンジンがかかる。関東学院は自陣ゴールを背にして堪える時間帯となり反則も増えていく。反則に対するアドバンテージを示すレフリーの右手が横に上がり続ける中でのアタックが続く中で法政が2トライを返す。反則の繰り返しで31分、41分に相次いで関東学院の選手にシンビンが適用される。主将とレフリーのコミュニケーションはちゃんと取れていたのかが気になる状況でもあった。
ピッチに2人が倒れていた時には一時的に関東学院の選手が11人の状態にもなるが、後半に積み重ねられた4トライは追いかける法政にとって重かった。最後は乱戦模様となりながらも31-15のダブルスコアでの勝利は関東学院にとって嬉しい今季初勝利。2部降格が決まったシーズンも未勝利だったため1部リーグでの勝利は5年ぶり。ずいぶんと時間が経っていたことを改めて知る。関東学院の選手達は疲れも忘れて歓喜の表情を見せていたがそれも十分に頷ける。やはり練習はウソをつかないし、練習で出来ないことは試合でも出来ないことがよくわかった。
◆試合後の雑感/復活に対して視界良好の関東学院、法政は前途多難
栄枯盛衰がある勝負の世界とはいえ、関東学院と法政が2強として君臨していた時代がノスタルジックな思い出となりつつあることに一抹の寂しさを感じる。両チームの「低迷」に共通するのは、選手達の努力ではどうしようもない理不尽な現実があるということ。ただ、関東学院は1からチームを作り直せる強固な基盤がある。そのことがより明確になったのがこの試合だった。選手個々の力が上がっていけば、確実に東海大や流経大にキャッチアップできるだろうし、覇権奪還への視界も開けてきたと言える。
例えばだが、流経大は1部昇格前からの20年以上、東海大も木村監督就任から20年近く。関東学院に至ってはそれ以上の年数をかけた組織作りへの試行錯誤(失敗の連続を経た進化)の歴史がある。その過程で得たチーム作りのノウハウは伝統工芸と言っていいだろう。大東大、中央大、日大、拓大も改革に取り組み成果が見えてきているような状況。2部リーグでは組織ありきのラグビーがより浸透し、内容なら1部リーグ校を凌ぐと感じさせるくらいになってきている。そう考えると、法政は負の連鎖というか、年を重ねるごとにストロングポイントが失われていくような感があり、前途多難という言葉しか思い浮かばない。