国道122号沿いの音楽喫茶 『ドルフィン』

さぁ、音楽を聴け!
コーヒーは自分で沸かして用意して…
そんな仮想の音楽喫茶

まだ見ぬ幻想のアメリカへ

2010年08月15日 | マスターの独り言(アルバムのこと)
「最近感動したアルバムは?」
唐突にBIGBOYのマスター、林さんに聞かれた。
「えっ」と脳内で最近聴いたアルバムを思い浮かべる。
これは誰もが知っている名盤を言うのがいいのか?
それとも聴いたことのないようなマイナー盤を求められているのか?
ジャズは時折こうやって人を困らせる。
で、結局「『フェイジング・ユー』です…」と答える。
「へぇー、キース・ジャレットの?」
会話はここで林さんが接客に追われることになり、終わるのだが、
確かに僕は最近『フェイジング・ユー』に取り憑かれている。

キースのアルバムを取り上げる際に欠かすのことのできないものが
『ケルン・コンサート』だ。
これを初めて聴いたときは、そのメロディーの美しさに
「これもジャズなんだ」と感嘆の息を漏らし、何度も聴き返した。
『フェイジング・ユー』もその流れで購入したから、
聴いてみて「う~ん、だいぶ違うなぁ~」と思った。

『ケルン・コンサート』は、クラシック的な耳を持っていると聴きやすい。
もちろん深いところまで聴き取るにはかなり苦労をしたのだが、
『フェイジング・ユー』は、これまたよく分からなかった。

ことあるごとに取り出して聴いてみるうちに、
ここ最近であるがぱっとその音が頭の中で流れるようになってきた。
1曲目の「イン・フロント」のつまずきそうなキースのピアノに
パーッと辺りが広がり、どこか草原のような大地が浮かび上がってくる。
風はカラッとするほどに乾いているが心地よい。
やがてキースが創り出すリズムが、クラシック的なピアノの美しさから離れ始めると…

中山康樹氏がこのアルバムのキースを「ボブ・ディランのようだ」と語っているが、
それが何となく分かる。
このアルバムのキースは「アメリカの土臭さ」を演奏しているのだ。
ただ耽美なだけではない。
じっくりと練り込まれたリズムや間は、
僕の知らない幻想の中のアメリカを感じさせる。

感動まではまだ到達できていない。
でも、その先に広い世界があると感じながら今日も聴いてしまうのだ。