「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2005・08・20

2005-08-20 05:45:00 | Weblog

 今日の「お気に入り」は 、山本夏彦さん ( 1915 - 2002 ) のコラム集から 。

 「 日本人はあやまってばかりいる 。『 どうしてそんなにあやまるの 』と

  国民はけげんである 。また不服である 。韓国も北朝鮮も日本人を招いて 、

  また招かれて話をする前にまずあやまれ 、談判はそれからだと言う 。す

  ると日本人はあやまる 。
   こんなことを言われるのは 、先方に強い軍隊があって当方にないからで

  ある 。自衛隊があるじゃないかと言うが 、あんなもの軍隊ではない 。

   ひとむかし前 沖縄で自衛隊員の子弟なら学校へいれない と騒いだこと

  がある 。新聞は その気持をもっともだと言いたげだった 。自衛隊員が

  映画館で席につくと 、隣席の学生が つと立って『 税金泥棒 』と言って

  他へ移ったという話も聞いた 。
   このごろ聞かなくなったのは航空大惨事 、風水害にタダでかけつけて

  くれるのは自衛隊だけだからで 、それなら許してやろうという程度で

  ある 。

   およそ 国民の支持と敬意のない軍隊なら 、それは軍隊ではない 。違

  憲だの泥棒だのといわれている隊員が、一旦緩急あったとき 死んでく

  れると思うか 。図々しい 。三十六計逃げるにしかず 、三日と支えて

  くれないだろう 。

   わが国が 諸外国にあなどられ 、常にあやまっているのは背後に軍隊

  らしい軍隊がないからである 。いずれは 貸した金もとれなくなる 。

   ない袖は振れぬと相手国は居直る 。だから軍隊を持てと言えば蜂の巣

  をつついたようになるから言わない 。

   幸か不幸か日本は経済大国である 。その富はほとんど軍備に匹敵する 。

   背後に控えている莫大な『 円 』を 強大な軍隊と思え 。あるいは相手

  国に思わせよ 。

   この上は この円を武器に 、貸すがごとく 貸さざるがごとく 常にかけ

  ひきの具にしてはどうか 。古来金は 出すほうが強い にきまっている 。

   詫びて出すやつがあるか 。富を外交の手段にするのである 。再軍備

  できなければそうするよりほかないのではないか 。」

   ( 山本夏彦著「 世間知らずの高枕 」新潮文庫 所収 )


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