僕の感性

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カインの末裔

2009-01-26 22:54:47 | 文学
有島武郎の「カインの末裔」という作品は神に呪われし者の生き様を書き綴っています。ただ馬車馬のように働くしかない仁右衛門がカインであり、幸せに決してさせまいという神の思し召しが、彼の運命の歯車を狂わせていきます。
他人と和合せず、粗野で荒っぽい仁右衛門は、再び雪の吹きすさぶ冬のさなか、放浪のたびに出なければならなかったのです。

「旧約聖書」にアダムの長男として登場するカインは、神が自分の供物ではなく、弟のアベルの供物を喜んだことを妬み、アベルを殺してしまいます。
 この人類最初の殺人を知った神は、彼を罰して流浪の生活を強いるとともに、彼の子孫が決して大地から収穫を得られないようにと呪いをかけました。
 こうして、カインの末裔(人間の一部)は、永遠に彷徨する宿命を与えられたのです。

 有島が「カインの末裔」において描こうとした事は、仁右衛門という奔放で野性的な生命が、社会の因習や拘束と衝突して葛藤する様子だったのです。
 そして、その衝突や葛藤は、有島武郎自らが体験してきた衝突や葛藤の隠喩だったのでした。

1923年、人妻、波多野秋子に恋愛感情を抱き、秋子の夫に脅迫され次第に死の淵に追いたてられていくのです。

 哀しい運命・・・カインと武郎