食道は体の中心部にあり、食べたり飲んだりした物を口から胃に受け渡す役割を担う。この臓器は飲酒の影響を受けやすく、がんを発症する。毎日酒を多く飲み続けると発症リスクが跳ね上がってしまう。特に顔が赤くなる人は要注意だ。早期に見つかれば内視鏡などで取り除けるが、進行してからだと大がかりな手術が必要になる。酒を控えることと早期発見が重要だと専門家は話す。(以下、日経ライフから一部抜粋)
『 「お酒を飲んで顔が赤くなる人は注意してほしい」。京都大学の武藤学教授はこう強調する。同教授らがまとめた研究などから、こうしたタイプの人は食道がんを発症するリスクが高いことが分かったためだ。
■50~60代に多く
食道は長さ約25センチメートル、太さ約2~3センチメートルの筒状で、壁の厚さは0.4センチメートルだ。この壁にできるがんを食道がんと呼ぶ。武藤教授らは健常者1000人と食道がんになった330人を詳しく比較した。内視鏡検査によって食道がどのくらいダメージを受けているか3段階に分けるとともに、飲酒すると顔が赤くなるかどうかで区別した。
飲酒量は日本酒換算で1日1合、2合、4合とゼロで分類し、それぞれの組み合わせでリスクをはじき出した。酒を飲んでも顔が赤くならず、1日の飲酒量はゼロ、食道のダメージも3段階の中で最も低い人の発症リスクを1とした。
調査の結果、食道のダメージが3段階で最も高く、顔が赤くなるタイプで1日4合飲む人の発症リスクは1721倍になった。2合でも751倍、1合では30倍だった。顔が赤くならない人は赤くなる人ほどリスクは高くないが、それでも食道のダメージが大きくて飲酒量が4合だと516倍になった。
酒を飲んで顔が赤くなるのは体質の差だ。アルコールは体内でまず「アセトアルデヒド」という物質に変わる。アセトアルデヒドは有害なので、酵素の働きで無害の酢酸に分解される。
食道にできたがん(京都大学の武藤学教授提供)
分解酵素の能力は遺伝子のタイプで異なる。能力が低いと体内に有害物質が長時間とどまり、顔が赤くなるとともに悪影響を及ぼす。分解能力が高かったとしても飲酒量が多ければ、処理が追いつかずにアセトアルデヒドが体内にとどまってしまうという。
食道がダメージを受ける原因も飲酒だ。熱いものを好んで食べたりするのもよくないという。いずれのケースでも食道の粘膜が傷つき、ダメージを受ける。
食道がんは国内で年間約2万人が新たに診断され、約1万2千人が亡くなっている。発症は50~60代に多く、女性よりも男性の割合が高い。国立がん研究センターがん対策情報センターによると、がんと診断されてから5年後にどのくらいの人が生存しているかを示す「5年相対生存率」は男性で32.3%、女性で41.3%だ。これに対し、胃がんは男女とも6割強、大腸がんは7割前後で、食道がんはかなり下回っている。
この理由の一つとして挙げられるのが、「患部の近くにあるリンパ節に転移する確率が大腸や胃より食道の方が2倍以上高いことだ」と大阪大学の土岐祐一郎教授は話す。食道の構造は単純だが背骨や気管、心臓、大動脈などに取り囲まれている。このため、患部を切除する手術では胸や腹などを開くケースが多く、体への負担が大きくなる。ただ最近は食道がんの治療成績が向上しており、「手術ができた場合、5年後の生存率は約5割になる」と土岐教授は説明する。
■病状に合わせ治療
初期は自覚症状がほとんどない食道がんだが、内視鏡検査などで早期に見つかれば、負担の少ない手術も可能だ。「早期に発見し内視鏡で処置した場合は5年後生存率が9割程度になる」(土岐教授)。また武藤教授によると、抗がん剤を投与する時期をうまく制御することで、手術成績を高めることもできるという。
抗がん剤や放射線治療も進化している。がんの進行度によるが、食道を温存しながら治療を進める方法も選べるようになりつつある。最近は手術、抗がん剤、放射線などの複数の専門医がチームを組んでがんと向き合う例も増えているという。患者は自分の意見を医師に伝えるとともに、よく相談して病状に合った治療法を選ぶようにしたい。
