脚本 佐藤五月、監督 野田幸男
幼い少女一人を残して、燃料店の家族4人が殺害される強盗事件が発生。現場に残された帽子は、近所のパチンコ店員のものだった。また、住み込みで働いていた男が姿を消しており、店員とも懇意にしていたことから、特命課は二人の犯行とみて行方を追う。
川崎にある男の実家を訪ねた紅林は、近所の子供たちとともに映った少年時代の写真を入手する。その写真で、一人だけ横を向いている少年と、それを気遣うような少女が気になった紅林は、写真の少女の行方を追う。写真を撮ったのは、当時、公害調査のために川崎を訪れていた学生であり、今は医師になっていた。医師を訪ねたところ、少年が横を向いていたのは咳き込んでいたためらしい。当時の少女の住所を聞いた紅林だが、家はすでに無かった。ドヤ街に暮らす父親のもとで少女の住所を知った紅林は、成長した女のもとを訪れる。しかし、女は写真を見ても「遠い昔のことで覚えていない」と答えるのみだった。
一方、桜井らは逃走したパチンコ店員の潜伏先を突き止め、逮捕する。尋問の結果、主犯は住み込みの男で、「知り合いの女が金に困っているから」と誘われたのだと証言するが、男の行方は知らなかった。
男が少女だけを殺さなかったことが、写真の少女と関係があるのではないかと考え、女を張り込む紅林。早朝は総菜屋、その後は夕方まで工場、さらに夕方からはスナックと、一日中働き詰めの女に、いつしか紅林は同情を寄せる。男と接触する様子もなく、見込み違いかとも思うが、他に男の立ち寄り先は無い。再び女を訪ねた紅林は、強引に部屋に上がりこむ。仏壇には幼い息子の遺影が立てられていり、亭主は行方をくらませて現在一人暮らしだという。部屋に電話はなく、外から連絡を取る手段も見当たらなかった。
一方、スナックに客として入り込んだ吉野は、女がかつてトルコで働いていたことを掴む。女の働いていたトルコを発見した紅林は、そこに男が通いつめていたことを知る。女がトルコをやめた理由を探ると、女が客を取っていた間に、喘息の発作を起して息子が死んでいたためだった。再び女の父親を訪ねた紅林に、ボケの兆候が見える父親は「近頃、娘が孫を連れて遊びに来てくれん」と愚痴をこぼす。辛い思い出の残る川崎を離れたいと思いながらも、父親を残して遠くにはいけない女の身の上を知り、これ以上追い詰めるたくないと弱気になる紅林。しかし、生き残った少女が暮らす施設を訪ね、少女が咳き込む姿を見たとき、すべてが一本の糸でつながる。
幼い頃から喘息で苦しんでいた男は、同じく咳で苦しむ少女だけを殺すことができなかった。同様に、最愛の息子を喘息で亡くした女は、同じ喘息持ちの男を見捨てることができないはず。そう考えた紅林は、「もしや、初めて女を訪れた夜から、すでに室内に男が匿われていたのでは」と気づき、女の部屋に踏み込む。そこでは、押入れの中で苦しむ男を看病する女の姿があった。必死で男を逃がそうとする女だったが、無情にも男は逮捕される。犯人を匿った罪で女を連行するに当たり、紅林はそっと息子の遺影を差し出すのだった。
川崎イコール公害というイメージや、トルコ(映像では音声カット)や燃料店など、時代を感じさせる一本です(放送は今から今から25年前の82年)。喘息持ちゆえに、どの職場でも「不健康そうな怠け者」との印象を持たれ、ほとんど友人のいなかった男。どんな事情があれど、4人を殺害した男の罪は大きいですが、公害の犠牲者にとっては、公害の発生源である企業はもとより、この国すべてが自分を追い詰めたと考えるのも無理はありません。男にとっては、同じ境遇に苦しむ女や少女を除いては、すべてが敵でしかなかったのでしょう。「私たちは同じ街で育ち、同じ工場の、同じ煙を吸って大きくなったんです」ラストシーンの女の台詞からは、公害の犠牲者同士にしか分からない絆が感じられます。そんな哀しい絆にすがる他はなく、それゆえに凶悪な罪を犯した男には、やはり同情を禁じえず、その原因となった公害に対し、改めて深い怒りを覚えるのです。
