特捜最前線日記

特捜最前線について語ります。
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第472話 嘘から出た殺人・結婚詐欺師に愛の手を!

2009年06月24日 02時14分33秒 | Weblog
脚本 宮下隼一、監督 天野利彦
1986年7月3日放送

【あらすじ】
高級マンションで発見された女性の他殺死体。被害者は生け花の先生で、死体には指輪を抜き取られた痕があった。近所でスーパーを営む姪夫婦の証言によれば、高価な指輪らしく、預金通帳や印鑑とともに、犯人が奪い去ったものと思われた。犬養と杉は、被害者が飾ってあった写真の老人に見覚えがあった。人を食ったようなその老人は被害者の婚約者らしいのだが、数日前に犬養らが出会ったときは、違う女とデートを楽しんでいた。
その女は高名な画伯の未亡人と判明。未亡人は「自分こそ老人の婚約者」と主張。被害者のことは「勝手に婚約者と言いふらす図々しい女」と罵り、老人のことは「彼は優しすぎるんです」とベタ惚れの様子。さらにもう一人、「我こそが婚約者」と主張する踊りの師匠のもとで、犬養は老人と再会する。
老人は「私も罪な男だね」と嘯きつつ、アリバイを主張。証明するのは未亡人と踊りの師匠であり、釈然としないものを感じつつも、老人を釈放せざるを得ない特命課。だが、老人は現場の遺留品であるキーホルダーに目を止め「これを持っていた男を知っている」と証言、「捜査に協力する」との名目で、犬養や杉を翻弄する。
一方、特命課の調べにより、老人が初老の女性ばかりを狙った結婚詐欺師だと判明。また、犬養は老人がゴミ箱に被害者の通帳を捨てるのを目撃し、参考人として取り調べる。老人は犯行を否定し、「通帳は被害者から押し付けられた」と主張。その後は黙秘を貫くが、アリバイを証言した二人に老人の正体を明かしたところ、アリバイは崩れる。老人は女たちのライバル意識を利用して、嘘の証言をさせていたのだ。
一方、桜井の調べで、老人に捜索願が出ていたことが判明。老人は熊本で妻と死別した後、男手ひとつで息子を育て上げ、医大に合格させた。だが、地元で開業して欲しいという老人の願いを裏切って、息子は大病院の娘と結婚。老人は寂しさを募らせた挙句、行方をくらませたのだ。その後、多忙の息子に代わって嫁が上京。嫁が語ったところでは、老人は持病のリューマチが悪化しており、そんな身体で殺人を犯せるものか、疑問が浮かぶ。
その後、被害者の指輪を質入しようとした男が発見される。人相は老人の証言と酷似していた。やはり真犯人は別にいるのか?特命課は似顔絵をもとに男を追う。
そんななか、老人の息子が上京。老人を心配してのことかと思いきや、「おかげで病院の評判はガタ落ちだ」と老人を罵り、嫁を連れ帰ろうとする。思わず「まだ殺人犯と決まったわけじゃない」と老人をかばう犬養だが、息子は聞く耳を持たなかった。
その後、特命課は似顔絵の男を発見。男は指輪を奪ったことは認めたものの「自分が訪ねたときには死んでいた」と殺人は否定。男が「犯行現場で老人を見た」と証言したことで、再び老人に対する疑惑が深まる。「本当のことを言ってくれ!」との犬養の説得にも「どうせ誰も信じちゃくれん。嘘つき人生のツケが回ってきた」と嘯く老人。だが、代わって取調べに当たった神代は、老人の寂しさを見抜いていた。「あんたは寂しかったんだ。同じく寂しい境遇にある女性たちと慰め合っていたら、結果として結婚詐欺になった、違うかね?」神代の言葉に心を開いた老人は、真実を明かす。その日、老人が被害者を訪ねたのは、押し付けられた通帳を返そうとしたのだった。だが、被害者は「ナスやキュウリに化けるより、二人のために使いたい」と、再び通帳を押し付けたという。
神代は、被害者の言葉から、スーパーを営む姪夫婦に疑惑を向ける。特命課の尋問に、姪夫婦は犯行を認める。二人は経営難から被害者に借金を申し込みに行ったが、赤の他人に通帳を渡したと知って激怒し、犯行に及んだのだという。
事件解決後、結婚詐欺罪で起訴される老人に、犬養は嫁からの「体に気をつけるように」との伝言を、息子からだと偽って伝える。その優しい嘘を見抜いて「詐欺師に向って下手な嘘を言うもんじゃない」と微笑む老人。その笑顔に、犬養は老人が再び他人に心を開こうとしていることを確信するのだった。

【感想など】
牟田悌三氏演じる老結婚詐欺師の人を食った態度の裏に隠した寂しさと、その心を開かせようとする犬養の優しさを描いた一本。デラシネ(フランス語でいうところの根無し草)を気取る老人のキャラクターが本作のキモだと思うのですが、正直なところ、うまく表現できたとは言い難い印象です。『ケンちゃんシリーズ』の父親役で知られ、特捜でも何度かゲストとして登場した(特に第336話「緑色の爪の娘たち」は印象的)牟田氏のキャラクターと、老結婚詐欺師のそれとが微妙に合ってないこともありますが、むしろ脚本に難があったように思われます。

脚本の意図としては、冒頭での犬養、杉との出会いのシーンから、老結婚詐欺師のキャラクターを印象づけようとしたようですが、果たしてどんな人物として印象づけたかったのか、今ひとつ伝わってきません。「なんとなく不愉快な人物」としか印象に残らないばかりか、最後までその裏に隠れた「寂しさ」が、具体的には伝わってこないため(本人や犬養、課長の言葉でしか伝わってこない)、「はじめは不快に見えた人物が、その内面が明らかになるに連れて、隠れていた魅力が際立つ」という、定番ながらも、うまくいけば効果抜群な展開につながってきません。これは被害者の女性も同様なので、「彼女の気持ちを考えたことがあるか!」という犬養の一喝も、どこか空回りしてしまっている印象です。

あんまりネガティブなことばかり言いたくないでのすが、今回に限っては、無理してでも褒めるところが見当たりません。なんか犬養主役編はこんな話が多いような印象があり、比較的脚本に恵まれている時田に比べると、ちょっと気の毒な気がします。

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