食べ物をよくかむことは、消化や吸収を助けることはもちろん、肥満の予防や脳の活性化といった様々な効果が報告されている。子どもの頃につけたしっかりかむ習慣は、年齢を重ねてからの生活にいい影響を与えるかもしれない。(以下、日経ライフから一部抜粋)
『 かむことの効用は、子ども、成人、高齢者それぞれの世代にとって少しずつ違う。
子どもの乳歯が永久歯に生えかわるのは小学校低学年ごろから。あごの筋肉も発達してくる。飯田女子短大教授(長野県飯田市)の安富和子さんは「3~4歳になったら、しっかりかむ習慣をつけ始めるのが大事だ」と説明する。
安富さんらは保育園年長児の給食で、かむ回数と姿勢などの関係について調べた。園児たちにかむ回数をカウントする装置をつけてもらい、(1)体が正面を向いている(2)背筋がまっすぐ(3)いすに寄りかからない(4)足の裏が床についている(5)足がそろっている(6)茶わんをもっている(7)箸を正しくもっている――の7項目を調査した。
■早食いは禁物
食事を始めて10分後。「700回以上かめたグループ」では、7項目すべてに問題がなかった園児の比率が約4割あった。「400回以上700回未満」だと約2割、「400回未満」はゼロになった。正しい姿勢でないと力が入らず、かんでも数えられないケースが多いようだ。これは大人でも同じだ。
安富さんは「親が子どもによくかみなさいというだけでは、食事が楽しくなくなって逆効果。いい姿勢でよくかめば食べ物がおいしくなることを教えてほしい」と話す。ほかに食事で気を付けたいのが早食いをしないこと。一口でたくさんの食べ物を入れすぎないことも大事だ。我慢しきれずにのみ込んでしまい、かむ回数が減る。
成人になると、よくかむことは生活習慣病の予防との関わりでも軽視できなくなる。満腹中枢に働き掛けて食べ過ぎを防ぐほか、ストレスを軽減させる効果がある。成人男子に満腹になるまでおにぎりを食べてもらった実験がある。一口50回以上かんだ場合、普段と同じように食べたのと比べて食事時間は約2倍かかったが、茶わん1膳分少ない量で満腹になった。
歯科関係者などは一般的に一口あたり30回かむことをすすめている。ただ、食べ物によってやわらかさが違う。30回はあくまでも目安だ。のみ込む前にあと10回追加してかむのことを意識したい。また食事をする少し前にガムをかんでおくことも食べ過ぎを防ぐ効果がある。
東京医科歯科大学教授の水口俊介さんは、成人は「歯の組織が未成熟な子どもや唾液の量が少なくなる高齢者に比べて虫歯になりにくい。口の中の環境やしっかりかむことへの意識が薄れがち」という。しかし「この時期の取り組みが高齢になった時に残る歯の数や糖尿病などにかかるリスクに差をもたらす」と指摘。よくかんで食べることや、歯磨きを欠かさず、定期的に検診を受けることが重要と説明する。
■記憶力も左右
かむことの効果がとくに大きいのが高齢者だ。神奈川歯科大学などの研究チームによる調査では、2分間ガムをかんで記憶力に関する調査を実施したところ、60~76歳の高齢者では約2割で記憶力が顕著に上がった。若者はそれほど変わらなかった。様々な器官から刺激を受ける子どもや若者よりも、高齢者は口から受ける刺激が大きいと見られる。
高齢になるとかむ力が衰えるが、神経質にならなくていいそうだ。日本歯科大学教授で同大の口腔(こうくう)リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武さんは「巧みに口の中を動かせるかがより大事」と話す。
固いものを強くかみすぎると、顎関節症や歯の破折が起きて逆効果になることもある。かむことは咀嚼(そしゃく)という口全体の運動の一部。かんだ食べ物に舌をからめたり、頬を動かしたりしながら食べ物を口の中でまぜる――。高齢になるほど一連の動きをなめらかにできるかがポイントとなる。入れ歯にするとかみにくくなるが、慣れれば、かみ方を工夫できるようになる。
歯科医に行けば、ガムなどを使って咀嚼能力を判定してくれる。まず自分の咀嚼力やどういった部分が衰えているのかを知っておきたい。そのうえで菊谷さんは、家でも舌や頬を動かすトレーニングをすることを勧める。いつまでもおいしく食べ物を味わうには、日ごろからの鍛錬も欠かせないということか。
■精神面にもプラスの効果
高齢者では、食べ物をよくかめなくなることで引きこもりがちになったり、体調を悪化させたりするケースも多い。神奈川歯科大学の木本克彦教授は「食事を通して人とコミュニケーションを取ることはとても大事。社会参加できるようになり、認知症の予防効果も期待できる」と話す。
しっかりかめることが栄養面だけでなく、精神面でもプラスに働くことはほぼ間違いないようだ。木本教授は「かめないとあきらめるのではなく、義歯などをしっかり活用してほしい」と訴える。現時点でかむことと認知症予防の直接の関係ははっきり解明されていないが、今後一段と研究が進みそうだ。 』
