映画とライフデザイン

大好きな映画の感想、おいしい食べ物、本の話、素敵な街で感じたことなどつれづれなるままに歩きます。

映画「ポトフ 美食家と料理人」 ジュリエット・ビノシュ&トラン・アン・ユン

2023-12-19 21:50:06 | 映画(フランス映画 )
映画「ポトフ 美食家と料理人」を映画館で観てきました。


映画「ポトフ」は美食家の男性と女性シェフのカップルを描いたベテラン女優ジュリエットビノシュ主演のフランス映画だ。ベトナムのトランアンユンカンヌ映画祭で監督賞を受賞している。

料理としてポトフを知ったのは大学生の時、広尾の日赤病院前の東京女学館横の通りを隔てた場所にあるヴィクトリア洋菓子店という洋食屋も兼ねたお店で食べた。時おり自分もブログの番外編でおいしい食べ物を取り上げるが、ここの洋食は絶品だった。今だにここで食べたOXタンシチュー、ミンチソテー、ポトフを上回る洋食に出会わない伝説の店だ。フランス風野菜スープであるポトフという言葉には今でも心を動かさられる。


トランアンユン監督の初期の「青いパパイアの香り」「夏至」には登場人物が料理をつくる印象的な場面がある。しかも、ジュリエットビノシュ「イングリッシュペイシェント」以来、自分が時代を遡りながらブログでもほぼ取りあげてレオンカラックス作品や「存在の耐えられない軽さ」を追いかけている。絶対に見逃せない作品だ。

フランスの郊外、美食家のドダン(ブノワ・マジメル)と彼のレシピを最高の味で提供する料理人ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)は森の中にある同じ住まいの別部屋で暮らしていた。ドダンの求婚をようやく受け入れて皆の祝福を受け、ユーラシア皇太子のために出すポトフのレシピをともに考案していくが。。。直近でウージェニーは、体調の異変を感じていた。


断言できる!史上最強のグルメ映画だ。
作品情報にそのような外国マスコミのコメントが書いているが、これは大げさではない。それは映画が始まって約30分強で確信できる。

TV「料理の鉄人」キッチンスタジアムを思わせる厨房には、生魚、野菜、お肉と食材が満載である。それをジュリエットビノシュ演じるウージェニーと女性2人の助手が3人で下ごしらえをする。ウージェニーが手ぎわよく捌いていき、煮たり、焼いたりしていく。ものすごく手が込んだ作品だ。それ自体が美しい絵になっている。完成品になる前から色合いがきれいだ。調理場面を映すカメラアングルも抜群だし、料理をつくる時に発する音に食欲を感じる。明らかに今まで観たグルメ系の映画を凌駕する。

何も情報がないので、家庭料理でこんなの作っちゃうの?これだけ揃えたら食材の費用はすごいだろうなあ?こんな量を助手を含めた4人で食べるの?と思っていたら、ダイニングには連れ合いのドダンに加えて4人の男性がいた。解説に美食家となっているので、そうコメントしたけど、こいつら何者なんだろう?貴族なの?今でもそう思う。

ダイニングでとりわけしたものを食べていく。何ておいしそうなんだろう!
これには驚いた。


あえて料理映画の名作といわれる「バベットの晩餐会」と比較する。
パリから戦乱を避けてデンマークでメイドとして働く主人公が宝くじに当たったので、最高の食材で雇い主をもてなす話だ。自分は最高の料理映画と思っている。そこでは、そのメイドが手ぎわよく一人で料理をつくる。それ自体がすごいけど、今回の「ポトフ」の前半戦の方が動的だ。助手2人と一部連れ合いに手伝わせてつくっていく姿の方が、「料理の鉄人」で鉄人シェフたちが助手を従わせてつくるような躍動感を感じる。

同じく台湾出身のアカデミー賞監督アンリー監督が台湾時代につくった「恋人たちの食卓」の美的感覚もすごい。ただし、これも一人でつくっている。飼っている鳥をしめて捌く。包丁の手捌きなども映像にうつるがすごい。比較した両作品いずれも完成した料理が美しいし、名作であることには変わりがない。でも、カメラワークの躍動感と究極のフレンチのすばらしさで「ポトフ」を最高の料理映画と推挙する。トランアンユン監督の手腕といえよう。


そういえば、比較作品を振り返って気づいたことがある。「バベットの晩餐会」「ポトフ」はいずれも女性シェフで、時代設定は奇しくもほぼ同時期である。「ポトフ」の解説に1885年のフランスとなっているが、そのセリフはない。ただ、1830年代半ばのワインを50年海底で寝かせたワインを飲むシーンがありそれで想像するのだ。「バベットの晩餐会」もパリの混乱でメイドが脱出してからの年数で推測する。

帝国主義の英国、ドイツは良くてもフランスとしては決していい時代ではない。その中でもまだ落ち着いていたのであろうか?トランアンユンの母国ベトナムフランスが主権を持つのも同じ年で2年後に仏領インドシナ連邦フランスの植民地統治となる。動きがある時代だ。そんな時代に厨房にガス?オーブンがあったのはすごいと思った。日本はほとんどないだろうなあ。

トランアンユン「夏至」などはグリーンがきれいな映画である。この映画も同じような感覚を持つが、印象派の絵画を連想させるような色とりどりの色彩で映し出す場面が続く。うなるような美しい映像だ。


主人公2人が主体の映画であっても、助手になる若い2人の女の子の使い方がうまい気がした。この辺りはトランアンユンの初期の作品を感じさせるうまさだろう。ただ、終盤に向けては少しストーリーがだれたかな?料理映画としては5点でも映画としては4点だね。最後に向けてのキッチン内の風景をぐるりと見せるカメラアングルは悪くないけど。

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