TRASHBOX

日々の思い、記憶のゴミ箱に行く前に。

忘れられたワルツ/絲山秋子

2014年01月06日 | 読書とか

久しぶりに読む絲山さんの小説、短編7つからなる一冊。

少し読み進むうちに、堀江敏幸氏の『雪沼とその周辺』を思いだしていた。

関東近辺の、リアルなような架空なような町で

人が生きている輪郭が少しずつくっきりと現れてきて、

読み終えると、頭のなかに確実に、その都市の記憶が作られている。

小説の技って、こういうことなのだろうか。

 

『恋愛雑用論』は、その町の職場(決して「オフィス」ではなく)における物語。

主人公の持つ違和感は読み手の「この町、どこ?」という困惑とよく馴染み、

この短編集のプロローグとしても機能している。

面白いなと思ったのは、かなり読点(「、」)の少ない文体。

でもリズムがよくてズンズン読み進んでしまう。

ある種の「絲山節」ではあるけれど、この辺のスパイスの効かせ方が楽しい。

 

そして『強震モニタ走馬燈』のテーマと関係のない餃子や料理の美味そうな描写や、

『葬式とオーロラ』の枯れた寒そうな風景の上に、偶然の出会いが描くファンタジーなど。

なんだか一見普通の小料理屋と思って入ったら、

ひとひねり驚かせてくれる味付けに出会えた、みたいな感覚が楽しい。

 

『ニイタカヤマノボレ』は、どこか預言の書めいていて少し恐くもある。

ちょっと景気が上向いて見えるくらいで、考えることを止めていいのだろうか。

ここで取り上げられているアスペルガーに関しては、僕もある程度見聞きしているいる。

(ま、自分もかなり近いのでは。なのでその捉えられ方に若干の違和感もなくはない)

 

『NR』では、どこかカズオ・イシグロの『充たされざる者』を思いだした。

それほど遠いないはずなのに、何故か迷い込んでしまった未知の場所。

話者の三人称と登場人物の一人称のトリッキーな語り口にちょっとつんのめったが、

これはリアルな描写に非日常を忍び込ませるための著者の隠し味なのだろうか。

 

『忘れられたワルツ』は、少し屈折した家族の平熱時の風景。

面白い一篇なのだけど、何故表題作なのか読み込めなかった。再読時の宿題かな。

そして『神と増田喜十郎』の初老の男、これは好きだ。

なんて嘘くさくてリアルな物語なのだろう。

最後まで緊張感を持って読ませてくれた一冊。

短編集(単に個々の短編でなく)を読むのが好きな人には、お薦めです。

できれば側に好きな酒と片手で食べやすいツマミ、

例えば常温で美味しい日本酒と、手にべとつかないスルメでもあれば最高だなぁ。

忘れられたワルツ
クリエーター情報なし
新潮社
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