映画とライフデザイン

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映画「3つの鍵」 ナンニ・モレッティ

2022-09-20 20:27:09 | 映画(欧州映画含むアフリカ除くフランス )
映画「3つの鍵」を映画館で観てきました。


「3つの鍵(Tre piani)」はイタリアの名監督ナンニ・モレッティの新作である。自ら俳優としても出演している。原題は3階建という意味で、イスラエルの作家エシュコル・ネボの原作「Three floors up」ローマに舞台を移して、3階建分譲高級アパートメントに住む4つの家族に起きる出来事を描く。映像はある交通事故の場面からスタートする。

ある夜、猛スピードで走る車が女性を跳ね、3階建アパートメントに衝突する。女性は亡くなる。衝突した建物の3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアが運転していた。その事故を2階に住むモニカが外で目撃していた。でも、出産のため病院に向かう途中でかまっていられない。車が衝突した1階に住む夫婦は仕事場がぐちゃぐちゃだ。共働きなので向かいに住む老夫婦に娘を預けることになる。


ここから話を始める。この後、それぞれの家族で異常と思える行動をとる人物が出てくる。オムニバス形式で時間が経って話がつながっていくというのではなく、最初から少しづつ接触してつなぎ合っている

重厚感のある映画である。
最初に映る交通事故のシーンから不安を増長させる音楽が流れる。音楽から感じられるムードと映像でこの映画は格が違うなと感じる。ヴィジュアル、音楽両方ともトップレベルである。特にフランコ・ピエルサンティの音楽は絶品だ。

いくつもの家族の話をまとめるので、ストーリーのつなぎがぎこちない部分もある。それでも、逸話がいくつもあると、訳がわからない場合も多い。ここではそうならない。極端な人物をクローズアップしているので、頭の中に要旨が印象深く刻み込まれる。

ヴィジュアル的にはデザインが進化しているイタリアならではのオーセンティックなインテリアに包まれる。木の素材感を散りばめた素敵な天井高の高いアパートメントの部屋だ。主要場面では、タンゴの伴奏で奏でられるバンドネオンの音色を混ぜた音楽で観ているわれわれの視覚と聴覚両方を高揚させる。なんと素晴らしいのであろう。

⒈ナンニ・モレッティ監督の演出
ごく普通の男女がそれぞれ普段の顔と違う一面を持っている。その悪い部分をエピソードにして誇張する。映画を観ている方は登場人物が何でこんなことするのと思ってしまう。そう思わせるのがナンニモレッティの作戦だ。それぞれのストーリーごとに登場人物の心の揺れの方向を予想と違う展開に持っていき、楽しませてくれる。

逸話がいくつもあるが2つだけ抽出する。

⒉交通事故を起こした男
いきなりの交通事故を起こした男の両親はともに裁判官である。どちらかというと、母親の方が息子を強くかばう。本来であれば、事故により人を殺したわけである。もっと反省せねばならないのが普通だ。でも、そんな気配はないどころか、知っている裁判官を懐柔して刑を軽くしてもらってくれとしか言わない。

結局、反省の色のない息子を父親が見捨てていると感じ、息子は大暴れするのだ。一部の異常人物を除いては、どの観客も息子に同情しないであろう。また、そうなるような息子のパフォーマンスだ。悪い部分を誇張する監督の一面がでる。でも、このままではストーリーが終わらない。この映画では5年後、10年後の展開まで映し出す。善と悪のバランスを時の流れでとっていく。うまい。


⒊老人が娘にいたずらしたのではと想像をする男
一階に住む共働きの夫婦は娘を目の前に住む老人夫婦に一時的に預かってもらう。老人の夫の方は若干ボケが進んでいる。物忘れがひどいと老人と遊ぶ娘が気がつく。それでもまたその老夫婦に預けるのだ。ところが、娘と老紳士が行方不明になってしまう。懸命に探して、父親が娘と一緒に行ったことのある公園に行くといた。老人は倒れて失禁していた。その時点で、父親は、老人が娘に性的いたずらをしたのでは?と疑う

老人はボケが進んでいているのに疑い方が半端じゃない。老人は何も覚えていないという。母親はいたずらするなんてあり得ないと思っていても、父親は血相を変えて老人に挑む。普通じゃない。


この話おかしいんじゃないの?と思っているときに、老人の孫娘が留学先のパリから帰ってくる。この孫娘は父親に男として好意を持っていて積極的に近づいていく。別に罠にはめようとしているわけではないが、気がつくと男女関係に進んでしまう。とんだところで脱線していくが、結局破滅に進む。


他にも、出産まもない母親の妄想やその夫の兄とのいざこざなどまだまだ盛りだくさんだ。こんな複雑な人間関係の話が続くと訳がわからないはずだが、そうならない。それ自体がナンニ・モレッティ監督のうまさなのである。ローマの崇高な背景の中で、ヴィジュアルよく描写しているのをみると、気分が悪くなってもおかしくない話なのに引き込まれていく見事だ

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