幼い少女一人を残して、燃料店の家族4人が殺害される強盗事件が発生。現場に残された帽子は、近所のパチンコ店員のものだった。また、住み込みで働いていた男が姿を消しており、店員とも懇意にしていたことから、特命課は二人の犯行とみて行方を追う。
川崎にある男の実家を訪ねた紅林は、近所の子供たちとともに映った少年時代の写真を入手する。その写真で、一人だけ横を向いている少年と、それを気遣うような少女が気になった紅林は、写真の少女の行方を追う。写真を撮ったのは、当時、公害調査のために川崎を訪れていた学生であり、今は医師になっていた。医師を訪ねたところ、少年が横を向いていたのは咳き込んでいたためらしい。当時の少女の住所を聞いた紅林だが、家はすでに無かった。ドヤ街に暮らす父親のもとで少女の住所を知った紅林は、成長した女のもとを訪れる。しかし、女は写真を見ても「遠い昔のことで覚えていない」と答えるのみだった。
一方、桜井らは逃走したパチンコ店員の潜伏先を突き止め、逮捕する。尋問の結果、主犯は住み込みの男で、「知り合いの女が金に困っているから」と誘われたのだと証言するが、男の行方は知らなかった。
男が少女だけを殺さなかったことが、写真の少女と関係があるのではないかと考え、女を張り込む紅林。早朝は総菜屋、その後は夕方まで工場、さらに夕方からはスナックと、一日中働き詰めの女に、いつしか紅林は同情を寄せる。男と接触する様子もなく、見込み違いかとも思うが、他に男の立ち寄り先は無い。再び女を訪ねた紅林は、強引に部屋に上がりこむ。仏壇には幼い息子の遺影が立てられていり、亭主は行方をくらませて現在一人暮らしだという。部屋に電話はなく、外から連絡を取る手段も見当たらなかった。
一方、スナックに客として入り込んだ吉野は、女がかつてトルコで働いていたことを掴む。女の働いていたトルコを発見した紅林は、そこに男が通いつめていたことを知る。女がトルコをやめた理由を探ると、女が客を取っていた間に、喘息の発作を起して息子が死んでいたためだった。再び女の父親を訪ねた紅林に、ボケの兆候が見える父親は「近頃、娘が孫を連れて遊びに来てくれん」と愚痴をこぼす。辛い思い出の残る川崎を離れたいと思いながらも、父親を残して遠くにはいけない女の身の上を知り、これ以上追い詰めるたくないと弱気になる紅林。しかし、生き残った少女が暮らす施設を訪ね、少女が咳き込む姿を見たとき、すべてが一本の糸でつながる。
幼い頃から喘息で苦しんでいた男は、同じく咳で苦しむ少女だけを殺すことができなかった。同様に、最愛の息子を喘息で亡くした女は、同じ喘息持ちの男を見捨てることができないはず。そう考えた紅林は、「もしや、初めて女を訪れた夜から、すでに室内に男が匿われていたのでは」と気づき、女の部屋に踏み込む。そこでは、押入れの中で苦しむ男を看病する女の姿があった。必死で男を逃がそうとする女だったが、無情にも男は逮捕される。犯人を匿った罪で女を連行するに当たり、紅林はそっと息子の遺影を差し出すのだった。
川崎イコール公害というイメージや、トルコ(映像では音声カット)や燃料店など、時代を感じさせる一本です(放送は今から今から25年前の82年)。喘息持ちゆえに、どの職場でも「不健康そうな怠け者」との印象を持たれ、ほとんど友人のいなかった男。どんな事情があれど、4人を殺害した男の罪は大きいですが、公害の犠牲者にとっては、公害の発生源である企業はもとより、この国すべてが自分を追い詰めたと考えるのも無理はありません。男にとっては、同じ境遇に苦しむ女や少女を除いては、すべてが敵でしかなかったのでしょう。「私たちは同じ街で育ち、同じ工場の、同じ煙を吸って大きくなったんです」ラストシーンの女の台詞からは、公害の犠牲者同士にしか分からない絆が感じられます。そんな哀しい絆にすがる他はなく、それゆえに凶悪な罪を犯した男には、やはり同情を禁じえず、その原因となった公害に対し、改めて深い怒りを覚えるのです。