「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・01・04

2014-01-04 10:10:00 | Weblog


今日の「お気に入り」。

 「 私が新聞の読者の声欄を見るのは投書が新聞の鏡だからである。投書は没書になることを欲しないから

 常に新聞の論調に迎合する。五・一五、ニ・ニ六両事件のとき諸新聞はテロはいけないが、その憂国の至

 情は諒とすると書いたので投書もまた諒とした。写真入りで減刑嘆願書がこんなにきた、写真は血書だと

 あるからまねして血書するものが続出した。投書は集ったのではない、集めたのである。

 子細あって私は今年の卒業式の投書を見守っていたが異変を見た。『日の丸、君が代今年もなし』『起立

 はすれども斉唱せず』例年なら日の丸君が代反対の投書が他を圧するはずのところ、今年は反対五、賛成

 五相半ばしていた。明らかに新聞は動揺している。

 来年はどちらに迎合していいか投書家は迷うだろう。すでに三月十五日の『天声人語』は左右どっちつか

 ずの論調だった。今年のPTAの主婦は多く着席したままだったという。まだ日教組の申し子だが、来年

 はあたりをうかがって立ったり坐ったりする図を見せるだろう。
                                (『文藝春秋』平成十二年六月号)」

(山本夏彦著「最後の波の音」文春文庫 所収)


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