映画とライフデザイン

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映画「死の棘」 松阪慶子&岸部一徳&小栗康平

2024-10-13 05:23:20 | 映画(日本 1989年以降)
映画「死の棘」を映画館で観てきました。

映画「死の棘」島尾敏雄の原作を小栗康平監督が映画化した1990年(平成2年)の作品、名画座の偏愛映画特集で観た。評判はいいが、DVDに長らくなかったので観るチャンスがなかった。その年のキネマ旬報ベストテン3位で、主演の松阪慶子と岸部一徳はいずれもキネマ旬報と日本アカデミー賞の主演女優男優賞を受賞している。全く予備知識なしに映画を観に行くと、島尾敏雄の私小説の映画化であることがわかる。夫の浮気で妻が精神の安定を崩す家族の物語だ。

1954年(昭和29年)の東京小岩、妻のミホ(松阪慶子)が夫のトシオ(岸部一徳)を部屋の中で強く責めたて死んでしまおうとまで言っている。トシオの浮気が発覚したのだ。2人は奄美大島で出会い結婚して子どもが2人いた。トシオは改心を誓い、浮気相手(木内みどり)に会いもう会わないと縁を切る。家庭の平和が戻ったように見えたが、思い出したかのようにミホはトシオを強く叱責する。やがて、環境を変えるために2人は田舎に転居したが、ミホがたびたび発作のように精神を狂わせる


松阪慶子と岸部一徳がまだ若い。その2人の演技合戦が見ものだ。
話自体はどうってことない。こんな話くらいで文学になっちゃうのか?という印象。どこにでもある浮気話だ。私小説だけど、妻が健在なうちによくこんなこと書いたなという感じもする。

戦後昭和20年代に建てられたと思しき板の外壁の平屋の家と付近の光景は映画が撮られた平成の初めまでは東京にも残っていた。映画ではセットとロケの場面を組み合わせる。部屋の中の古い調度品は平成の初めまでは各家庭にあった。小岩駅前の電柱には力道山対木村政彦の試合の掲示があるので昭和29年だとわかる。映画では2人の諍いが中心で、松阪慶子の狂ったような叱責が強烈だ。あまりの妻の狂いに呆れて夫が線路に飛び込もうとするシーンもある。小栗康平監督は2人に体当たり演技を要求している。


ただ、こんな感じで妻が夫を責めたてる構図は古今東西どこの家庭でも変わらない気がする。普通の会話を交わしていたのに突然妻が変貌するシーンがいくつかあっても、精神病院に行くほどまで自分には見えない。精神が不安定なのはわかっても発狂はしていない。途中でミホが麻酔注射を打たれて無理やり入院させられるシーンがあった時に、そこまでひどいのかなあと感じる。

いちばんの見せ場は、浮気相手(木内みどり)が周囲が心配しているからと言って、お見舞いと言いつつ遠方はるばる訪れるシーンだ。妻が怒り狂うのがわかっていてくる相手もバカだなと観ていて思うが、ここからの妻(松阪慶子)の暴れ方がすごい。本気モードでの取っ組み合いを小栗監督に要求されているのだろう。やられる木内みどりもたまったもんじゃない。演技指導もここまでくるとやりすぎと思ってしまうが、韓国映画ではよく見るマジな暴力シーンだ。

小栗康平監督作品「泥の河」はよくできている傑作と思ったが、こちらはそれなりかな。
コメント
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