飲酒以外では喫煙も発症リスクを高める要因だ。野菜や果物をあまりとらない人も気を付けてほしいという。暴飲暴食を避けることも大切だ。そして、食べたり飲んだりする際にしみる、物がつかえる感じがする、食道に何かある感じがする、といった症状が表れた場合は放っておかず医療機関を訪ねることが欠かせない。 』
『 「お酒を飲んで顔が赤くなる人は注意してほしい」。京都大学の武藤学教授はこう強調する。同教授らがまとめた研究などから、こうしたタイプの人は食道がんを発症するリスクが高いことが分かったためだ。
■50~60代に多く
食道は長さ約25センチメートル、太さ約2~3センチメートルの筒状で、壁の厚さは0.4センチメートルだ。この壁にできるがんを食道がんと呼ぶ。武藤教授らは健常者1000人と食道がんになった330人を詳しく比較した。内視鏡検査によって食道がどのくらいダメージを受けているか3段階に分けるとともに、飲酒すると顔が赤くなるかどうかで区別した。
飲酒量は日本酒換算で1日1合、2合、4合とゼロで分類し、それぞれの組み合わせでリスクをはじき出した。酒を飲んでも顔が赤くならず、1日の飲酒量はゼロ、食道のダメージも3段階の中で最も低い人の発症リスクを1とした。
調査の結果、食道のダメージが3段階で最も高く、顔が赤くなるタイプで1日4合飲む人の発症リスクは1721倍になった。2合でも751倍、1合では30倍だった。顔が赤くならない人は赤くなる人ほどリスクは高くないが、それでも食道のダメージが大きくて飲酒量が4合だと516倍になった。
酒を飲んで顔が赤くなるのは体質の差だ。アルコールは体内でまず「アセトアルデヒド」という物質に変わる。アセトアルデヒドは有害なので、酵素の働きで無害の酢酸に分解される。
食道にできたがん(京都大学の武藤学教授提供)
分解酵素の能力は遺伝子のタイプで異なる。能力が低いと体内に有害物質が長時間とどまり、顔が赤くなるとともに悪影響を及ぼす。分解能力が高かったとしても飲酒量が多ければ、処理が追いつかずにアセトアルデヒドが体内にとどまってしまうという。
食道がダメージを受ける原因も飲酒だ。熱いものを好んで食べたりするのもよくないという。いずれのケースでも食道の粘膜が傷つき、ダメージを受ける。
食道がんは国内で年間約2万人が新たに診断され、約1万2千人が亡くなっている。発症は50~60代に多く、女性よりも男性の割合が高い。国立がん研究センターがん対策情報センターによると、がんと診断されてから5年後にどのくらいの人が生存しているかを示す「5年相対生存率」は男性で32.3%、女性で41.3%だ。これに対し、胃がんは男女とも6割強、大腸がんは7割前後で、食道がんはかなり下回っている。
この理由の一つとして挙げられるのが、「患部の近くにあるリンパ節に転移する確率が大腸や胃より食道の方が2倍以上高いことだ」と大阪大学の土岐祐一郎教授は話す。食道の構造は単純だが背骨や気管、心臓、大動脈などに取り囲まれている。このため、患部を切除する手術では胸や腹などを開くケースが多く、体への負担が大きくなる。ただ最近は食道がんの治療成績が向上しており、「手術ができた場合、5年後の生存率は約5割になる」と土岐教授は説明する。
■病状に合わせ治療
初期は自覚症状がほとんどない食道がんだが、内視鏡検査などで早期に見つかれば、負担の少ない手術も可能だ。「早期に発見し内視鏡で処置した場合は5年後生存率が9割程度になる」(土岐教授)。また武藤教授によると、抗がん剤を投与する時期をうまく制御することで、手術成績を高めることもできるという。
抗がん剤や放射線治療も進化している。がんの進行度によるが、食道を温存しながら治療を進める方法も選べるようになりつつある。最近は手術、抗がん剤、放射線などの複数の専門医がチームを組んでがんと向き合う例も増えているという。患者は自分の意見を医師に伝えるとともに、よく相談して病状に合った治療法を選ぶようにしたい。
飲酒以外では喫煙も発症リスクを高める要因だ。野菜や果物をあまりとらない人も気を付けてほしいという。暴飲暴食を避けることも大切だ。そして、食べたり飲んだりする際にしみる、物がつかえる感じがする、食道に何かある感じがする、といった症状が表れた場合は放っておかず医療機関を訪ねることが欠かせない。 』