ローレライ
なじかは知らねど 心わびて
昔の伝説(つたえ)は そぞろ身にしむ
寥(さび)しく暮れゆく ライン川の流れ
入日に山々 あかく映ゆる
美(うるわ)し少女(おとめ)の巌頭(いわお)に立ちて
黄金(こがね)の櫛どり 髪のみだれを
梳(す)きつつ口吟(くちずさ)む
神怪(くすし)き魔力(ちから)に 魂(たま)もまよう
漕ぎゆく舟ひと 歌に憧れ
岩根も見やらず 仰げばやがて
波間に沈むる ひと舟も
神怪(くすし)き魔歌(まがうた) 謡(うた)うローレライ
※なじかは・・・なぜか
※そぞろ身にしむ・・・なんとなくしみじみと思う
※神怪き・・・神秘的な
ハインリッヒ・ハイネの有名なローレライです。
ローレライはライン川流域の近くの水面から13mほど突き出た岩山で
流れが速く水面下に多くの岩が潜んでいるため航行中の船が度々事故を起こしました。
それを、ローレライに佇む金色の櫛を持った美しい少女に、船員が魅せられ、難破してしまうという伝説をもとにハイネが詩を作りました。
ハイネと言えば、ロマン派の詩人で、ゲーテやシラーとならぶドイツ史上最高峰の詩人です。
フランスの自由主義にあこがれ、英雄ナポレオンに夢中になったハイネは、1831年、パリに赴きます。社交界に出入りし、芸術家や文学者と華やかに交流しました。
フランスの詩人テオフィール・ゴーティエは、ハイネのことをこう書いています。
「年は三十歳すぎ。身体壮健で非常に美しい男。大理石のように広く白い無垢な額を、黄金色の巻き毛がいろどり、『ゲルマンのアポロ』と呼ばれるほど魅力的。はかなげな影をかもしだし、青い目は光と霊感を受けて輝いている」