『 かむことの効用は、子ども、成人、高齢者それぞれの世代にとって少しずつ違う。
子どもの乳歯が永久歯に生えかわるのは小学校低学年ごろから。あごの筋肉も発達してくる。飯田女子短大教授(長野県飯田市)の安富和子さんは「3~4歳になったら、しっかりかむ習慣をつけ始めるのが大事だ」と説明する。
安富さんらは保育園年長児の給食で、かむ回数と姿勢などの関係について調べた。園児たちにかむ回数をカウントする装置をつけてもらい、(1)体が正面を向いている(2)背筋がまっすぐ(3)いすに寄りかからない(4)足の裏が床についている(5)足がそろっている(6)茶わんをもっている(7)箸を正しくもっている――の7項目を調査した。
■早食いは禁物
食事を始めて10分後。「700回以上かめたグループ」では、7項目すべてに問題がなかった園児の比率が約4割あった。「400回以上700回未満」だと約2割、「400回未満」はゼロになった。正しい姿勢でないと力が入らず、かんでも数えられないケースが多いようだ。これは大人でも同じだ。
安富さんは「親が子どもによくかみなさいというだけでは、食事が楽しくなくなって逆効果。いい姿勢でよくかめば食べ物がおいしくなることを教えてほしい」と話す。ほかに食事で気を付けたいのが早食いをしないこと。一口でたくさんの食べ物を入れすぎないことも大事だ。我慢しきれずにのみ込んでしまい、かむ回数が減る。
成人になると、よくかむことは生活習慣病の予防との関わりでも軽視できなくなる。満腹中枢に働き掛けて食べ過ぎを防ぐほか、ストレスを軽減させる効果がある。成人男子に満腹になるまでおにぎりを食べてもらった実験がある。一口50回以上かんだ場合、普段と同じように食べたのと比べて食事時間は約2倍かかったが、茶わん1膳分少ない量で満腹になった。
歯科関係者などは一般的に一口あたり30回かむことをすすめている。ただ、食べ物によってやわらかさが違う。30回はあくまでも目安だ。のみ込む前にあと10回追加してかむのことを意識したい。また食事をする少し前にガムをかんでおくことも食べ過ぎを防ぐ効果がある。
東京医科歯科大学教授の水口俊介さんは、成人は「歯の組織が未成熟な子どもや唾液の量が少なくなる高齢者に比べて虫歯になりにくい。口の中の環境やしっかりかむことへの意識が薄れがち」という。しかし「この時期の取り組みが高齢になった時に残る歯の数や糖尿病などにかかるリスクに差をもたらす」と指摘。よくかんで食べることや、歯磨きを欠かさず、定期的に検診を受けることが重要と説明する。
■記憶力も左右
かむことの効果がとくに大きいのが高齢者だ。神奈川歯科大学などの研究チームによる調査では、2分間ガムをかんで記憶力に関する調査を実施したところ、60~76歳の高齢者では約2割で記憶力が顕著に上がった。若者はそれほど変わらなかった。様々な器官から刺激を受ける子どもや若者よりも、高齢者は口から受ける刺激が大きいと見られる。
高齢になるとかむ力が衰えるが、神経質にならなくていいそうだ。日本歯科大学教授で同大の口腔(こうくう)リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武さんは「巧みに口の中を動かせるかがより大事」と話す。
固いものを強くかみすぎると、顎関節症や歯の破折が起きて逆効果になることもある。かむことは咀嚼(そしゃく)という口全体の運動の一部。かんだ食べ物に舌をからめたり、頬を動かしたりしながら食べ物を口の中でまぜる――。高齢になるほど一連の動きをなめらかにできるかがポイントとなる。入れ歯にするとかみにくくなるが、慣れれば、かみ方を工夫できるようになる。
歯科医に行けば、ガムなどを使って咀嚼能力を判定してくれる。まず自分の咀嚼力やどういった部分が衰えているのかを知っておきたい。そのうえで菊谷さんは、家でも舌や頬を動かすトレーニングをすることを勧める。いつまでもおいしく食べ物を味わうには、日ごろからの鍛錬も欠かせないということか。
■精神面にもプラスの効果
高齢者では、食べ物をよくかめなくなることで引きこもりがちになったり、体調を悪化させたりするケースも多い。神奈川歯科大学の木本克彦教授は「食事を通して人とコミュニケーションを取ることはとても大事。社会参加できるようになり、認知症の予防効果も期待できる」と話す。
しっかりかめることが栄養面だけでなく、精神面でもプラスに働くことはほぼ間違いないようだ。木本教授は「かめないとあきらめるのではなく、義歯などをしっかり活用してほしい」と訴える。現時点でかむことと認知症予防の直接の関係ははっきり解明されていないが、今後一段と研究が進みそうだ。 』