国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

天上に駆け上がるエモーション

2010年08月21日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
死を直前にしたジョン・コルトレーンは、
一体どんなことを思っていたのか?
最初で最後の日本公演が1966年の7月だ。
来日中のインタビューでコルトレーンは「休みが欲しい」ということを言っている。
帰国後、アリスと籍を入れ、生まれたばかりの子どもと新居に移っている。
ライブもツアーのような大規模なものはなくなり、
いくつもの企画が幻に終わってしまったようだ。

年が明けて1967年の2月にコルトレーンは
ニュージャージーにあるヴァン・ゲルター・レコーディング・スタジオに入っている。
ヴァン・ゲルター・スタジオは、
ジャズを聴くものならば一度は必ず聞いたことがあるだろう。
ブルーノートのエンジニアとしても有名なルディ・ヴァン・ゲルターの
私宅を改造したスタジオである。

そこで録音されたものが3枚のアルバムになっている。
『ステラ・レジオンス』と『インターステラ・スペース』、
そして公式盤として遺作ともなった『エクスプレッション』である。
今日の1枚はその中から『インターステラ・スペース』を取り上げよう。

これはコルトレーンとドラムのラシッド・アリのデュオの演奏である。
各曲には惑星の名が付けられ、どの曲もコルトレーンのベル(鈴?)で始まり、終わる。
そもそもラシッド・アリがスタジオに行ったとき、
コルトレーンから「今日は2人でやるんだ」ということを言われている。
つまりコルトレーン発案の企画であるといえよう。

コルトレーンはここではそれまでの曲を取り上げず、
テナー一本で勝負に挑んでいる。
どの曲も最初の1音があまりにも深く、あまりにも清らかだ。
そもそもそれは曲というよりもコルトレーン自身が激しく拡散をしていくかのようだ。
音が掠れようと、それがメロディーを形作っていなかろうと
テナーにすべてを託して、敷き詰められたリズムの上を滑っていく。
渦を巻き、天上へと一気に駆け上がろうとするその音の衝動は、
恐ろしくもありながら、逆にそれが美しくもある。

思わず僕は音をグッと上げなくてはいけないような気がする。
99%は分からない。でも残りの1%が「何か」心に引っかかるのだ。
感傷で聴くわけではない。
でもそこにはこのジャケットのように神々しい
「何か」を残したかったコルトレーンがいたのだ。