国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

僕たちはステップを止めることができない

2010年08月06日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
僕が音楽にどうしようもなく惹かれてしまうのは、
人間が生まれ持ってきた「鼓動」に関係しているからかもしれない。
人は必ず心臓を一つ持って生まれてくる。
心臓は休むことなく動き続ける。もちろん止まったら大変な事態だ。
耳を傾けてみれば、心臓が繰り出す鼓動は一定を刻んでいる。
時に早く、時に緩やかに、状況に合わせて鼓動は変わる。
そこにはリズムが生まれている。

ジャズは元々即興演奏を特化したものであった。
だが、叙情にリズムの追求も並行して行われるようになった。
より激しく、より複雑に、リズムは変化をしながらジャズのアドリブに華を添えていく。

マイルス大学を卒業したハービー・ハンコックは、
リズムの追求を電子楽器を使うことでより聴きやすく、
より人がのれるように進化をさせてきた。
アコースティックから離れて、
軽くなっていくそれをジャズと呼ぶには難しいかもしれない。
それが80年代に隆盛を極めたフュージョン時代である。

それまでジャズのビックグループに所属をしていた
ハンコックやチック・コリアなどの音楽も
ジャズからフュージョンへと進んでいくことになる。
これが良いのか悪いのかは簡単に判断はできないが、
今も生き残ることができたアルバムというのは思いの外に少ない。

今日はそんな残った中の1枚、ハービー・ハンコックの『ダイレクト・ステップ』だ。
聴けばそれが安易にジャズと言えるものではないことが分かるだろう。
ハンコックのエレクトリック・ピアノが炸裂し、
刻まれるリズムはどことなく単調である。
楽器本来の音色から切り離されてギューンと歪む音は、
確かに耳障りに聞こえる人もいるかもしれない。
だが、この単調なリズムがいつの間にか自分の心臓の鼓動と呼応を始める。
そこにエレピの軽やかでありながらも、
打鍵楽器としてこれまた刻み込まれるリズムが何とも言えない陶酔感を与えてくれる。

僕のお気に入りは「アイ・ソート・イット・ワズ・ユウ」だ。
何度もしつこいほどのリフが、終わるころには愛おしくなっている。
安直なれどもしっかりと胸の、しかも心臓に響くようなリズムがそこにある。

フュージョンというと毛嫌いをしてしまう人もいるかもしれないが、
未だに残り続けている物はそれだけの骨のある一品なのだ。