「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

井の中の蛙 Long Good-bye 2024・05・22

2024-05-22 05:22:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、今 読み進めている

 本の中から 、備忘のため 、抜き書きした 文章 。

  主人公 原田甲斐の股肱の臣 中達弥 の 独白 。

  主の命を受け 、名を 四郎 と改め 、幕府

 老中 酒井雅楽頭( この物語のラスボス )の屋敷

 内 、勘定部屋に職を得 、五年の長きにわたり 、

 その内情を探ろうと努め続ける 諜者の青年 。

  五年も経ち 、その間 、身の安全を脅かす事件 、

 波乱のひとつも起こらなれば 、決心も鈍り 、

 迷いが生じるのは 、自然であり 、人情である

 と思う 。

  引用はじめ 。

 「 かれらはみんな 、平常で安穏な生活の中にい
  る 。朝は健康な気分で眼をさまし 、家人が腕  
  をふるった食事をとり 、出仕すれば一日の事務
  に精をだす 、同僚とたのしく茶飲み話しをし 、
  こころよく疲れて帰る 。それから風呂にはいり 、
  子供をあやし 、美味い夕食を喰べて 、知人のと
  ころへ碁将棋をしにゆくか 、妻と二人でゆっくり
  酒にするかする 。寝間は静かで温かく 、眠りは
  さまたげられることもなく深い 。家計が窮屈だと
  か 、少しばかり出世がおくれているとか 、同僚
  とのちょっとした不和 、家族のあいだのつまらな
  い感情のもつれ 、などということのほかに 、た
  いした不満や不平もないだろう 。
   ―― それが生活というものだ 。
   玄四郎はそう思った 。
   世の中の大多数の人たちはそういう生活をしてい
  る 。そしてまた 、そういう人たちの中にはそう
  いう生活に飽きてもっといきいきした 、冒険や刺
  戟のある生きかたを求める者もある 。だが 、そ
  れは安穏で無事な生活の中にいて 、現実の仮借な
  さを知らないからにすぎない 。かれらのすぐ隣り
  にはべつの生活がある 。そこには生きることの不
  安や 、怖れや 、貧困 、病苦 、悲痛や絶望がせ
  めぎあってい 、悔恨や憎悪や復讐などのために 、
  心の灼け爛れるおもいをしている人たちがいる 。
  これらの人たちは 、渇いた者が水を求めるように 、
  静かで平安な生活にあこがれている 。どのように
  ささやかであろうと 、しっかりした根のある 、
  おちついたくらしがしたいのだ 。
   ―― このおれがそうだ 。
   玄四郎は心のなかで云った 。
   ―― おれ自身がその一人だ 。 」

  引用おわり 。

 

 

 

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